異変が起こったのは、授業開始から十分くらいが過ぎた頃だった。


じんわりと下腹部が熱を持ち、痺れにも似た疼きが蓮の躰を支配し始めた。
蒼井の手によって塗り付けられたあの得体の知れないクリームが、躰に溶け込んでいくような感覚に襲われる。


なに……?


じんじんとした熱が膣の内側から次々と痺れを生み出し、じゅわっと中から体液が溢れ出す。
ひと際敏感な突起までもが熱く躰を火照らせ、蓮は堪らず太腿を擦り合わせた。

一言も逃すまいと聞いていた宮藤の心地良い低い声が、どんどんと遠ざかっていく。
意識のすべてが下腹部へと集中し、蓮の口からは吐息が漏れ出した。

陰部へと意識が持っていかれると、どくどくと心臓が鼓動を速めた。
自分の感情とは関係のないところで、誰かに聞こえてしまうのではないかという程の心臓の音が聞こえる。

おかしい。
そう思った時には遅かった。
堪えきれない程の感覚が陰部を刺激し、思わず腕で隠すように顔を机へと伏せた。

「っ…、」

今にも口からとんでもなく場違いな声が漏れ出そうになり、唇を噛み締める。

“躰を張るのはお前だ”

蒼井は確かにそう言った。
それは、もう終わったことだと思っていた。
キスをされたことも、陰部を触られたことも、すべてそれで終わりだと思っていた。

違った。
すべてはこうなる為に行われた行為だった。
悟ったところで、今更遅い。
躰全身を覆い始めた快楽の波が、この場にいる事を拒否している。

これ以上この教室に居座れば間違いなく声が漏れ出し、あられもない姿をクラス中に晒すことになる。


なんでもいい、この場から離れる許可を先生にもらいたい…


少しでも声を発すれば、それは喘ぎに変わりそうな勢いだった。
震える手を挙げて、宮藤へと体調不良を訴えようとした時だった。


「先生―、浅見が体調悪そうです」


真後ろから聞こえた蒼井の声に、蓮の躰は硬直した。
クラス中の視線が、一斉に蓮の方へと向かう。

「なんだ浅見、大丈夫か?」

宮藤の視線が自分に向いた途端、下腹部から再び愛液が溢れ出す。
下着がぐっしょりと湿っていることなど、最早どうでもよかった。

「…顔赤いな、熱があるんじゃないか?保健室行って来ていいぞ」

「は、い…」

これは、蒼井からの助け船なのか。
宮藤を試すというのは、この瞬間のことなのか。

徐々に働かなくなってきた思考をなんとか回転させながら、蓮は躰に刺激を与えないようにゆっくりと立ち上がった。

「っ…」

動くと擦れる。
それだけで躰が震えだす。

机に両手を付いて苦しそうにしている蓮の様子を見て宮藤が距離を詰めると、後ろの席にいた蒼井が徐に立ち上がった。

「浅見一人じゃきつそうなんで、俺が保健室に連れて行きますよ」

蒼井が申し出たことにより宮藤は動きを止めると、蓮の方へと視線を向ける。

「…分かった、付き添い頼む。保健室に連れて行ったらお前はすぐに戻って来いよ」

「へーい。行くぞ浅見」

蒼井に腕を掴まれ、半ば強引に机から離れた。
手で口許を覆い、なんとか声を出さないようにと刺激に耐える。


せんせい…、せんせい…、


自分を心配して向けられたあの瞳が、ただただ恋しい。
蒼井に連れられて教室を出る間際に、思わず振り返った。
こちらを見ていた宮藤と一瞬視線が絡むと、そのまま教室を後にした。




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