それから一ヵ月、龍之介とは会えなかった。
随分疲れているようだったし、仕事も忙しそうだった。

心配だったが、あいにく連絡先すら知らない。
知っていたところで、連絡できるような関係でもない。
駅でつい彼の姿を探してしまう自分に、困惑していた。

いつのかまにか、龍之介と会えるのが楽しみになっていた。
彼と話をするのが息抜きになっていた。
仕事に行きたくない日でも、嫌なことがあった日でも、彼に会えるだけでうれしかった。
居心地の悪いこの町に、居場所ができた気がしていた。

いつから彼が気になっていたのだろう?
私の手に届くような人ではないという前提があったから、考えもしなかった。

何度食事に行ってから?
名前を呼べるようになってから?
それとも、初めてごはんを食べたときから?

考えても思い出せなかった。
少しずつ私の中で彼の比重が大きくなって、彼のことを考える時間が増えていって、さよならの後すぐに会いたくなって、気がついたらそんなところまできていた。

友達と呼んでいいのかもわからない人を。

「これは恋?」

考えると苦しくなる。
私は部屋の本棚の、芥川の名前を隠すように、背表紙を反対に向けた。

龍之介はもう、私に会うのが嫌になったのかもしれないし。
もしかしたら、彼女ができたのかもしれないし。

ぐるぐるとそんなことを考えているうちに、会いたいけど会いたくない、そんな気持ちになっていた。
次に顔を合わせたって、どんなふうに接していいかわからない。
今までどおり話せる自信がない。
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