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そう考えていたところだったが、再会は呆気なくやってきた。
まったく予想もしない形で。
「菫」
忙しなく人々が行き交う通勤時間。
駅前で名を呼ばれて、足を止めて振り返った。
「龍之介」
いるはずのない人の顔を見つけて、私は凍り付いた。
「おはよ」
「お、おはようございます」
「久しぶりだなぁ」
出勤時間が一緒になることなど今までなかった。
彼は眠そうな顔をしながら、ぼけっと突っ立っている私を追い越して歩き出した。
「元気だった?」
「は、はい。変わりなく……」
「俺はずっと残業続きでさぁ、今日とうとう寝坊」
「寝坊」
「そう、遅刻」
「えっ、大丈夫なんですか」
「走ったって間に合わねぇからな」
追いかけて歩き出すと、一ヵ月会わなかったことを感じさせないくらい、龍之介は普段と変わらなかった。
会ったらどうしようかと思っていたが、やっぱり会えてうれしい。
事故とか病気とか、そんなんじゃなくてよかった。
「あ、そうだ」
ホームへ降りる階段まで一緒に歩き、別れようとしたところで龍之介が立ち止まった。
私も少し先で足を止め、振り返る。
「連絡先教えといてよ。知らねぇと不便じゃん」
彼はそう言って、携帯を持った手のひらをひらひらと振った。
私は再び凍り付く。
れ、連絡先?
私の?
私の連絡先を聞いてくれてるの?
「はい、どうも」
私は無言で携帯を差し出した。
SNSで連絡先を交換する。
予想もしなかった展開に、動揺が隠せない。
だが、私がさらに驚いたのは、表示された名前を見たときだった。
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