いつかの迷い子


───ずっと幼い頃の、夢を見た。



夏祭り、近くの神社の境内に立ち並ぶ屋台の数々。楽しげな笛の音と独特のリズムを刻む和太鼓の音が聞こえていた。いつもは暗く落ち着いたこの場所も、毎年この時期になれば提灯が吊るされ辺りを赤い灯が照らした。お気に入りの浴衣を着て髪も結い上げて貰って頭には大好きだった向日葵の髪飾りをつけてもらったっけ……。ふわふわの綿菓子もきらきらと光るりんご飴も、涼しげに泳ぐ金魚も何もかもが輝いて見えた。いつしか繋がれていた大きな手は無くなり袋の中で虚しく泳ぐ金魚だけが手元に残っていた。辺りは灯から遠ざかり、薄暗く鬱蒼とした木々だけが立ち並んでいた。……怖い。そう自覚したと同時に目からぽろぽろと大きな雫がこぼれ落ちた。

「おかあさん…!おとうさん…!こわいよぉ…!」

此処がどこなのかも分からないまま、何処に行っていいかも分からないまま、ただ呆然と立ち尽くして助けを呼んだ。

ちりん……

泣き声をあげながらも耳についた鈴の音。

「うぅ……だれ…?」
「…泣かないで?」

少し遠くに見える赤い灯が私を宥める声の主をうっすらと照らす。狐のお面を被った同じくらいの背丈をした男の子だった。しゃくりをあげながらついておいでと手を招く彼に私は素直についていった。

「ほら、縁日の近くだよ。あそこに行けばきっと君のお父さんお母さんも見つけてくれる」

仮設テントの下、気がつけば楽しげな音と赤い灯が、元の景色が戻ってきていた。

「ありがとう!えっと………あなたのお名前…」
「………つばさ」
「つばさくん!わたしは名前!助けてくれてありがとう!」
「いいよ。もうあんな奥に迷い込んでは駄目だからね」
「どうして?」
「どうしてもなにも……。兎に角、駄目なものは駄目。気をつけてね」
「つばさくんがそう言うなら…。あっ!また会える?」
「いや………」
「うーん…うーん……あっ!じゃあこれあげる!また会えるおまじない!」
「おまじない?」

差し出したのはお気に入りの向日葵の髪飾り。お気に入りだからこそ、なんだか持っていて欲しくなった。また、会いたいと思った。

「私の大好きなひまわり!つばさくんと同じ色だね!」
「同じ色……」

『名前っ!!!』

「お母さん!お父さん!」

私を呼んだその声に振り向けば、ずっと探していた両親の姿が。よかったと言いながら強く抱きしめてくる両親に安心で涙が込み上げてきた。あっ…つばさくんにもう一度お礼を言わなきゃ!

「つばさく、」

見渡しても見つからない姿。一瞬の間にいなくなってしまった彼。

「名前、貴女髪飾りはどうしたの?」
「つばさくんにあげたの…」
「つばさくん?」
「きいろい髪の男の子…わたしが迷子になっていたのを助けてくれたの……」

もう時間も遅いからとそのまま家に帰ることになった。
結局その後、今に至るまで一度も会えなかった。




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