頑張る空のお手伝い

キスの日

キュッキュッとシューズが床に擦れる音がする。部屋に鳴り響くノリの良い音楽が自然と身体を踊らせた。こうやって体を動かすことは嫌いじゃない。なにより、ただでさえアイドルとして忙しく最近は中々一緒にいれない彼と、大好きな空と同じ時間、同じ空間を楽しく共有出来ることが嬉しかった。

「名前ちゃんごめんね〜〜〜」
「気にしないでってば」

元々、青春バンドと銘打っているSOARAはバンドという名の通り、楽器を演奏しながら歌う事が常だ。それでも最近は兄弟ユニットと謳われるGrowthや先輩にあたるSolidSとその対のQUELLといった面々と同じ舞台に立つ事が増えてバンドとしてではなく、アイドルとして踊りが要求されてきているのだ。そんな私がなんで一緒にダンスを練習しているかと言うと……。

「びえ〜〜〜助けて〜〜〜」

まあ一言で言うと救済を求められたからだ。正確に言えば最近大学やら仕事やらで忙しくなってきた空は練習にとる時間が減ってきていた。同じ作詞作曲を担当している他のメンバーを見ても、三人とも基本的には芸能活動だけ、という形に収まっている。それにひきかえ空は大学に通いつつ芸能活動をしていてユニットの為に作詞も作曲も、と頑張っているのだ。板挟み、という訳では無いにしろ贔屓目に見てしまっても客観的には空が一番忙しく見えてしまうのだけれど。(正直贔屓目に見過ぎている節はある。)結果的にユニットメンバーから遅れをとってしまい、講師の方からもお叱りを受けてしまったらしい。神楽坂くんからもどうにかしてくれないか、と相談されて本当は1ヶ月程前から予定していたデートをキャンセルし、寮にあるレッスン室を使わせてもらって空と一緒にダンスを練習している訳だ。

「折角久しぶりに一緒に出掛けられると思ったのに…」
「私は気にしてないよ?空と一緒にいられるだけで嬉しいし、ダンス好きだし!」
「うぅ……優しさが身に沁みます…」

小さい頃からダンスを習っていた私は今でも踊る事が好きだし、いちSOARAファンとしてもSOARAが踊った数少ない曲の振り付けは覚えている。勿論、というのもおかしいけれど根っからのツキプロファンである私はSOARAだけじゃなくグラビプロセラSolidS QUELL Growthまでなんでもござれなのだ。

「ほらもっと人に見られる事を意識して!」
「はいっ!」

練習であれども手抜きはしない。どうにかして欲しいと言われた以上、彼女でありファンでありダンスを嗜む者として最大限努力する。自分が客席から見た時に目一杯キラキラしてかっこいい彼を見るために。

「つっかれたーーー!!!」
「お疲れ様。私も疲れたー!」

夕方の五時、お昼過ぎから練習してたにしてはかなり頑張った。大の字に床に寝そべる空の側に腰を下ろし同じように足を投げ出す。冷たい床が火照った身体に冷感を与える。気持ちいい…。
「名前ちゃん厳しいんだもん…!」
「でも楽しかったでしょ」
「そりゃあね…。文化祭で名前ちゃんが楽しそうに踊ってたの思い出しちゃった」

あれは可愛かったなぁと思い出し笑い…というよりもニヤけている空をへんたい、と呟きながら頬をつっついた。

「でも可愛かったのは事実だし?」
「うるさいなぁ…」
「恥ずかしがってる名前ちゃんも可愛いよ!」
「ばか」

折角少し熱が冷めてきたと思ったのにまた暑くなってきちゃうじゃない。そんな私の考えなど露知らず、いつの間に持ってきていたのかお気に入りの炭酸飲料を取り出す空。SOARAとタイアップしたCMが話題になっているやつだ。

「…っぷは〜!疲れた後の炭酸は身体に沁みますなぁ!!!んまい!」

ゴクゴクと喉を鳴らしては喉にくる刺激を逃す。美味しそうだな、なんて思ってしまえば体が動くのにそう時間はかからなかった。

「ひとくちちょうだい」

そう告げると同時にその手から欲しかったものを奪う。流れるように口にして喉に伝う刺激と清涼感が体を満たす。うん、美味しい。

「ほい、ありがと。私先にシャワー浴びてきちゃうね」
「………」

ひらひらと手を振って自分の持ち物を持ってドアへ向かう。さて、シャワー室はどっちだったっけかな?後ろでぽかんとしながらこちらを見る空には気付かずに、私は部屋を後にした。

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「…間接、きす…」

今までだってした事はあったのに。普通のキスだってそれ以上だって。火照った顔と汗とがいつもより自分を興奮させた。
「俺後で顔合わせられるかなぁ……」




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