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「…っ…ひどい、よ…」
全身を掻きむしりたくなるような衝動、服が擦れることすら最早刺激にしかならないこの状態で、蓮は俯いたまま小さく声を絞り出した。
「せん、せいには…、迷惑かけないって…約束、したのにっ…」
ぽたぽたと涙が落ちては、スカートに染みを作っていく。
泣きながら宮藤の置かれた状況を案じる発言に、蒼井は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「迷惑なんてかけてないだろ。校内で体調を崩した生徒を心配するのは教師の仕事であって迷惑じゃない。迷惑だって思うなら今すぐ授業に戻ればいい。ここから先は、教師の仕事じゃないからな」
強い口調でそれだけ言うと、蒼井は蓮の前へと手を差し出した。
「浅見…、そんなに宮藤に迷惑をかけるのが嫌なら、俺と一緒に来いよ。俺ならお前を楽にしてやれる。宮藤のことはきっぱり諦めろ」
目の前に差し出された手を見つめ、涙に濡れた顔を上げた。
…ずるい。
選択せざる得ない状況を作られた。
自ら宮藤を選ぶという選択肢はない。
ほとんど強制的に宮藤を諦め、蒼井のものになるよう仕向けられた賭けだった。
“楽にしてやれる”
甘美な誘惑が、蓮の心を大きく揺さぶった。
考える思考をほとんど奪われ、今すぐにこの躰の疼きを満たしたい欲望が全身を支配する。
触りたい、触ってほしい。
ずくずくと何度も押し寄せる下腹部の痺れを、中から掻き回して満たしてほしい。
真剣に自分を見つめる蒼井と視線を合わせると、もう一度差し出された手へと目を向ける。
震える手で目の前にある蒼井の手を取ろうとした瞬間、宮藤の手によって手首を掴まれ行動を制止された。
「…浅見、お前なにやってんだ」
すぐ横で響いた咎めるような声の方へと蓮はゆっくりと顔を向ける。
「自分が何してるか分かってんのか?こいつと行くって事が、どうなることか分かってるんだろうな?こんな奴に、いいようにされんなよ」
「……で、も…」
「お前はそれでいいのか?本当にこいつでいいってのか?」
…なんで、そんなこと…。
いいわけがない。
本当に求めているものは、今自分の瞳に映っているのだから。
そんなこと聞かないでほしかった。
縋りついてしまう。
望みなんてないと、もう一度はっきり言ってほしかった。
「っ…せんせいっ…、先生が、いいっ…。先生がいいっ…、先生じゃなきゃ…、いやっ…」
ぽろぽろと涙を溢しながらそう訴えると、背中に温かな手のぬくもりが触れた。
「…だったら、最初からそう言えよ」
不機嫌な声と共に、蓮の躰はふわりと浮いた。