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「…浅見、大丈夫か?」
壁に手を付きながらゆっくりと人気の無い廊下を歩く蓮の姿に、少し前を歩いていた蒼井は怪訝な表情で首を傾げた。
「そんなにやばいのか?」
はぁはぁと息を吐き出しながら辛そうにしている蓮の方へと近付き、顔を覗き込む。
真っ赤な顔で汗を掻いている様子にさすがに心配になり、蒼井はそっと彼女の頬に触れた。
「っ…!や、あっ、ぁっ…」
瞬間、普段聞いたこともないような甘い声を発しながら、蓮は躰をびくびくと痙攣させた。
とろりと垂れ下がった瞳が蒼井を映したかと思うと、脚から力が抜けたようにずるずると躰を壁に擦りつけてぺたりと地面に座り込む。
「浅見……、お前まさか今イッたのかよ?」
力なく座り込んだ蓮と視線を合わせるようにしゃがみ込むと、目の前で呼吸を乱して小さく喘ぐ声が淫猥な響きを含んで蒼井の聴覚を刺激する。
「弱い薬にしたんだが、相性が良すぎたみたいだな」
「ぁっ…、も、や…だ…」
「…お前、なんつー顔してんだよ」
情欲に潤んだ蓮の瞳を覗き込むと、蒼井は眉を寄せて困ったように口許を歪めた。
思っていた以上に性的欲望に支配された彼女の姿はこちらの本能を揺さぶってくる。
「…つ、らい…、助けてっ…。触っても、い、い…」
「触りたいのか?…まだ、待て。ここじゃまずい」
「せんせっ…、先生っ…」
「…宮藤は来ない、授業中だ。お前の異変に気付いて付き添わなかった時点でもう望みはないんだよ。いい加減諦めろ」
「っ…、うっ…」
脚を擦り合わせて耐えるように静かに涙を流した。
宮藤が来たところで、この疼きを治めてくれるわけではない。
何もかもどうでもよくなりそうだった。
危険な思考が蓮の中を駆け巡り、眼前にいる相手へと視線を向けた。
今すぐ楽になりたい。
ぐちゃぐちゃに掻き乱されたい欲望が、喉元まで迫り上がる。
口をついて言葉が出そうになった瞬間、目の前にいる蒼井が顔を上げて背後の方へと視線を向けた。
「おい、大丈夫か?」
聞き慣れた低い声が蓮の後ろの方から届くと、思わず躰が震えた。
声の主である宮藤は怪訝な顔でこちらに向かって来ると、蓮のすぐ後ろで立ち止まった。
「うわぁ…、来たのかよ」
「なんだその言い草は。教室を出る時の浅見の様子がおかしかったから、途中でぶっ倒れてたらお前一人じゃ大変だろうと思って授業中断して見に来てやったんだぞ」
「……そりゃどうも」
「まぁ、来て正解だったな。浅見、立てないぐらい辛いのか?」
言うなり宮藤はしゃがみ込むと、蓮の様子を確認するように首を傾ける。
息を乱して上気した頬が、尋常ではない彼女の様子を表していた。