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真っ直ぐに純粋な瞳を向けられ、宮藤はたじろいだ。
そう聞かれるとそうなのだろうが、「はいそうです」と素直に頷ける程、宮藤は人間ができていなかった。
そもそも彼は女性に「好き」だと言葉で伝えた事など一度もないのだ。
そんなことを思ったことがあるかどうかも正直怪しい。
「…言わなくても分かるだろ、そんなこと」
思わず視線を逸らし、言葉にする事ができない男の常套句みたいなことを口にする。
女子高生相手にみっともないとも思うが、こればかりはどうしようもない。
ちらりと蓮の方へと視線を戻すと、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ている彼女と目が合いぎょっとした。
「浅見、泣くなよ」
「だって…、分かんないよっ…、先生っ…」
堪えるように唇を噛み締めているが、涙がぽろりと頬をつたい落ちた。
目にいっぱいの涙を溜めた蓮が、真っ直ぐに宮藤を見つめている。
「私…、先生に振られたよっ…。先生は、私のことどう思ってるのっ…?言葉にしてくれないと、分からないよっ…」
“言葉が欲しい”
そう言われたことは何度もあった。
その度に面倒だとはぐらかしてきた。
それで終わりになろうが、別にどうでもよかった。
本当にこの少女は、どこまでも人の感情を揺さぶってくる。
自分のせいで泣いているのかと思うと、酷く苦痛だ。
嬉しそうに笑っている姿を見たいと思う自分がいる。
宮藤は困ったように眉を寄せて苦笑すると、蓮の後頭部に手を添え、唇に優しく触れるだけのキスをした。
「−…好きだ」
「お前を振ったあの日に気付いた。いつの間にか、俺の中でお前の存在がでかくなってた」
静かな言葉でそう告げると、驚いて呆然としている蓮へときまりが悪そうな笑みを向けた。
「俺にここまで言わせたのはお前が初めてだぞ」
言った瞬間、ぽろぽろと蓮の目からは涙が無数に流れ落ち、最早自分では止める事などできないくらいに感情が溢れ出す。
「…おい、なんでまた泣くんだよ」
「っ…だ、って…、う、嬉しくてっ…」
「…お前は嬉しくても泣くのか」
こくこくと小さく頷く蓮を目の前に、宮藤は息を吐き出した。
服の袖で涙を拭っている蓮を片手でそっと自分の方へと引き寄せると、すっぽりと腕の中へと包み込む。
「…こんな言葉ひとつでお前が喜ぶなら、口にするのも案外悪くないな」
そう言って悪戯に笑う宮藤の姿に、蓮は堪らず背中にぎゅっと腕を回して胸へと顔を埋めた。
温かい宮藤の体温が、夢ではない事を確信へと変える。
「先生っ…、すきっ…」
「……知ってる」