蓮と蒼井の話は数日経っても納まることはなく、それどころかどちらかと言えば告白をした蒼井を応援しているクラスメイト達により、文化祭の準備中は何かにつけて蒼井とペアを組まされた。

何を言っても無駄なこの状況に、文化祭が終われば落ち着くだろうと蓮もいちいち拒むのを諦めた。

「…おい、どこ行くんだよ、浅見」

教室とは別の方向に向かって歩き出した蓮を、蒼井は低い声で呼び止めた。
例によってペアを組まされ職員室で担任の松本から文化祭の資料を受け取った蓮と蒼井は、三階にある教室に戻る為に廊下を歩いていた。
途中で何も言わずに教室とは別方向の渡り廊下へと足を踏み出した蓮は、慌てて蒼井の方に振り返った。

「ちょっと、飲み物買って来るから先に戻ってて」

「ふーん…、んじゃあ俺も」

「え、あ、私が買って来てあげるから…!」

「んなこと言って、宮藤のとこに行くんじゃねーの?」

お見通しと言わんばかりの言葉に、蓮はぎくりと肩を震わせた。
まさにそのつもりだった。

「…ごめん。だめ…かな…?」

「準備サボってまで行く必要あんの?」

「う…、そ、それは…ない、けど…」

「じゃあ戻んぞ」

短くそれだけ言って背を向けた蒼井を見て、蓮は唇を噛み締めた。
今こうしている間もクラスメイトが準備を頑張っている最中なのだから、宮藤の所に行くのがダメだと言うのは分かる。
はぁと小さく溜め息を漏らしてとぼとぼと後ろを付いて歩くと、前を歩いていた蒼井が唐突に足を止めた。

「…いつから宮藤と話せてないんだよ」

「え?」

「この間話せてないって、泣き言言ってただろ」

「あー…うん。一週間以上…話せてないです…」

しょんぼりと項垂れた蓮の様子に蒼井は呆れたように息を吐き出すと、文化祭についての注意書きが書かれた紙を蓮の手から抜き取った。

「行って来いよ、うじうじされてても鬱陶しいから」

「え、いいの…?」

「少しぐらい別にいいだろ。クラスの奴には適当に言っといてやるよ」

「蒼井…優しいじゃん…」

「うっせーな…、多少は悪いと思ってんだよ。お前が宮藤とのこと言えないのをいいことに、わざと教室であんなこと言ったからな」

「やっぱりわざとだったんだ」

蓮が不満そうに唇を尖らせる姿を見て蒼井は口角を上げ、「早めに戻れよ」と一言だけ言って教室の方へと歩いて行く。

まるで掴み所のない蒼井の背中を、蓮は複雑な心境で見送った。



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