拒絶セヨ












「…………ぅ……ん……?」


意識が、曖昧。

少女はゆっくりと重い瞼を持ち上げる。


「…こ…こは……!?」


一気に覚醒する、意識。

ばさりとかかっていた布団を思いっきりはらい、

重い体を無理やりに起こさせた。


「あっやっと起きた!?」


すぐそこには、金髪の少年。

もとい――アベル。


「何して―――」


じ ゃ ら り 。

……………嫌な、音。


「……ごめんね、寝ている間にちょっと

 拘束させてもらったんだ」


屈託のない、笑み。

しかし少女はそんなものには目もくれず、

自らの両足を繋いでいる、

その『枷』を凝視した。


「…こっこんなもの……!!」


声が震えているのは、きっと気のせい。

そう言い聞かせて、少女は足元に

思いっきり魔力を集中させた。

しかし、


「……無駄だ」

「……え……?」


アベルとは逆方向に居るもう一人の少年の声に、

意識を持って行かれた。


「……無駄だ。

 その枷は俺の特別製で、

 逆に集められた魔力を吸収する性質を持っている」

「……う、」


嘘だと言おうとした少女だが、

……でも、

冷静になって自らの魔力の流れを感じとってみると、

それは一旦足元には集まっているが、

しかし、

何故かすぐに外へと排出されていて、

少年の言葉が真実だという事が

分かってしまった。


「ねえねえアベル!

 速くさ、『確認』しちゃおうよ!」


アベルの純粋な声が――

少女の耳に、届く。


「……そうだな」


少年が、意味深にゆっくりと呟く。


「やったぁ♪

 じゃあ、まずはボクからねっ」


がばり、と。

勢いよく横から少女に抱きつく――アベル。


「……っなっ何して……!?」

「えへへー♪

 すぐ終わるから、ちょーっと我慢してね♪」


そして次の瞬間、








―――ぶわり。











「……っ!?」


魔力でも殺気でもない、

少女の感じた事のない『力』がアベルの体からは溢れた。


「えへへ♪

 どう?これ凄くない!?」


アベルは――にこにこと、笑う。


「早速だけどさぁ、これを……」


少女の耳元に口を寄せるアベル。

そして、





「いっぱい感じてとってくれない?」





そう呟くと同時に、

少女の体には、その得体のしれない『力』が

大量に入り込んできた。
















拒絶




拒絶 拒絶 拒絶 拒絶

拒絶?

拒絶




拒絶 拒絶 拒絶 否定

拒絶 拒絶 拒絶 拒絶





少女の脳内に――響く、いくつもの声。




拒絶 拒絶 クスっ 拒絶

否 否 否 否 否定

拒絶 絶 絶 拒む

何を?

全て

誰を?

………。



声が聞こえなくなる。

それに一旦ホッとした少女だったが、

しかし、

次の瞬間――――





    
   
         

       
   


       
  


       
      
    
   
      
 
   !
!
      !
  !






「…うっ……ぁ……っ

 嫌ぁぁぁぁああああぁっ!!」



頭が割れそうになる位の、痛み。

それが、

巨大な声と共に少女の体を揺する。


「……う、そ……、」


アベルの瞳が――大きく見開かれる。


「…ボクの『ラルト』の声を

 本当に感じとれたの……!?」


ハァハァと肩で息をする少女。

しかし、

そんな少女の異常な様子に目もくれず、

アベルは瞳をキラキラと輝かせながら

歓喜の声を上げた。


「カイン!

 やっぱりこの子がボクらの新しい

 『仲間』なんだね!!」

「……あぁ、そうみたいだな」


異常な少女の様子が

全く目に入っていない二人の少年は、

ただただ嬉しそうに、

言葉を紡ぎ続けた。


「早速『レイラ様』の元へ連れて行こう!」

「そうだな、

 『レイラ様』も新しい奴が来るのを

 とても楽しみにしていらっしゃるし」


少女の頭上で交わされる、言葉。

少女はいまだに尋常じゃない位に響き続ける、

アベルの言う、

『ラルトの言葉』を聞きながら

ただただ痛みに耐える事しかできなかった。


「……だけど、カイン」


アベルが、少年の事を――カインと呼び、

警戒した目つきで辺りを見つめる。


「……あぁ、早速―――」







ずどんっ………!!










