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澄の突然の言葉に驚いたように礼は息を呑んだ。
“あの日”と澄の口から発せられたことに動揺し、怯んだ。
「……なんで今更そんなこと」
「だって、二人が誤解してること知ったから」
「誤解って…、」
「誤解してるの、ずっと。私が大事なこと…何も話さなかったから」
澄の真剣な眼差しを受け、礼は自身を落ち着けるように深く息を吐き出した。
僅かに考え込むように目を伏せ、こちらを見つめる強い瞳を一瞥する。
「……じゃあ、あの日俺たちがしたこと、澄の口から言ってみろよ。あれが理由じゃないなら、言えるだろ」
「っ…、」
“あの日”
私たちがしたこと…
顔を伏せて黙り込んだ澄を見て、礼は口角を上げた。
ぐっと彼女に顔を近付け、俯く澄の表情を窺うように覗き込む。
「…言えないなら、教えてやろうか」
低く冷たい声が、鼓膜を揺らす。
「ーーあの日…、俺たちは三人でセックスをした」
「暑い夏の日、あの秘密の場所で」
「汗だくになりながら、溶けるように三人で交わった」
澄の目の前で冷たい声音を発すると、礼は口許を歪めた。
「思い出せたか?澄」
その問いかけにかぁっと全身を熱が駆け抜けた。
頬を真っ赤に染め、得も言われぬ感情が澄の中を支配していく。
「…そして次の日、お前は俺たちから離れて行った」
感情の込もらない瞳が澄をじっと見つめたまま、静かな低い声は事実だけを伝えるように発せられる。
あの日、あの場所で、三人で
何をしたのか。
「澄…、あれはお前にとって忘れたい記憶なんじゃないのか?お前にとっての汚点なんじゃないのか?俺たちは…、犯した過ちを後悔しながら生きてきた」
「欲しくて欲しくて堪らなかったものを、手にした瞬間失った」
手の中から零れ落ちるように、
あの日、すべてを失った。