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宮藤によって躰を抱きかかえられると、蓮はびくりと躰を震わせた。
触られたところからもどかしいような快感が押し寄せる。
「…さすがに、お前が言わなきゃ俺は動けない」
いつもの無愛想な表情でそれだけ言うと、しゃがみ込んだままの蒼井へと視線を向ける。
「連れてくぞ」
「…本当にいいのか?教師だろ、アンタ。今この場だけ助けたいって気持ちならやめた方がいい。無駄に期待させても、浅見が苦しむだけだぞ」
蒼井の言葉に蓮の躰が強張った。
こればっかりは最もな意見だ。
何より教師の宮藤にとってはリスクが高すぎる。
「…まぁ、確かに。つっても俺は失って困るものはほとんど持ち合わせていない。迷惑かけるような身内もいないしな」
何でもない事のように言うと、宮藤はにやりと口角を上げて自身の腕の中にいる蓮を見つめた。
「浅見…リスク、背負ってやるよ。俺はどうやらお前が他の男のものになるのは嫌らしい」
思いもよらない言葉に、蓮は目を丸くした。
働かない思考をなんとか動かし、意味を理解しようと努める。
「せんせぇ…」
聞き間違いだろうか。分からない。
ただ今は自分を見つめる穏やかな瞳に、すべてを委ねてしまいたい。
蓮は宮藤の首に腕を回してしがみ付くと、声を押し殺して涙を流した。
「…お前、声を出さずに泣くよな。我慢するのが癖なのか?」
そう言って困ったように苦笑する宮藤をじっと見ていた蒼井は溜め息混じりに立ち上がると、ポケットから携帯を取り出し時刻を確認した。
「…まだ時間はあるな。じゃあ俺は教室に戻るんで、アンタの事は戻れなくなったことを適当に言って自習にしておくよ。浅見のことはよろしく」
「は?やけにあっさりだな」
「…俺の負けだろ、どう考えても。俺は別に浅見を傷付けたいわけじゃない。アンタにその気があるのなら何の問題もないんだよ」
「…こんな小細工使ったのも、浅見の為なのか?」
「まさか。自分の為だよ。どう考えても俺のものになったはずなのにな。まぁでも、一応金曜のこの時間にしてやったのは感謝してほしいね」
含み笑いで蒼井は言うと、教室の方へと向かって歩き出した。
金曜の、この時間…?
「―…って、六限目は俺に授業がないってこと知ってんのか。授業がなかろうが仕事はあるんだが…」
「そこまでは知らない。せいぜい後で説教されろよ。ついでに見つかるようなヘマもしないでくれよ、先生」
馬鹿にしたような笑みを浮かべてそれだけ言うと、蒼井はひらひらと片手を振りながら二人をその場に残して廊下を歩いて行った。
「……職員室に顔出さねーと、また何を言われるか…」
うんざりしたようにそう呟くと、自分にすべてを委ねてしがみ付いている蓮を抱く腕に力を込めた。