激突















廊下の気温がどんどん上がる。

どうやらその男の持つ『シンクロアームズ』は

炎の能力を引き出している様だ。


少女はそう判断すると、

小声で呪文を唱えて

水の様なものを剣に纏わせた。


「ロビン少尉=v

「なんだよルカ中尉=v

「一気に斬り込む……よ」

「でもあいつはすぐに再生しちゃうぜ?」

「分かってる。

 でも再生中は派手な動きができないはず。

 だからそこを狙って……

 『シンクロアームズ』の場所を突き止める」


ちらりと少女が後ろを見れば、

ロリとマカが素直に待機していた。


「ロリ、マカ、分かってるよね?」

『……にゅー……』

『……マスターが大丈夫だって言ってるんだから、

 大丈夫だよマカ…』


二人の瞳はスッと細くなり、

魔獣独特の荒々しいそれに変わる。


「二人のその目には期待してるからね」

『……!

 にゅ、にゅー!頑張るもんねー!』

『……私も』


急に張りきりだした魔獣を横目に、

少女は再びその視線を目の前の男に向けた。


『…ガ……アァァァアアア!!』


『マスター!

 またあの衝撃波が来る!』

「分かってる!」


少女は巨大な陣の形をした

防御魔法を張る。


『っマスター!

 でもそれさっきもやって……

 駄目だったじゃぁん!』

「心配性だね、マカは。

 大丈夫……

 今度はこれを何枚も£」るから」


ふと見ると、

少女は不敵に笑っていて。

そこにはいくつもの防御魔法が既に施されていた。


『っアァァァァアアアアアアア!!!!』


パリンパリンと

最初の何枚かは割れていくけれども、

残りのそれらは割れずに

衝撃波が止まった今でも四人を護り続けていた。


「…なーんだやるじゃねぇかルカ中尉」

「褒めても何もでないよ、ロビン」


ふっと笑みを浮かべると、

少女は何かをぶつぶつと呟く男を鋭い目つきで見つめる。


「……ロビン、行くよ」

「りょーかい…っと!」


二人は一気に地を蹴り、

男に斬りかかっていった。


ザシュリと。

相変わらず不快な音が耳をよぎり、

男は先ほどよりも大量の血を流して倒れて行った。


「マカ、ロリ!」

『にゅー……

 確かに変な気の流れはあるよぉ』

『……左腕に集中してる』

「ありがとう二人とも」


ぐったりとしている男の左腕を掴み、

少女はその青い隊服の裾を思いっきりめくった。


「…禍々しいな」


ロビンがぽつりと呟く。

その左腕に埋め込まれているそれは、

赤い紅い色をしていて

心臓の様に脈打っていた。


どくり、どくりと。

禍々しく、恐ろしく、痛々しく。

それはまるで生きているかの様に脈打っていた。



「っハァァ!!」


それを思いっきり剣で斬りつける少女。

しかしそれに剣を近づけただけで

剣に纏わりつく水が蒸発し、

剣はじわりじわりと熱を帯びた。


「なっ……何この硬さ!」

「…流石自警団の極秘武器だぜ」


傷一つつかないそれを目に、

少女は大きく目を見開き

ロビンはジッとそれを見つめた。


「こうなったら取り出すしか……」

「それはやめておいた方がいいぜ。

 剣越しだからあんまり感じねーのかも知れないけど……

 その『シンクロアームズ』、

 相当高い熱を帯びてるぜ。

 直接手で触ったら、

 皮膚は勿論の事、

 運が悪ければ骨まで溶けるかも……しれねーぞ」

「っ………」


想像してみたが、

それはなんとも酷い光景だった。


『…アァ……、』


『っマスター!ロビンさん!!』


ロリの言葉でハッと我に返る少女とロビン。

いつの間にか片方の手には

球状をした炎の塊があった。


『アァァァア!!!』


「っ……!!」

「ロビン!!」


球状のそれはロビンの腕をかすり、

隊服が音を立てて溶けていった。


「っくそ……

 隊服を新調しなくなったぜ」

「何悠長な事言ってるの!」


一旦距離をとった二人には、

もう既に傷の殆どが再生しかけている男が目に入った。


「……ルカ中尉。

 お前はまだ実戦に参加してないから

 知らねーとは思うけど……、

 『シンクロアームズ』の本当の力はこんなもんじゃねーぞ。

 こんなのはまだ序の口だぜぇ……っ!」


再び現れた球状のそれを避けると、

ロビンは少女の前に立った。


「オレがお前を護る。

 だからお前は……あいつ≠フ攻撃なんか気にせずに

 『シンクロアームズ』を壊す事だけに専念しろ」


