お友だち(偽) | ナノ

38


 弁天町――地方で一番栄えている歓楽街と言われている。
 駅から伸びる大通りと呼ばれる大きな道の両脇には、昼は商店街としての店が並び、夜は飲み屋だったり美男美女と遊べるお店だったりの灯りが点く。まばらに夜や朝方も開く商店があり、仕事を終えた人たちが買い物をして帰宅できるという非常によくできた仕組みだ。
 裏通りへ行くほどに許可が取れているのかどうか怪しげな店が増えてくるのだが、蜘蛛の巣のように張り巡らされた細い道たちは馴染みがなければ迷ってしまう。そして無駄に歩き回れば余計に迷い込む。

 駅から見て大通り左側、特徴的な建物の脇から裏手裏手へ入っていくと何回か四つ角を過ぎる。それを曲がって曲がって、突然出てくる古びたアパート。土色が混ざったようなすすけたクリーム色に、赤みを帯びた茶色の屋根。同じ色で今にも朽ちてしまいそうな外階段と二階の格子。中も外も古いのであるがなぜかいつでも満室で、今もそうである。
 このアパートの一階、一〇二号室がナツの「実家」だ。
 父親の蓮と、やがて鬼島と一緒に暮らした思い出深い部屋。最近は鬼島邸にいる時間が多いのだが、今でもやはり帰ると安心する。
 久々に鍵を開け、風通しをした。玄関ドアもお風呂場も居間も、開けられるところは全て開けた。
 談が台所で、買ってきた食材を出して通電させた冷蔵庫に入れている。
 しばらくはこちらで過ごすつもりだ。情報を得たい、というのもあるし、鬼島がいない鬼島邸を自由気ままに使うのも気が引ける。学校は、とりあえず試験を受ければいい、と言われているのであまり気にしないつもりだ。自由な校風でよかった。
 ひとりで切ない気持ちになりながら過ごす覚悟もしていたが、ごくごく自然に談がついてきた。車で送ってくれるのかと思いきや「先にオレの着替え取りに行きますね」と言って談のアパートへ寄ったので、ああついてきてくれるんだ、と嬉しかった。すっかり親しみのある、優しいお兄さん。家族のような存在だ。

 明るい夏の日差しを透かすレースカーテンが風にたなびく。
 茹でた素麺を、みょうがとしょうがと大葉を入れためんつゆで食べながら談がナツを見た。

「どうしますか」

 この町のことはよくわからないのでナツにお任せするしかない。
 鬼島が失踪したとき、一時期ナツとこの町で暮らしていたのだが、それもこのアパート周りしか歩かず、普段は車移動で鬼島邸と会社とアパートの三か所を動いているだけだった。
 聞かれたナツは白い麺をするると口に収め、ゆっくり咀嚼して飲み込んで、次の一口分を豪快にさらいながらこんなことを言った。

「談さん、果物買いに行きませんか」
「果物、ですか」

 今の時期なら桃だな、と思いつつ、突然の果物発言がしっくりこない。しかし何か考えがあるのだろうと思い直し、行きましょうか、と頷いた。

 素麺に使った食器などを洗って拭いて棚に収め、鍵を閉めて出掛けた。ナツが先に立って歩いているのだが、複雑な似たような細い道を迷うことなく歩いていく背中は少し頼もしく見える。そして本当に、ナツがいないと帰ってこられる気がしない。ぐねぐねとした小道、怪しげな店の前、怪しげな人たちの前を何か所も通り過ぎた。怪しげな人たちにも「ナツちゃん遊んでくー?」と声を掛けられる。「また今度ね!」と返すナツは慣れていた。
 うねうねとした道を通っているうちにいつの間にか駅に出た。
 車で行くとナツの家から駅前までもっと時間がかかるが、歩きで裏道を歩いていくととても早かったように思う。
 駅前の、色あせた緑の布が張られた店先。見上げてみると『梅が枝青果店』と消えそうな白文字で書いてある。外の明るい陽射しの中から店に入ると薄暗く、目がついていかない。談が目をしぱしぱさせている間に、ナツは並ぶ野菜や果物の合間をすり抜け店の奥に進んでいた。

