悪戯兄妹












「先生、彼女の容体は……」

「額の出血も止まったし、

 もう大丈夫よ。

 後はこの子が目覚めてくれるのを待つだけよ」


クスクスと笑う先生。

真白い部屋に、薬の匂いが鼻に付く。

やけに広い保険室には、

彼女だけがたった一人、寝かされていた。




保険室がこんなにも広いのは訳がある。

それもそのはず、

青の学園が『不良学校』だからだ。

喧嘩なんて日常茶飯事。

(喧嘩と言っても

一部の過激派と呼ばれる不良と

生徒会による争いが九割をしめる程で、

一般の生徒達の殆どは喧嘩等を起こさない)

だから時折ベッド数が足りなくなる事があるのだ。


「それじゃあ私はこの後用事があるから……

 ここを空けておくわね」

「はい。

 彼女が目覚めるまで、私がここに居ますから」

「ふふ、頼んだわ」


そう言うと、

先生は保険室から去っていってしまう。


「……でも

 保険室を空けてまで行わなければいけない仕事って、

 一体何でしょうか……?」


……しかし、

ライは気付かない。

その先生の行為が、ちょっとした気配りだったという事を。

本当はやらねばならない仕事等なく、

ただ単に

自分がこのまま保険室に居れば、

邪魔≠ノなるだろうと思ったから

出て行ったという事を。








「『生徒会副会長が転校生をお姫様抱っこ!?』

 これで新聞部の記事の見出しは完璧だな。

 後でアーサーの野郎にメールしとこっ♪」

「確かにライは凄く紳士だけども、

 まさか女の子をお姫様抱っこして

 廊下を堂々と歩くなんて……

 凄いね、ライ」


クスクスクスクス。

悪戯な笑い声が保険室に響く。


「!!」

「お疲れ様」「お疲れ、ライ」

「ルイ坊っちゃんにルカお嬢様……!!!」


青髪をした少年に、紫いろをした少女。

名前はルイと、ルカ。

お互いの肩書きは

生徒会長と中高合同風紀委員会委員長と、

なんとも行々しい物だ。


しかし、

実際に二人は血の繋がった本当の『兄妹』なのだ。

学校にも生徒にも内密にして、

その甘美な秘密を共有する者は

兄であるルイと妹であるルカ、

それに二人に忠誠を誓うライだけだった。



そんな甘美な関係だからこそ、

昨日ルカは

実の兄の居る生徒会の尻拭いをやってのけ、


だからこそ昨日、

遠征で疲れていたにも関わらず、

ルイは実の妹をセナとの戦闘から回避させたのだ。



「二人とも……

 私の後ろをついてきていたのですね」

「尾行なら俺達得意だもんなールカ!」

「当然だよね、お兄ちゃん」


クスクスと笑う二人に、

ライは諦めの溜息をついた。


「全く……二人とも授業はとっくに

 始まってるんですよ?

 さっさと教室に戻ってください」

「えー少し位いいだろう、ライ!」

「ライったら本当真面目な性格してるよね……」


一向に保険室から出なそうな二人を見て、

益々大きなため息をつくライ。

しかし、ライは分かっていない。

自分の目の前に居る『兄妹』が、


自分に対して非常にドSである事を。

その自分の困った表情を見るのがとても好きだという事を。


「んでこいつは確か……新しく転校してきた奴だよな。

 名前は確か……」

「『風花』。

 身長は157cmで体重は無記入。

 趣味は読書に執筆に想像。

 多分……妄想の間違いだと思うけど」


苦笑するルカに、

ルカの兄、ルイが質問を投げる。


「なんで妄想……だと思うんだ?」

「だって……この子、


 初対面の私にスリーサイズを聞いてきた位だから」



「「………え?」」


ピシリと石像の様に固まる二人を余所に、

ルカはクスクスと笑みを零しながら

言葉を紡いでいった。


「青の学園の中高合同風紀委員長に

 そんな事を聞いてきた子は初めてだったからさ、

 ちょっと驚いちゃって」

「……私、

 この子を助けなかった方が良かった気が

 段々としてきたんですけども……」

「……あぁ。

 敵は異性にも同性にも居るってもんだな。

 後でこいつにはたっぷり問い詰めないと……」


黒いオーラが二人からじりじりと発せられ、

なんだか室内は淀んだ空気で

埋めつくされてしまった。






「……ん……、」


そんな状況だからだったのか。

風花は軽く唸った後、

ゆっくりと意識を覚醒していった。


「…ここ……どこ……?」

「…保険室ですよ、風花さん」

「!

 貴方は確か生徒会の……」

「副会長です。ライと言います」


ニコリと笑って見せるライは

さっきのどす黒いオーラを発していた様子とは

大きく異なっていて、

ルイとルカはその変わり様に

内心驚いていた。


(なんだかんだ言っても、)

(流石紳士……女の子には優しいんだね)


二人は小声でそう囁くと、

ライの事をじっと見つめる。

そんな二人の視線に気付いたのか、

ライはくるりとこちらを向き、

更にその様子に気付いた風花の視線が二人の視線とぶつかりあった。


「……え……!?

 ふ、風紀委員長!?

 それと……生徒会長まで!?

 なんでここに居るんですか!?」


目を見開くその様子にクスリと笑いながら、

ルイとルカはそれぞれ同じ言葉を言った。


「「ライ/生徒会副会長 をからかいに来ただけだから気にしないで」」


「………………」


そんな二人の息ぴったりな様子に益々ライは大きなため息をつき、

そんなライの様子に

ルイとルカのドSの炎が

めらりと燃え上がったのだった。















 ▼後書きのコーナー

 最後がまさかのドS落ちww
 それにしても風花が青の学園に転校してきた訳を
 早く書きたいですね。
 風花……
 意外とシリアスな過去を持ってたりするんですよ。
 普段元気いっぱいの子が
 そういうの持ってるって……

 ……なんかちょっとしたギャップ萌えみたいで
 凄く好きです、はい………(真剣な目つきで)





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