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的確に図星を突かれ、頬に熱が駆け抜けた。
知られたくない事に気付かれ、蒼井と視線を絡ませたまま瞳が揺れる。
「…その顔、当たりだろ。分かりやすすぎるぞ、浅見」
にやりと口角を上げて言われ、蓮は赤くなった頬を隠すように両手で顔を覆った。
「な、なんで…、もう蒼井はこっち見ないで…!」
「今更遅いって。宮藤に振られたから最近落ち込んでんのか」
「っ…、う、うるさいっ…落ち込んでなんかないっ」
「…だから教師なんてやめろって言っただろーが」
「知らないよっ…そんなの…」
責めるような口調に、思わず声が震えた。
宮藤に振られてからまだ数日しか経っていない。
痛む心に追い打ちをかけるような蒼井の言葉に、視界が揺らぐ。
「…そんで、諦めは付いてんのか?」
「な、なんでそんな…いきなりなんなの…、蒼井には、関係ないでしょ…」
「…泣いてんの?」
「っ…泣いて、ない」
顔を隠していた両手をぐっと掴まれ、こちらを見つめる蒼井の瞳と目が合った。
涙がいつの間にか頬をつたって、ぽたりと落ちた。
「泣いてんじゃん」
「は、離してっ…!」
「宮藤のことなんかで泣くなよ」
「……うるさいっ、私は…先生のことでしか、泣かないっ…」
俯くようにして泣き顔を隠す蓮を見て蒼井は短く息を吐き出すと、掴んでいた手首を離した。
両手を開放されたことにより頬をつたう涙を急いで拭う。
「ほら、これ使え」
「…あ、ありがと…」
皺ひとつない綺麗なハンカチを差し出され、おずおずと受け取った。
ハンドタオルは鞄に入っているが、きちんとハンカチを持ち歩いている蒼井になんとなく女子として負けたような気がする。
ハンカチでそっと涙を拭うと、洗い立てのようないい香りがした。
「……浅見、俺と賭けをしないか」
口許に薄っすらと笑みを浮かべて、蒼井は唐突な提案を持ちかけた。
普段から何を考えてるのか分からないタイプであると思っていたが、今はもっと分からない。
蓮は訳も分からず目を瞬かせると、首を傾げた。
「賭け?何をするの?ゲーム?私、お金なんて持ってないよ」
「金なんて必要ない、お前と勝負がしたい」
「よく分からないけど…、なんの勝負するの?お金のいらない賭けって何?」
蒼井は膝の上に片肘を置いて頬杖を付くと、不適な笑みを蓮へと向けた。
「宮藤の気持ちを確かめる勝負だよ。……賭けるものは、お前自身だ」