「うめちゃーん、いるー?」

 ナツが、一番奥の引き戸に向かって声をかける。
 うめちゃん。想像するのは穏やかな存在なのだが、一体どんな人が出てくるんだろうか。ナツの後ろから見ていると、がらがらと引き戸が開いた。

「夏輔、どうしたの」

 少し高くなっているので、ナツは見下ろされる格好だ。黒髪の男性だった。ラフな黒いTシャツに細いデニムを履いている。顔は、お兄さんともおじさんとも言えない。談よりも年齢が高そうにも見えるが、そう思うのはただの雰囲気なのでお兄さんと範囲なのかもしれない。そして彫りが深めの美形。
 どこかで見たことあるような、と談が思っていると、ナツが首を傾げる。

「聖ちゃん、うめちゃんは?」

 聖ちゃん。
 そうだ、聖。

「今、寝てるんだよね」

 ナツの頭を飛び越えて聖と談の目が合った。

「談」
「久しぶり、聖」
「談さん、お知り合いですか」

 尋ねられ、聖と一瞬視線を交わし合ってから「ちょっとした知り合いで」とだけ言った。さすがにナツに「昔の客です」とは言えない。具体的にどのような仕事をしていたのかということを伝えてもいないので「客だ」と言ったところで支障はないし、別にやましい仕事だとは思っていない。が、未成年のうちからしばらく違法な仕事をしていた、と言うことが憚られる。あまり、ナツには聞かせたくない話だ。

「夏輔と談は知り合いなの?」
「談さんはおれの……なんでしょうか」

 はて、と首を傾げるナツに笑いかける。

「未来の夫ですかね」
「おっと!」

 ひええと顔を赤くして慌てるナツに笑い、お世話してんだ、と端的に伝えた。聖が微笑む。

「談は面倒見がいいから向いてるね」

 こくこく頷くナツ。談は苦笑いしつつ、ふと視界に入った聖の左手の薬指に指輪が見え、ああ結婚したんだな、と思った。もしかしたらこの家の「うめちゃん」なる人が相手なのかもしれない。

「で、何の御用で?」
「あ、そうそう。うーん、なんて言えばいいのかな」
「お薬について聞きに来たんだけど、聖はなんか聞いたことねえ?」

 談の言葉に、目を丸くした。

「ええ、何、二人ともそっちに目覚めたの? 大人になって」

 不用意な一言でナツにも談にも怒られ、聖は笑っていた。
 引き戸向こうの居住スペースに招き入れられ、靴を脱いでお邪魔する。しっとりとした木の香り、年季の入った板の廊下が奥に伸びる。聖が入ったのは上がってすぐ、左手側の部屋で、そこは明るい午後の日差しが白い薄手のカーテンに透けて、室内を照らしていた。飾り気のない居間、といった様子。その壁際、こちらを向いて丸く小さくなって寝ている青年がいた。白い肌で手足が長い。長めの茶色い髪が乱れていたのを、聖の手が優しく整える。タオルケットも顎の下までかけなおしてやり、その横間もなくにある座卓の周りへ座るよう促した。座布団がふかふかしている。

「今は熟睡してて、声でも起きないから」

 特にひそめる様子なく普通の声量で言いつつ、電気ポットを引き寄せる。湯呑を三つ置いて、急須から手際よく緑茶を注いだ。

「うめちゃん、今は元気そうだね」

 よかった、とナツが言い、頷く。

「何回か不眠が酷くなった時期があったけど、なんとか。お店もちゃんとやってるよ」

 談の目に映る彼は普通の青年といった様子だ。話の内容的にこの青果店の店主のようだが、特に裏の世界で生きていそうな雰囲気はない。とはいえこの町はなかなか特殊なので『外の世界』に属する自分からはわからないような何かがあるに違いない。
 そのうち起きるかも、と、三人で近況を報告しあったり世間話をしてみたり。

 三十分ほど経った頃だろうか。
 ぴくりともしなかった青年が目を開けた。ごろりごろり数回寝返りを打ち、こちらに視線を寄越す。ぼやぼやした目であることから、まだ少し夢の世界にいるのかもしれない。

