「……浅見、なに泣いてんだ」

ベッドの横にしゃがみ込んで静かに泣いている蓮の姿に、躰を起こした宮藤は眉を寄せた。
人の気配を感じて目を覚ましたかと思うと、ついさっきまで元気に笑っていた筈の彼女がしくしくと泣いているのだから意味が分からない。

「どうした?まさかどこか具合が悪いのか?」

涙に濡れた顔を上げた蓮は、首を小さく横に振った。

「…じゃあ、なんなんだ?お前、どうせ泣くならもっと泣いてますアピールしながら泣けよ。心臓に悪いだろ」

「…ご、ごめんなさいっ…」

ぐすっと鼻をすすって俯く蓮の姿に宮藤は困ったように息を吐き出すと、ベッド横にいる彼女の頭を優しく撫でる。

「なんでもいいから、ちょっとこっち来い」

ぶっきらぼうにそれだけ言うと、蓮の腕を掴んでベッドの上へと強引に引き上げた。
自身の前に座らせ、戸惑うように視線を彷徨わせている彼女の顔を確認するように覗き込む。

「俺は女の気持ちを察してやれるようなタイプじゃない。何かあるならちゃんと言ってみろ」

宮藤の言葉に俯いていた蓮は目線だけを上げ、指先をもじもじと絡めて考えるような素振りを見せた。
鋭い視線に見つめられ、逃げ道などないこの状況にゆっくりと口を開く。

「先生…、あの…今日、一緒に寝てもいい…?」

予想外な言葉が発せられ、宮藤は怪訝な顔で自分の目の前で気まずそうにしている相手を見つめた。
もとよりそのつもりだったのだが、まさかそんな事で泣いていたのだろうか?
考えるように眉間に皺を寄せて黙り込んでいると、蓮は慌てたように首を横に振った。

「あのっ、ちゃんと月曜日からは今まで通りにするから…!勘違いとかしないから…、だから、あの…今日だけ。もう先生に迷惑かけないようにするからっ…」

必死になってそう言う蓮の姿を見て、合点がいった。


―…なるほど、そういうことか。


「…お前、ちゃんと覚えてないのか?」

「え?」

「だから、俺が言ったこと覚えてないのかって」

「…先生が言ったこと、って…?」

眉を下げたまま首を傾げる様子に、宮藤は眉間を押さえた。
リスクを背負うと言ったのも、他の男のものになるのが嫌だと言ったことも、覚えていないというのだろうか。
もしくは、あれでは伝わらなかったということか?
宮藤なりの精一杯の告白のようなものだったのだが、あれではダメだと言うのだろうか。
この自分にとって規格外の少女は、これ以上何を言わせる気だと言うんだ。

「…お前なぁ。俺がなんとも思ってない女子高生と、セックスすると思ってんのか?あの状況だったとしても、相手がお前じゃなきゃ俺は手なんか出さなかった。冷たいと言われようが、授業に戻る方を選んでたぞ」

何も伝わっていなかった事に不機嫌になりながらも言葉を吐き出すと、蓮は言葉の意味を考えるように瞬きをした。


「……先生は、私のことを好きってこと…?」




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