ロビンはそう言うと、

剣を持っている手とは逆の手でいくつもの防御魔法の陣を

少女と自分の周りに張る。


「…ありがとうロビン」


そう言うと少女はロビンを引き連れて

男の元へと一気に距離を詰めた。


『ガァァァアアア!!!』


それに気付いた男が

巨大な炎の列の様なものを二人に向ける。


ロビンがそれを防ぎつつ……

少女は相変わらず男の距離を縮める。


『ッ……ッ……ァアアァァ……ッ!!!』


「なっ………!!」


男の足元には赤い紅い魔法陣が浮かび、

それはまるで炎を表している様だった。


「……!!あれは……!!」


ロビンが……目を見張る。


「おい!今すぐそいつから……離れろッ!!!」


しかしその忠告が少女の耳に届く前に、

その魔法陣からは大量の炎が噴き出した。


「ッ……!!」


そう。それはまるで―――灼熱地獄。


とっさに防御魔法を張り

顔を腕で守った少女だったが、

ロビン動揺に隊服の腕の部分が溶け、

それに隊服の端々がちりちりと焼けてしまった。


「あっつ……!!

 これじゃあ近付けない……!!!」

「だな。

 今度こそ隊服が溶けるだけじゃあすまなくなるぜ…」


男は二人にお構いなしに暴走を続け、

廊下の温度は益々ヒートアップしていった。




―――ピンポンパンポーン…♪


そんな異常な光景の中、

どこからか可愛らしい音が四人の耳に届く。

そして次の瞬間、

その可愛らしい音とは一転して

よく見知った声が廊下に響き渡った。


『ルカ中尉、ロビン少尉。

 全く君たちは……何をやってるの』

「不音隊長!」「不音!」


少女とロビンは目を大きく見開かせた。


『それにルカ中尉。

 君……団長の事相当怒らせてるよ。

 分かってるの?』

「……分かってます。

 けれどもあえてここに残る事を選択したんです」

『………本当どうなっても知らないからね』

「怒られる覚悟はありますので

 不音隊長からの心配なんて要りません」

『だから君、

 どうして言葉の端々に刺を生やすかな』


小さなため息をついた後、

不音は二人に命令を下した。


『二人とも、隊長命令だよ。

 今すぐそこから離れてこっちに避難してきて』

「「…………!!」」

『今セナ達がそっちに向かってる。

 後数十分で着くと思うけど……

 団長はセナ達にユーリ・アルへイド大佐の殺処分を許可した。

 戦闘に巻き込まれたくなかったら

 大人しくこっちに帰ってくる事だね』

「殺処分って……

 団長は何を考えてやがる!」

『落ち着いてくれないかな、ロビン。

 まあなんせ暴走したユーリ・アルへイド大佐は

 武器≠抜きにしても

 相当の腕ききだからね。

 しかも逃げ遅れたのが一人と

 それを助けようとしたもう一人が

 未だ避難できていない。しかも戦闘に巻き込まれている。

 そういう最悪の環境の中、

 二人を助けるのが優先的だという声や

 ユーリ・アルへイド大佐の様な猛者を

 生きたまま止めるのは

 不可能なんじゃないかという声が、

 自警団の幹部である隊長格や

 副隊長格の人達から多く寄せられてね。

 まあ逃げ遅れた君がまだ入団してから

 時間がたっていないという事や、

 ロビンのその性分もあるし……

 君たちにお咎めは一切無いとは思ってる。

 これは全面的に

 ユーリ・アルへイド大佐の力を制御できていなかった

 自警団の上層部や研究員達の失態という事で、

 表には発表されるだろうね』

「……お咎めは一切無し」

「……それを聞いてホッとしたけど……」


……二人は顔を見合わせる。

二人はなんとも言えない表情をしていた。


「……不音隊長。

 本当に大佐を……殺処分してしまうんですか?」

『そうだよ。

 団長の許可も下りたし、

 君たちの安全を確保する事が最優先だ。

 大人しく帰っておいで』

「っでも不音!

 大佐は……オレ達の仲間じゃねーのか?」

『…………』

「おい……不音!」

『とにかく!!

 隊長命令はしっかり守ってくれないかな!』


ビクリと震える二人。

その声はまさに苛つきをそのまま体現していた。


『……僕だって彼の事は助けたい。

 だけども助けられる程の実力と確率がない。

 ただそれだけの事だ』

「ですけども!

 まだ可能性は残っています!」

『分かってる!

 だけど……僕はこれでも組織の人間だ。

 団長命令なら仕方がない。従うまでだ』

「っそんな……!

