風呂から上がって髪をドライヤーで乾かし終えた蓮は、リビングへと向かった。
身長180cmを超える宮藤から借りた厚手のTシャツは、お尻の辺りまでをすっぽりと覆い隠し、袖の部分は蓮の手よりやや長い。
細身の引き締まった体型をしている宮藤だが、女の自分が着るにはやはりサイズが大きいのだなと思うと、なんだか気恥ずかしくなってくる。

「せんせー、お風呂上がったよー」

廊下からリビングへと続く引き戸を開けて部屋に入ると、そこに宮藤の姿はなかった。
テーブルの上に置かれたコンビニの袋が、彼が帰宅している事を告げている。

「せんせー?」

不思議に思って首を傾げつつも、テーブルに置かれた袋の中を覗き込んだ。

「プリンだ!」

袋の中に入った複数のプリンを発見し、蓮は大喜びでそれを手に取った。
とても買って来てはくれそうにない態度だったというのに、リクエストしたプリンがしっかりと用意されている。
自分の為に買って来てくれたのだと思うと、気持ちが舞い上がる。

…しかし、ひとつ疑問が。

「…なんで四個もあるんだろ」

種類の違うプリンが四個もある。
まさか、先生もプリンが好物なのだろうか。
疑問を浮かべながらプリンを眺めていると、ソファ横にある引き戸が開いている事に気が付いた。
リビングの横に隣接した部屋があり、蓮は恐る恐るその部屋を覗き込む。
そこにはダブルサイズのベッドがどーんと鎮座し、その上で宮藤が仰向けになって微かに寝息を立てていた。

頭の下に左手を入れ、もう一方の手は腹の上に置かれている。
その手に文庫本を持っていることから、読書の最中に寝てしまったのだろうと蓮は推測した。

こんなにも無防備に寝ている宮藤を見るのは初めてだった。
このチャンスを逃すまいと宮藤のいるベッド横へと近付き、しゃがみ込んでまじまじと寝顔を見つめてみる。

整った綺麗な顔立ちは、寝ている時でも変わらない。
普段無愛想な表情ばかりしている事が多いからか、寝顔はなんだか可愛らしいとさえ思える。

この奇跡のような時間が、ずっと続けばいいのにと思った。

「……ばかみたい、」

そんなことは無理だって、分かっているのに。

宮藤がした事は、自分を助ける為にしたものだ。
何かを期待しているわけじゃない。
初めての相手が宮藤で、今こうして一番近くにいられている。
それだけで、十分幸せなことなのだ。

自分を納得させるように頭の中で言い聞かせていると、いつの間にか涙が頬をつたっていた。
どうして涙が出るのだろうか。
こんなにも幸せだというのに。

「っ…、」

堪えきれなくなった涙は、ぽろぽろと無数に零れ落ちてくる。
両腕で隠すように顔をベッドに伏せると、肩を震わせた。

今日みたいな日は、二度と訪れない。

そのどうしようもない事実を思うと、涙が止まらなかった。




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