夏祭り

※芸能人ではない一般大学生設定

夏祭り行こうよ!と大学にサークルの子に誘われたのが事の発端。夏の思い出を作りたいのと同時に気になる人と急接近を狙っての発言だったんだろう。要は合コンのノリ。まあ夏祭りに行くのも学生のうちにしか出来ない(社会人になったら行きにくい)事なので誘いにはのったけど。そこにまさか彼が来るとは思っていなかったし、全員浴衣か甚平を着てくるように!と念を押されたことによって彼の浴衣姿を見ることになるとは夢にも思ってなかった。

「あれ、まだひとり?」
「八重樫くん、」

お祭り当日、浴衣だし混雑とかもあるだろうからと早めに家を出れば流石に早く着きすぎたようで待ち合わせ場所には誰一人としていなかった。まあ楽しみにしすぎた、と思っておけばどうにかなるだろうと思っていれば10分もしないうちに八重樫くんはやってきた。普段のカジュアルな雰囲気とは違ってなんだか色気のある格好に見惚れてしまう。シンプルな紺色の浴衣と片側だけかきあげて固められた髪の毛、耳から首筋へのラインがしっかりと見えると思わず息をのんだ。

「流石に誰も来てないと思ったんだけど早いね」
「浴衣って歩きづらいし時間ギリギリだと人が多くなるから」
「やっぱり?俺もそう思って早く出て来たんだけど早すぎたかなーって後悔してたとこ。お前がいたんなら早く出て来て正解だった」
「…どうして?」
「だって、そうしたらひとりで長い時間待たせる事になってたでしょ?洋服だったらまだしも浴衣で長時間一人はキツい」

なんという気遣い。やはり出来る男は違うんだな。その後、何か呟いた気がするけれど耳にも入らないくらいだったので気にも止めず、そのまま会話を続けていれば続々とサークルのメンバーが集まって来た。全員揃ったという事でいざ屋台の並ぶ通りへと出発したのだ。とはいってもそこそこ人数のいるグループが固まって歩くのは困難で、自然と男女二人組のようなものが出来ていた。かく言う私の隣には八重樫くんがいてはぐれると危ないから、という理由で私は八重樫くんの浴衣の裾をちょこんと掴んでいる。なんで裾なの?と笑いながら聞かれたけど人気者の彼を狙っている女の子がここに来てるかも知れない、嫉妬で刺されたくない、という理由は口には出せなかった。

「…ねえ?」
「なに?」

ザワザワとした喧騒の中微かに聞き取れる声で問いかけられた。

「…ふたりで抜け出さない?」
「え?」

幸か不幸か歩いていたのは一番後ろで、すでに前を歩く他のメンバーたちは少し前を行く。こちらの事など多分気にも止めていないのだから離れたところで問題はない、のかもしれない。少し考えるそぶりを見せた私をよそに、彼は私の手を取って脇道に逸れた。

「正直、祭りに来るつもりはなかったんだけどな」
「じゃあどうして?」
「あー………お前が行くって聞いたから」
「私?」

彼は照れたように頬を掻いて言葉を紡いだ。

「名前のこと、好き…なんだよね」

人気者の彼、接点といえばサークルが同じ、あと取っている講義がひとつだけ被ってると言うことだけ。正直知り合い以上友達未満というか…お互い名前と顔は知っていてもよく話していたかというとそういう訳でも無かったし…。そんな彼の事を詳しく知っている私も、彼のことを好きなのだが。胸に手を当てなくても分かるほど高鳴る鼓動が確たる証拠だ。

「私も、八重樫くんのこと、好き」

小さく呟いたこの声は彼に届いただろうか。指の先を恥ずかしがるように握って、この想いは届いただろうか。

「付き、あってくれる?」
「…うん」

しっかりと握り返された手はまだ恋人同士のそれではないけれど、熱いくらいの手のひらはぴったりとくっついていた。赤く火照った頬はきっと暑さのせいで、紅く照らす灯籠が綺麗に隠してくれているだろう。




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