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「うわ、どうした」
盛大な音を立てて携帯が手から滑り落ちた。
龍之介が驚いた様子を見せ、しゃがんで携帯を拾い上げる。
私は驚愕のあまり動けず、両手で口を押さえ、こちらを見上げた彼の顔を見返した。
どこかで見たことがあると思った。
記憶の底に沈んでいた。
こうしてまた会えるなんて思いもしなかった。
八年前、花束をくれた卒業式、それ以来に。
「堀くん……」
堀龍之介。
その名前を知らないはずがなかった。
高校時代、彼は学校でも目立つタイプの不良だった。
そして、ひとりぼっちの昼休みを、一緒に過ごした人だった。
「気づいてなかったの」
「気づいてなかった……」
「そうかなとは思ってたけど」
彼は呆れたように笑い、立ち上がって携帯を差し出した。
そして、往来の真ん中に立っていた私を引っ張って行って壁際に立たせた。
「覚えてたんですか、私のこと」
「だから声掛けたんだろ」
「……なんで」
「なんでって。変わってないもん全く」
そう言われて返す言葉もない。
八年たって成長したと思ったが、そんなことはないらしい。
「すみません、私」
「いや、謝ることはないけど」
「あの頃はほんと……すみません」
苦い記憶がフラッシュバックして、無意識に涙が溢れてくる。
声が揺れて、俯いて顔を隠す。
頭上から微かに溜息がふってきて、私は体を固くした。
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