異人さん












「………」


少女は、ただ無心に歩く。

あの街からどれだけ離れたのだろう。

もうあの痛い視線を感じない。


機械的に歩めていたその足を止め、

少女はふうっと小さなため息をついた。







「ねえねえ、君」








「……え?」


男の子の、声がした。

きょろきょろと辺りを見回すが、

それらしい人物は見当たらない。


「ここだよ、ここ」


声のした方を向く。

そこには―――



「初めまして、

 ボクの名前はアベルって言うんだ♪

 よろしくね?とっても可愛い女の子」



金髪をした

一人の男の子が、

悠々と木の上に腰かけていた。






「…アベル……?」

「そっアベル♪

 君さ、

 さっき軍人を一撃で倒してた子でしょ?

 遠目からだけど、

 それ、ずっと見てたんだ」


にこにこにこ。

屈託のない笑み。

それは少女のよく知る少年が顔に浮かべるものと――

同じ種類のものだった。


「……だったら?」

「いや、なんか凄いなーって思って!

 君、何者?すっごく強いね!」


少女はなるべく冷たい言い方をしたのだけれども、

少年、もといアベルは

そんなものを気にもせず、

次々と言葉を連ねていった。


「……別に何者でもな――」

「本当に?」


ぴくり。

少女の体が一瞬揺れる。


「君さ、さっきの軍人も言ってたけど

 凄く高そーな着物着てるよね?

 見たところ、

 君は貴族の子みたいだね」


………。


「普通貴族の子って言ったら

 護衛とか従者に守られて、

 悠々と生活してるものでしょ?」


ぶらぶらぶら。

木の上で足を持て余すアベル。


「なのに、君は強い。

 あっもしかして貴族だからこそ、

 刺客とかから自分の身を守るために

 そんなに鍛えたの?

 どうなの?

 ねえどうなの!?」


アベルの瞳は、

純粋な好奇心だけが映っていた。

少女はそんな瞳を鬱陶しく感じ、

すぐにアベルから視線を逸らした。


「……貴方には関係ない」

「そうだね。うん、関係ない」


あっさりと少女の言葉を肯定する――アベル。


「関係ないけど、

 でも今からしようとしてる事に、

 それは関係してくるんだ」

「……今からしようとしてる事?」

「そっ!ボク『達』はね、」



ざぁ……。

嫌な風が辺りに吹く。







「今から君を『誘拐』しなきゃいけないんだ♪」








次の瞬間、

少女の首筋には軽い衝撃が響いた。




「っ……!?」



少女は曖昧な意識の中で、

なんとか自らの後ろを振り返る。


「……すまない」


そこには、

漆黒の髪を瞳を隠す程まで伸ばした、

もう一人の少年が居た。


「ああ、心配しなくても大丈夫だよ!

 ちょっと『確認』するだけだから♪」


にこにこにこ。

少女にこんな事をしておきながら、

そんな状況下の中で、

先ほどと同じ笑みを絶やし続けるアベル。


その様子はどこか狂っていて、

少女はぞくりと背中に何かが伝うのが分かった。


「……お前を少し別の場所へ運ぶ」


意識の無くなりつつある少女の体を

そっと支えるもう一人の少年。


「あー!

 ボクがその子の事持つのー!!」

「……お前がそれをすると、

 絶対いかがわしい事をするだろ?

 そんな事で時間をくっている暇は

 俺達にはないはずだ」

「……ちぇ」


口を尖らせるアベル。


「…あなた…達が……、

 今、子供たちを誘拐している……

 不法…しんにゅ…しゃ…」

「……お前、

 まだ意識を保ってられるのか」


驚いた口調の、もう一人の少年。


「…私…な…て……

 誘拐しても…何も…な……」

「それを判断するのは、ボク達。

 もしかして君がボクらの探し続けている

 『仲間』なのかもしれないじゃん?」


クスリと笑うアベル。


「もういい加減意識を飛ばしちゃいなよ。

 辛くない?」


今にも意識を飛ばしそうな少女に、

今度はニヤリと悪戯な笑みを浮かべるアベル。


「………楽になれ」


スッ………。

少女の瞳に手が当てられる。

強制的な、視界の遮断。

しかしそれがきっかけとなって、

少女の意識は闇に閉ざされた。



(…白…れ………)


要らない存在である自分に、

唯一忠告してくれた自らの従者。


(…ごめ……ん……)


それは、謝罪の言葉。

しかしその言葉も当の本人には届かないまま、

少女の胸に小さな穴を開けて

どこかへと飛んでいってしまった。





















「……ねえカイン、

 この子、本当何者だと思う?」


アベルは――既に意識の無い少女の事を

真剣な表情で見つめながら、

カインと呼ばれた少年に呟いた。


「……さあな。

 だが、

 今まで俺達が攫ってきた奴らとは

 大きく違う」


『異質』。

彼らにとって、この少女は初めて出会う、

そんな存在だった。


「………もしかして、」

「ああ、

 こいつが俺らの探し求めている――

 『仲間』なのかもしれない」


最初はどこか探る様な瞳で、

しかし、

少しずつ、

少しずつだがどこか愛おしげな瞳で――

彼らは少女の事を見つめる。


「……『確認』しよっか」

「ああ、すぐにするぞ」


少女の体を――愛おしそうに抱く、

カインと呼ばれた少年。


彼らは一瞬でその場から姿をくらまし、

少女は彼らの手によって

遠い何処へと

攫われていってしまったのだった。
















 ▼後書き

 新キャラが早速二人も登場しちゃいました!
 (しかも主人公の事攫っちゃったし……←)
 
 って言ってもこの二人、
 実は両方とも第0話に出てます。
 是非確認してみてください!





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