「―――強敵、登場、だな」


室内に大量に舞い上がる、埃。

その中から、

やがて一つの人影がゆらり、ゆらり、ゆらりと姿を現す。




「……貴方達は、

 一体千歳様に何をしているのですか…?」





「……!!

 はっくれ………!!」


強烈な痛みの中、

微かに残る意識で辛うじて、

今しがた現れた少年の方に――声を、かける少女。


しかしそれも束の間、


「っいた……!」


激 痛 。

少女はすぐに空いている方の手で頭を抑え、

顔を苦痛に歪ませた。


「……!千歳様!!」


すぐさま駆け寄ろうとする少年、

もとい白蓮だったが――――



「アベル」

「はいよ♪」


皮肉にも、

こちらはそれを上回る速さで

少女の身柄をアベルの方に預け、



そして、





がきんっ………!!






金属音と、

それを中心とした風圧が

一気に辺りに響いた。


「……そこを、

 どいてはくれませんかね……っ!」

「……それは無理なお願いだな」


がきんっ!!


刀と剣が交わり――、

不快な音を産みだす。


「アベル、

 とりあえずそいつだけでも連れて

 『レイラ様』の元へ帰れ」

「えー?カインはどうするの?」

「……こいつと少し遊んでから帰る」


ちゃきり……。

剣を構える、漆黒の少年。


「……!!

 まさか、

 貴方達が今回≠フラルトの適合者……!?」

「……今回=H」


眉をひそめる――少年。


「……………貴方達には、

 知る必要のない事です」


ちゃきり。

そう言った白蓮も、少年と相対するように

刀を構える。


「……ハッやる気満々って所か?」


ぶわり。

二人の間からは――異常な量の殺気と魔力が

放たれる。


「……行こっか、

 確か君……『千歳』ちゃんって

 あそこの人に呼ばれてたよね?」


屈託のない笑みで、

少女に笑いかけるアベル。


「…だ、誰が貴方達と行くものです……か………っ」


ず き り 。

鋭い痛み。


「……!!

 千歳様っ!!」


再び苦痛で顔を歪ませた少女に

駆け寄るとした白蓮を、

漆黒の少年が制止する。


「…あいつの元に行きたければ、

 俺を倒してから行け」

「…………ッ!!!」


ガキン!!

容赦ない――金属音が響く。


「フフ、

 やってるやってる♪」


クスクスクスと、歪に嗤うアベル。


「さてさて、

 いい加減ボク達は行こっか、

 『千歳』ちゃん♪」

「っだから……っ私…は……

 行かないって………!!」


胸板をぎゅうぎゅうと押すものの、

びくともしない。


それどころか、


「……えへへ、

 千歳ちゃんは可愛いな〜………、

 本当に可愛い♪」


その無意味にも近い少女の弱々しい抵抗のおかげで、

益々、

アベルが少女に抱く好感度が上がったらしい。





ふわり。

体が宙を―――舞う。

それに気付いた時にはもう既に時遅し、


少女の体はアベルの手によって

すぐそこに広がる街へと

降ろされてしまった。


足にかかっている枷で歩けない少女の体を

軽々と抱いたアベルは、

そのまま、

街の中を颯爽と

走る、走る、走っている。


「さてさて、

 新しいお仲間の千歳ちゃんには、

 ボク達の主、兼お父さんである

 『レイラ様』について

 特別に話してあげようかな♪」

「っだから私は……仲間なんかじゃ……っ」

「も〜…、

 いい加減腹くくっちゃいないよ千歳ちゃん♪」


―――拒絶


「っ………!!」


少女の顔が、

再び訪れた苦痛によって、歪む。


「あのね、『レイラ様』って言うのはー

 『ラルトの宝石』っていう

 すっごいのを造った、

 『創造』を司るれっきとした神様なんだよ!」

「…な、にを言って……!」


神様なんて居る訳がない。

そう言おうとした少女の心を見透かしたのか、

アベルは、にやりと、

歪んだ笑みを少女に向ける。


「うん、千歳ちゃんの言いたい事は分かってる。

 だってボクも実際に『レイラ様』に

 逢うまでは、

 そう思ってたんだもん」


クスクスクス。

少女の耳には、小騒音。


「でもね、

 『レイラ様』は本当に神様なんだよ!