「……夏輔?」
「うん。うめちゃん、おはよう」
「おはよう……」

 とても大変そうに身体を起こし、掌の底でむにむにと目元をこすってから、聖の隣へ。
 ごく当たり前のように肩へ頭を乗せ、鬼島さん? と言った。ナツが頷く。

「そう」
「噂には聞いたけど、本当なんだ」
「うめちゃん、なんか知らない?」

 じっとナツの顔を見て、ちらりと談にも視線を寄越す。なかなか言い出さないうめちゃんという青年の髪を、聖が撫でた。

「大丈夫、談は口堅いから」

 どうやら自分が警戒されていたようだと、談は気付く。余計な事を漏らされ、治安を乱されたくないのかもしれない。場所でよくあることだ。席を外しましょうか、と誰にともなく言ったが、ナツも聖も大丈夫だと返してきた。

「……右の三条目入ってしばらく行って、苦情通りを抜けたとこにバー『グイダオ』がある。そこのマスターと鬼島さんは仲がいい。薬のことは、こっちも聞いてみるからちょっと待って」
「ありがとううめちゃん。身体大事にしてね」
「蓮先生がいればなーと思うよ。この頭の痛さも身体のだるさも、きっと解決してた」

 ふふ、と笑ううめちゃん。身体が重そうだが、店の外まで出て見送ってくれた。全部解決したら鬼島さんのお金でいろいろ買いに来るね、とナツに言われると、おかしそうに笑った。
 歩き出してしばらくしてから、親切な人なんですね、と談。

「いいお兄さんですよ。優しいんです。おとーさんにずーっと体調相談してて、なんとかなりそうだったところでおとーさんいなくなっちゃって。今もよそで治療中なんです」
「早く、楽になるといいですね」
「はい」

 ところで、グイダオ。どこかで聞いたような。
 いや、見たことがあるのか。なんだろう。記憶にある、と思うのだが、靄がかかっているかのようにはっきりしない。

「正直右弁天の苦情通りはあんまり詳しくないんです」

 横断歩道を渡り、大通りに沿って歩道を歩きながらナツが不安そうに言った。

「その周辺は特に入れ替わりが激しいので……もちろんよく知ってる店もまだまだ多いんですけど、うめちゃんが言ったバーは知らないです」

 大丈夫かなあ、と心配している。

「得られたら良し、得られなくても良しにしましょう。欲しい情報にアクセスしやすい、ということだと思えば、きっとそこだけではないです」
「はい」

 教えてもらった通りにナツが道を進んでいく。
 そちら側でも、時々ナツが話しかけられていた。本当に馴染みが深いことがわかる。
 談は鬼島から聞いているだけで、ナツの口から今までの話を聞いたことはほとんどない。今回の件が落ち着いたら聞いてみよう。父親の蓮とどう暮らしてきたのか、覚えていることがあったら聞かせてほしい。
 やはり今回もうねうねと通り、怪しげな店の合間を歩き。
 白い小さな建物が現れ、側面にGuiDaoと黒い文字が小さく掲げられていた。壁と同色で見た目に扉とわからないような扉の取っ手に、談が手をかける。夜しか開いていないかもしれないと思ったが、案外軽く開いた。
 暗い店内。間接照明がぽつぽつとだけ点いていて、足元の床が時折、きしりと音をたてる。椅子がなく、立って飲むにはちょうどいいテーブルがあちこちにあった。店内は意外と広い。カウンターの奥にはボトルが並び、意外と日本酒や焼酎も見える。銘柄はどれも高級品で、あまり一般に流通していないようなものもあった。珍しい、と、日本酒好きな談は思わずじっくり眺めてしまう。

「ごめんくださいーどなたかいますかー」

 ナツが恐る恐るといった様子で、しかしはっきりと呼びかける。
 しばしの間。
 誰もいないのだろうか、と思った時だった。

「へちゃむくれの声はすぐわかるね」

 その声は、清涼な水に似ていた。冷え切った地下から湧き出てきたばかりのような温度。淡々としているが、硬い、はっきりした声だ。
 思わずナツと顔を見合わせる。
 カウンターの奥、黒い扉がよく見れば少し開いていた。そこから白い手が出てきて、乱暴に開ける。

