-黄色信号の三日目-
軽やかなメロディーが辺りに響く。
どうやら信号が青に変わった様だ。
風花は携帯に向けていた視線を外し、
まっすぐと前を向いて歩きだす。
そんな、普通の人がする事。
そんな、普通の日だったはず。なのに。
――なんでだろう。嫌な予感がする。
自分で言うのもあれなのだが……
自分はかなり勘のいい方だと思っている。
だからこそ、
余計に怖い。
何かが今日、確実に起こる。
体を強張らせながらも、
何かをまぎらわすかの様に視線を再び携帯に向ける。
相変わらず友達からのメールや着信で、
一杯だ。
「……ねえ。
やっぱり貴方、風花ちゃんじゃなぁい?」
「え?」
声のした方を向けば、
いつの間にか目の前には一人の少女が立っていた。
「やーっぱり風花ちゃんだぁ!
久しぶりぃ元気だった?」
「あ……天塚先輩!お久しぶりです!
こんな所でどうしたんですか?」
天塚先輩とは、
前に居た学校でだいぶお世話になっていた先輩だ。
風花は強張らせていた体がだいぶ解れるのが
自分でも分かった。
「あのねぇ、
今日は風花ちゃんに会いに来たのぉ」
「……え?
それ、どういう意味ですか?」
「あのねぇ……」
そう甘ったるく囁いた先輩の口元は、
にんまりと三日月の形に曲がっていた。
「風花ちゃんに………
紹介したい人が居るのぉ」
その言葉を聞いた瞬間、
あり得ない位の力が加わった何かで
後頭部を叩かれる衝撃が全身を駆け抜ける。
「っな……!?」
「……これでいいでしょう、『ルーク』」
「うん、ありがとう。
これはちょっとしたお礼だよ」
先輩に手渡されたのは、いくらかのお金。
「こんな汚い事させちゃってごめんね?
この子と、
だいぶ仲良かったんじゃないの?」
「………子遣い稼ぎ位、いいじゃない。
それにどうせこの子、
もううちの学校の者じゃないし」
「……だってさ。君も随分と可哀想だねぇ」
僅かに意識の残っている風花に、
にこりと笑いかけるその少年。
「っなた……一体なにも…の……、」
「それは後でたーっぷり教えてあげる♪
だから今はぐっすり眠るといいよ」
その瞬間、目隠しをされたのか
視界が一瞬にして暗くなる。
昨日は額を打ったし今日は後頭部を打ったり、
なんだか踏んだり蹴ったりの日々が
続いてるなぁ。
そう頭の片隅で思いながらも、
風花の意識は暗い闇の中へと消えて行った。