 人間じゃあ出来ない様な事を、

 人間の使う魔法じゃ出来ない様な事を、

 色々とやってくれるし、

 それに何よりも

 ボクは『レイラ様』によって

 この命を助けられたんだ」


ふわり。

先ほどまでの、

あの歪んだ笑みはどこへやら、

アベルの顔には自然とにこやかな笑みが

浮かんでいた。


「だからね!

 ボク達は、

 ボク達を自分の養子にしてくださった

 『レイラ様』に絶対服従なんだよ!」


ほら、また。

正常と、狂気が入れ替わる。


「だ、だったら……なっんなの……!?」

「いやいや〜

 これから千歳ちゃんを『レイラ様』の元へ

 連れて行くんだから、

 その位の事は知っててもらわないと♪」

「だから!

 私はっ行かないって―――」


拒絶

拒絶 拒絶 拒絶



「―――っうぅ……!!」


激痛が、少女の体を駆け抜ける。


「あのね、

 もう気付いてるとは思うけど、

 ボクの『ラルトの声』は

 そのまま千歳ちゃんの体を

 蝕んでるんだよ?

 だからさぁ、いい加減………」


アベルの纏う雰囲気が―――変わる。




「……ボクを拒絶≠キるの、

 やめてくれない………?」





「………え……?」


少女としては、

アベルの事を拒絶していたつもりはない。


しかし、


「…さっきっからずーっと

 『レイラ様』の元に行かないだのなんだの、

 ボクの事を拒絶してばっかでさぁ……、

 そんなにボクを否定するのが、

 拒絶するのが楽しいの?」


影。

アベルの顔には黒い影がかかる。


「っ私は別にっ

 貴方の事を拒絶してなんか――」

「あれれ?

 今度は事実を拒絶するの?」


拒 絶


「っ………!!」

「あはは、

 もう千歳ちゃんは本当に面白いよね!!」


少女の耳には小騒音→騒音。


「でも、

 もうそろそろ千歳ちゃんの、

 その口を閉じてもらわないと、

 ちょーっと困るかな」


拒絶


「っ何、言って……!?」


拒絶


「いやいや、

 もうそろそろ

 ちょーっと本気を出して

 千歳ちゃんの事を運ばないと………、ね?」


こてん。

そう可愛らしく顔をかしがせる、アベル。


「なっ……!だからっ私は!!」


拒絶


「私は白蓮とっ」


拒絶


「お屋敷にっ居なきゃっ」


拒絶 拒絶


「ずっと居なきゃっいけない運命、なっのに……!!」


拒絶 拒絶 拒絶


「……そんなの、運命じゃない。

 そんなの、

 家からの、親からの強制的なモノでしょ?」


拒絶


まるで少女の全てを

知っているかの様な――口調。


「だから、

 そんな薄っぺらい偽物の運命なんて、」


拒絶








「ボクが、

 全て拒絶してあげるよ」














拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶 拒絶






「っい………

 嫌ぁぁぁぁぁぁああああ!!!」








絶 叫 。

街に、少女の叫び声が、響く。



「……ボクもそうだった。

 『レイラ様』が運命を変えてくれた。


 だから、」


……既に意識の無い少女の髪を――撫でながら、




「ボクと一緒に、

 『愛情』だらけの新しい生活を、送ろう………」




正常な瞳をしたアベルは、

複雑な心境を無理やり

心の奥底に沈めながら、

少女を力強く抱いたのだ。












 ▼後書き

 アベルのターンが長過ぎるw
 アベルは狂ってるけど
 実はいい奴……、設定です。はい。





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