式の前日-@


蒸気が立ち込める風呂場の中で、湯が張られた広い浴槽に躰を沈める二人の姿があった。

「さくぅ、明日は一日お出掛けしてるの?」

膝を抱えて背後にいる咲弥に躰を預けながら乃愛は顔を上げてそう尋ねた。
濡れた長い髪を湯に沈めて、気持ち良さそうにほんのりと頬を赤く染めている。

『ああ、明日は外せない用事があるからな。乃愛のところに来るのは遅くなるかもしれない』

「そっかぁ…、無理しないでね」

『大丈夫だよ、乃愛に元気もらってるから』

咲弥は目を細めて穏やかに微笑むと、後ろから乃愛の顔を覗き込むようにして彼女の肩に顎を乗せる。
お互いの素肌を密着させて湯に浸かるこの時間が、咲弥にとって最近の幸福な時間だ。
乃愛と一緒に風呂に入ることの心地よさを知ってからは、できる限り時間を作ってこのひと時を過ごすようにしている。

『…でも、今日は乃愛にお願いしたいことがある』

「え?咲のお願いごと?なになに?」

躰を反転させて嬉しそうに咲弥へと顔を向けると、乃愛は瞳を輝かせた。
改まってお願いをされるなんて、滅多にないことだ。
頼られているようで嬉しくなる。

『…ここ、キスマーク付けて』

整った綺麗な顔に薄っすらと笑みを浮かべながら、咲弥は自身の首元を指で示した。

「キスマーク?」

乃愛はきょとんとした顔で首を傾げると、咲弥へと疑問に満ちた視線を送る。
言葉の意味を理解していないようだ。

『教えてあげる』

そう呟いて乃愛の腰に手を添えると、剥き出しの白く透き通るような乳房へと唇を寄せた。

「んっ…、」

咲弥に吸い付かれた胸にチクりとした痛みが走り、乃愛は小さく声を漏らした。
この僅かな痛みと躰に感じる痺れは、よく知っているものだ。

『…これが、キスマーク』

乃愛の胸から唇を離した咲弥は、彼女の白い肌にくっきりと残った赤い痕を指でなぞる。
男とは思えない程の艶のある色気を漂わせ、不適な笑みで見つめられた乃愛は体温が上昇するのを感じた。

「私にも、できる…?」

『できるよ、やってみて』

咲弥に促されるようにして躰を寄せると、乃愛は指示された位置へとかぷっと噛み付いた。

『……乃愛、それは噛んでるだけだろ。少し痛い』

「違うの?」

『噛むんじゃなくて吸うんだよ』

乃愛はむむっと眉間に皺を寄せると、再び咲弥の首元へと顔を近付け今度は言われた通りにちゅうっと吸い付いた。
ちゅうちゅうと赤ん坊のように吸い付いたかと思うと、唇を離して首を傾げる。

「…咲みたいに付かない」

ほんの僅かに赤くなった痕を見て不満げにそう呟き、咲弥へと懐疑的な視線を向ける。
自分にはできないではないかと目が言っている。

『乃愛、そんな顔するなよ。できるから、もう一回やって』

「…でも、上手くできないよ」

『……頼むよ、今日だけ。俺がお前のものだって、証拠が欲しい』

普段とは違う咲弥の様子に気が付くと、乃愛は寂しそうに笑う彼の顔をじっと見つめた。

「咲は、私のものなの…?」

『…そうだよ。俺のすべては、乃愛のものだよ』

その言葉に乃愛は何かを考えるように暫く動きを止めていたかと思うと、浴槽に膝を付いて咲弥の肩へと手を乗せた。

「…咲は、私のもの…」

小さく呟いて、咲弥の首元へと唇を寄せる。
先程より強い力で肌へ吸い付いて唇を離し、何度か同じ行為を繰り返す。
そうしてやっとのことで咲弥の肌にくっきりとした赤い痕を付けると、そっと指で触れた。

「できた…、」

乃愛が嬉しそうに顔をほころばせるのと同時に、咲弥は彼女の片脚と腰を掴んで自身の方へと密着させた。
躰が傾き腰を引き寄せられたことにより下半身に咲弥の熱い塊を感じ、これから何が起こるかを乃愛は察する。

「あっ…!咲っ…、待って」

『ありがとう、乃愛。嬉しいよ』

抱きかかえられるようにして躰を支えられると、秘裂に押し当てられた咲弥自身がゆっくりと乃愛の中へと侵入を開始した。





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