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冬来りなば


 春が去って夏が来ようとしていた時期に、峰太から告白を受けた。
 その直後から、峰太の態度が徐々に変わっていった。
 すっと後ろに現れ、何をするかと思えば腰を抱いたり肩を抱いたりする。髪にキスしたり撫でたり、抱きしめたり。寝るときも後ろから抱き締められることが少しずつ増えた。今や当たり前にスキンシップを取り、ベッドに入ればむしろその、表面はふわふわとしているが中身はぎゅっと詰まった筋肉質な身体が触れなければいられない。

 身体を重ねるのも今は慣れたものだが、非常にゆっくり、時間をかけてどろどろにされ、次の日に立ち上がれないくらい挑まれる。幾つなんだ、と思うほど。そして大きい。何がとは具体的に言わないけれど、そちらは今も慣れなくて、終わってから丸一日ほど拡げられて擦られた部分が違和感を持つ。

 立っている時に後ろから抱き締められると、後頭部というかうなじというか、そのあたりに柔らかな乳が当たる。乳、胸筋、雄っぱい。力を入れない限りそれはふかふかふわふわぷるぷるしている。ふにょんとした豊満な感触は今までにない大きさ。峰太はどこもかしこも筋肉がついているので、ぎゅうと抱きしめられると柔らかくて大きいものに包まれるのがなかなか心地よかった。

 心地いいのは構わないのだが、なんだかいかにも恋人という感じを出されると落ち着かない。今までにこんなべたべたしてくる人がいなかったからか、不慣れでそわそわするのと照れてしまうのと……それから心にやはり「こんな優しくしてもらっていいのだろうか」という思いもある。
 それはもう一生消えることのない、気持ち。
 峰太に会わなかったら生涯持ち合わせなかっただろう。多少は人間らしくなったかもしれない。これから先、どこにいても、何をしていても忘れない。

 峰太はああ言ったけれど、離れたって大丈夫だ。

 一緒に住まわせてもらって、まるっと一年と少し。そのうち恋人として過ごすこと五か月。その間、ほぼ離れることなく時間や空間を共有した。
 ふにゅんふにゅんぶりんぶりんな身体や穏やかな優しさから離れるのは多少、いやかなり惜しいが、たまたま出会った、たまたま心が通じ合った人。峰太は親切で優しくて魅力的だから、きっとこれから先、たくさんの人に出会えるだろう。

「よし、行くかな」

 早朝、まだ朝日も昇りきらない寒い浜辺を歩きながら根っこを抜いた。すっかりあのカフェに張り付いてしまっていたから、引き剥がすのに苦労した。今までこんな、一年以上いた場所がなかったせいだろう。ぺりぺり、剥がれていく。遠ざかるごとに少しずつ。ちょっと痛いかもしれないけれど、問題ない。これはすぐに良くなる。
 峰太はきっとすぐ気付くだろう。察しがいい、良すぎるくらいの人だから。
 なるべく遠くに行かなければ。できる限り、遠くへ行きたい。


 目を覚ました直後にわかった。気配がどこにもない。
 覗いた和室には丁寧に畳まれた洗濯済みの服、キッチンには洗って伏せられたコップ、階段の下には揃えられたサンダル。それらを置いていったのは帰ってくるつもりがあるから、というわけではなさそうだ。そしてあの緩い雰囲気は雑踏に紛れやすい。探すとしたらきっと骨が折れる。
 髪を後ろへ流して、ひとり居間で息を吐く。
 こうなるだろうとわかっていた。
 確信していたわけではないが、どこかで、いつかこんな日が来るだろうと。
 今の秋なら、ばかなことはもうしない。しないうえにさっさと東道会の領地から出て行ったはずだ。譲一朗に聞けばわかるかもしれない。しかし優しい息子は、秋がまたどこかへ行ったことを知っても、きっとわざわざ言いに来たりはしないだろう。
 真剣に恋情を抱いたので離れるのは惜しいが、誰に言われたわけでもなく秋がそう判断したなら仕方ないことだ。黙って逃がしてやるのが最善だと思われた。
 体温さえないビーズクッションに触れ、自分の身体に比べて小さな跡がついているのを見て、また小さく息を吐いた。


 峰太の話に「秋」という恋人が出てこなくなったから、すぐに察した。入ってくる情報はかなり遠くの街に住んだり離れたりしている、ということ。出て行ったことも、何か知らないかと聞いてこないことも、触れないでほしいと語っているように思われた。
 なので会話は峰太のところに秋が来る前と同じ、満和の話や鬼島の話、世間話や最近食べたもの、着たものや体調。充分にぎやかだが、峰太にしては淡々とした語り口なので、まだ心からいなくなってはいないということがわかる。

「お父さま、元気ないですね」

 峰太と顔を合わせ、明るい人柄とむちむちな身体が大好きになった満和。携帯電話のスピーカーから聞こえた声で感じ取ったようだ。譲一朗の膝に座って、気遣わしげな視線を電話に送っている。そこに峰太がいるかのように。
 つるつるした黒髪を撫で、小さな身体を抱く。

「愛した人のことは忘れられないものだ。俺たち有澤家の人間は尚更、執着心が強いから」
「確かに」
「そこで納得されるとなんとも言えない気持ちになるんだが」


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