「生きてたんですか……」

 心底驚いた、という声が出た。呆れと驚きとで言えば半々くらいだ。ナツに至っては声も出ない。

「生きてるよ。そんな簡単にね、人は死なないの」

 石膏像のような裸の上半身のあちこちに、うっすらとした傷痕。焼かれた右上腕だけが、ほかの皮膚より色が濃い。些か伸びた髪は相変わらず白ベースの青い毛先で、端正な顔は全く変わりがない。玉眼のような目が、ナツを嫌そうに映した。

「へちゃ、何しに来たの? 談まで連れて」

 へちゃむくれ、と言うのさえ面倒くさくなったようだ。カウンターに長い両腕を突いて見てくる。ようやく驚きレベルが少々下がったようで、ナツが、聞きたいことが、と絞り出す。

「あの、聞きたいこともあるんですけど、えと……お久しぶりです、佐々木さん」

 ふん、と佐々木が鼻を鳴らした。

「どうも」
「佐々木社長、なんで連絡くれなかったんです?」
「いちいち生きてます、なんて言う必要ある?」

 相変わらずざらっとしている。さらっと、ではなく、棘があるからざらっと、だ。
 カラスの手にかかったとき、鬼島や有澤から死亡の報が流された。なので多くの人が今でもそう思っているはずだ。佐々木はもういない、と。そしてその事実にほっとしている人のほうが多いのだろう。談は、仕事が少なくなってナツといられる時間が増えた。

「で?」

 先を促す。再会の感動もなにもないようだ。相変わらずだな、と談が笑いつつ、事情を説明する。そしてここに来た経緯も。

「優志朗先輩のことは聞いた。で、この辺にいたからって言われてるらしいけど、それは俺に会いに来てただけ」
「鬼島社長には連絡したんですね」

 談の言葉に当たり前でしょとでも言わんばかりの顔をしている。相変わらず佐々木にとって鬼島は特別な存在のようだ。

「捜査員来ないし、おかしいなとは思ったんだよね。優志朗先輩、何も言ってないんだ」
「この辺でお薬の話聞いてますか」
「うん。いろんな国籍の売人が右弁天中心に捌いてる。薬嫌いだから俺は直接関わらないけど、時々キメてるのが飲みに来る。見てれば一時間ごとくらいに薬入れてるから代謝がいいっていうか燃費が悪いっていうか、とりあえず一日で大量消費するみたいでね。この店でしか話聞かないから、よそではまだ出回ってないのかも」

 様々な場所に経営している店を置いている佐々木が言うのならば本当なのだろう。
 なるほど、やはりこの弁天町が出処のようだ。
 そこまで考え、談はふと気づいた。

「佐々木社長、この店の名前って」
「悪い?」
「悪くない、ですけど……」

 思いが強すぎるな、と、苦笑いするしかない。
 この店の看板を最初に見た時の鬼島社長は一体どんな顔をしたのだろうか。

「優志朗先輩が巻き込まれたから、俺は俺で探ってる。結構情報統制が厳重でなかなか元締めが出てこないんだけど、狭い範囲でのことだからたぶん炙り出せる」
「この町の人なんでしょうか」
「多分ね」

 しょぼんとしてしまったナツ。この町で、そんな薬が出回っていることが悲しいようだ。頭をなでなで、なんかあったら教えてください、と談が佐々木に頼む。が、予想通り「嫌だ」と返事があった。

「そろそろ営業時間だから帰りな」
「ありがとうございました」

 出がけに、佐々木が小さな声で呟いた。

「中毒起こして運ばれた奴もいるし、その辺にいるかもね案外」

 何がとは言わないので、複数の想像をさせる呟きだった。
 扉から外に出ると世間は、昼から夜の雰囲気に変わり始めている。

 ナツが、寄りたい場所があるんです、と言うので、梅ヶ枝青果店で約束通り桃やぶどう、オクラなどを買い、ついていく。うめちゃんは昼間より少し元気そうだった。
 アパートのそば、一本違うだけの通りに構えているバー『ムジナ』
 ここは談も知っている。以前ナツと一緒にいたとき、マスターがちょくちょく様子を見に来てくれた。ナツの父とは長い付き合いだったようで、とても仲が良い。
 先日、不審火で店が全焼するという不幸に遭い、建て替えたばかりで建物が新しくなっている。

