END
「俺さぁ、昼休みにあんたの本読んでたじゃん」
しばらく黙っていたかと思うと、ふいに龍之介は口を開いた。
「面白くなってさ、家帰っても読んだりしてて。そんで、国語の先生にでもなろっかなーって思って」
私は驚いて彼の顔を見上げた。
「学校つまんなかったしさ。教師になって、俺とかあんたみたいな生徒がいても許されるような教室作りたいなって思って」
龍之介はこちらを見ず、通り過ぎていく人々を見ながら淡々と続けた。
「だから、あんたのことよく覚えてたよ。同類がいるなーって」
今度こそ、涙が零れた。
まさか、あの自分と正反対の不良が、そんなことを思って側にいてくれたとは思わなかったから。
「かわいそうな奴だって思われてたのかと……」
「思ってねぇよ。俺、あの校舎裏にいるのが一番好きだった」
龍之介は苦笑して、ハンカチを私の顔に押しつける。
二度も借りてしまった。
恥ずかしい。
「卒業式、お花、ありがとうございました」
「あ?ああ、うん」
「うれしかったの、ほんとうに……」
ひとりぼっちだったけど、ひとりじゃないって思えたから。
龍之介が、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
一年一緒にいて、触れることのなかった手。
ありがとう、と私はもう一度頭を下げた。
うん、と堀くんが頷いた。
「もうあんたも遅刻だな」
「こんな顔じゃ仕事行けない」
「サボってどっか行くか」
「ええ?」
「行くぞ」
悪戯っぽく笑って、龍之介は反対ホームへ歩き出す。
私は行くべき場所と彼の背中を交互に見て、結局、龍之介の後を追った。
今ならこの足でどこへでも行ける。
彼が振り返って差し出した手に、私は自分の手を重ねた。
END
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