 隊長!団長に……繋げてください!」

『今団長に繋げたら、


 団長の堪忍袋の緒が切れるけども。


 それでもいいかい?』

「っ……!!」


少女はギリっと歯をくいしばる。

少女がこんなんにも他人を助けたがるのには、

ある理由があった。


「けれども……隊長!

 私は……隊長の命令には従えません!」

『………何?』

「昔……私がまだ幼かったころ、


 目の前で両親と多くの人間を失った事があります」


「……!!」


少女の隣に居るロビンが、

少女の事を凝視する。


「全ての人間の命を救う事は私にはできません。

 けれども……せめて、

 せめて私の近くに居る人だけでいいので、

 その命を助けたい。

 私はそう思っているんです」

『……命令違反で反省文十枚提出だよ、ルカ中尉』

「大丈夫です。昔父親に……

 反省文を二十枚書かされた事がありますから」

『…………面白い、


 いいだろう』


「!!おいおい不音!

 いいのかよ!!」

『その思い、

 中々自警団では見る事が少なくなってきてるからね。

 絶滅危惧種だよ』

「私を動物扱いしないでください」

『だから君、刺を生やさないの。

 チャンスはセナがそっちに到着するまでの数十分。

 ……出来るの?』

「はい、もう覚悟≠ヘできてます」

「……覚悟?」

「うん、もう私に迷いはない。

 けれども………隊長」

『なんだいルカ中尉』

「文字が……暫く書けなくなるかもしれませんけれども

 いいですか?」

『……君がいいんであれば』

「ありがとうございます」


少女は小さくほほ笑む。

二人の会話に全くついていけてないロビンは

ただただハテナを頭上に浮かべていた。


「ロビン……私を大佐の攻撃から護って」

「……何をしようとしてるのか分かんねーけど……

 分かったよ。

 ここまで付き合ったんだから

 最後までとことん付き合ってやるぜ!!」


この時のロビンは……知らなかった。



少女が一体何をしようとしているのかを。



もしそれが分かっていたら、

きっとロビンは少女を止めていただろう。


しかしロビンは全く分かっておらず、

結果、

少女は大きな怪我をする事になったのだった。













「……だってさ、団長。

 今の会話聞いてた?」


通信室に居る不音が、

通信室の後ろの方で足を組んで座っている団長に

声をかけた。


「……全部聞こえてる。

 ったく……ルカも不音も無理しやがって。

 しかも最終的には

 お前が二人の背中を推す結果になったしな」


ギロリと不音の事を睨みつける団長。

もとい――ルイ・レオナルド。


現レオナルド家の殺気を全身に受けながらも、

不音はひるむ事なく

言葉と紡いでいった。


「しょうがないじゃないですか。

 あんな事を言われちゃあ……ね?」

「…………」


暫くの沈黙の後、

ルイは傍に控えている一人の青年に

視線を向けた。


「……まあ元の原因はお前だしなぁライ。

 まさかお前がルカの入団を許すとは……

 俺も油断したものだ」

「生憎、私もただただ何もせず

 あの方の入団を許したという訳では

 ありませんよ、ルイ坊っちゃん」

「じゃあ何をしたって言うんだ」


明らかに不機嫌な表情のルイに見つめられたレイは、

冷や汗をかきながらも、

恐る恐る口を開いていった。


「……あの方が自警団に入団したいと私に言われた時、

 私はそれを止めました。

 またあの方の使い魔も私と一緒に止めて……

 けれども、


 あの方は意志がお強い」


悪く言えば頑固≠ネのでしょうけれども。

そう悪戯に言ったライの顔は、

もうあの恐々とした表情をしていなく、

どこか明るく悪戯な笑みを浮かべていた。


「その後は使い魔を手玉にとり……

 結局は私もあの方に折られる様な形に

 なってしまいましたがね」

「…………」


それを聞いたルイは

尚も不機嫌そうな顔をしながら

通信室のモニターに写る

少女とロビンの様子に目を移した。


「……後であの二人には

 個人的な制裁をしなきゃいけないみたいだなぁ」


その小さな呟きにぶるりと身を震わせながら、

その場に居る不音とライは

何も聞かなかったという風な態度を

とり続けたそうだ。
























 ▼後書きのコーナー

 鬼 畜 ル イ 到 来 
 \(^o^)/ 

 最後の方に出てきたルイが鬼畜過ぎて
 段々管理人の脳が暴走してきましたw
 鬼畜なルイも……大好きだよ!!←

 今回の話では
 ちょっとばかり戦闘シーンを入れさせていただきました。
 しかしアレですね、
 頭の中でイメージしている動きを
 中々文字にするのは難しいです……(´`;)

 流石管理人の低クオリティー←
 まずはこの文才をどうにかしないと…
 いけませんね←←





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