「まーすたー」
「おっ夏輔よく来たなー。きらきら小僧もいるのか。いらっしゃい」

 にこにこ、明るく笑う男前。特にそういう店でもないのに、マスターは雰囲気が非常にいやらしい。寂しさ感じてる儚い雰囲気がむちむちした身体の周りにあるから、と店の常連に言われていたのを聞いたことがあるが、なるほどと思ってしまった。ナツは何とも感じていないようだが。
 開店したばかりでまだ客がいないカウンターのおなじみの席へよいしょーと座り、談も隣に座って買ってきた果物を渡す。

「ありがとう。なんか食うか?」
「だいじょうぶー。あのさマスター、この一年から半年くらいでなんか変わったことあった?」

 変わったことねえ、と言いながらバナナと牛乳と練乳を取り出し、バナナは切って牛乳と練乳、氷も入れてミキサーにかける。

「オレの店が燃えたこと、苦情通りに新しいバーができたこと、一斉立ち入り捜査があったこと、診療所の先生の交代、うめちゃんがちょっといなくなったこと、愛生んとこのブランドがこの町にめちゃくちゃ寄付してくれたこと……あ、左弁天の七条の店の店長が摘発された、なんてのもあったな。このくらいか。他は特に」
「そうかー」

 繋がりそうなの、ないなあ。
 しゅんとするナツの前にバナナドリンクが出てきた。

「元気なさそうだから飲め」

 マスターが笑いかける。

「あの不気味野郎、捕まったんだってな」
「不気味野郎……鬼島さんね」
「そんな間抜けなことしねぇだろありゃ」
「うん。おれもそう思う」
「間抜けだったらオレの店放火したときに捕まってる……」
「え?」
「いやなんでもない」

 談の前には水道水が出てきた。待遇の違いが凄まじい。

「なんか手伝えることあるか。それで悩んでんだろ?」
「実はそれをお願いに来たの。二人でやるんじゃ大変だなって思って……助けてくれる?」
「もちろんだ。不気味野郎と何を追えばいい?」
「新しいお薬、だって」

 談がこれこれこういう薬です、と説明する。ふんふんと聞いたマスターはすぐに携帯電話を取り出した。

「明日の昼まで時間くれ」
「なるべく早くしてね。鬼島さん、時間ないから」
「おう」

 わしわしとナツの頭を撫で、なんとかなるから心配するな、と言った。

「解決できなきゃ蓮さんに怒られる……夢枕に立つ、ってみんな怖いから全力で情報集めてくれるぜ。夏輔に悲しい顔させといたままでも怒られるしな」
「よろしくお願いします。ありがとう」
「困ったときは助け合いだろ」

 ナツはバナナジュースを談は水道水を、それぞれ飲み干して、全部解決したらゆっくり話そうな、と店から出るのを見送ってくれた。ついでに夕飯に食えとタッパーに入れたモツ煮込み。

「マスターが動いてくれるので、たぶん大丈夫です。最初に当たろうと思ったんですけど、昼間は基本寝てるから悪いなって」
「まさか佐々木社長に会うとは思いませんでしたね」
「ねえ……シノくん、知ってるのかなー。生きててよかったな」

 にこにこするナツを見て、談も思わず微笑む。人のことで喜べるナツが愛しい。
 アパートに帰り夕飯を食べて、ナツが入浴中に有澤に一日のことを報告、ついでに佐々木のことを伝えるとやはり知らなかったようで大層驚いていた。そして怒っていた。

「俺のほうは、とりあえず売人ひとり押さえて北山に吐かせてる。明日の朝には何かわかるかもしれない。そしたら伝えるから、新しい情報があればまた連絡をくれ」
「わかりました」
「ナツさんは」
「とりあえず、見た目は元気です。古巣だから安心するのかもしれません」
「そうか。頼む」
「はい」

 残り、五日。
 鬼島はどうなってしまうのだろうか。


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