2015-4-2 Thu 13:47
「私を、函館に連れて行ってください。」
蝦夷の地に渡ることを決意した土方さんに、私はそう言った。
土方さんは一瞬目を丸くして、だけどすぐに目を細めて私の名前を呟いた。
「....出港まで時間がねぇ。走るぞ。」
多分それは、私を認めてくれた証。
嬉しさ半分、先に走り出した土方さんに置いていかれないようにしなきゃって気が引き締まる。ここで追いつけなかったら、今後一生追いつけなくなる。物理的にも、精神的にも。
1歩先を走る土方さんが眩しい。
時折急げ、とせかしてくれるけど。いろんな意味でこれからも土方さんは私の先を行くのだろう。
蝦夷がどんな地なのかは、知らない。不安がないといったら嘘になるけれど。
この戦争を激戦地になるであろう場所で生き延びる自信はないけれど。
貴方と共にいれるなら、私は何も怖くない。
目の前にその背中だけあれば、私は安心できるから。
「....っきゃ!!」
思わず足元をすくわれて、私はその場に転がり込んだ。
だめだ、これじゃあ置いていかれる。こんなところで迷惑かけられないのに。
でも違った。
土方さんは私の異変に気付くと、先ほどとは違った声色で私の名を呼んだ。すぐに駆け寄ってきてくれて、そっと体を持ち上げてくれる。
「....この手を、離すなよ。」
小さく握られた手。そして再び走り出す。
この時私は思ったんだ。
これからは貴方の背中を追いかけるのではなく、隣を歩くのだと。