要らない子











無駄に広い、屋敷。

無駄に多い、着物。

無駄に豪勢な、内装。



少女の周りには無駄な物が、要らない物が沢山ある。

否、

少女の居るその場所こそが、

要らない物の溜まり場の様な所だった。



そして、そこに居る少女そのものも―――



周りから見てみれば要らない物≠ネのだ。




少女は、要らない子なのだ。

否、

本当ならば最も必要な子なのだが、

少女の実の両親が――少女の事を嫌っている為、

最も要らない子として、

今も別邸より従者と二人で生活をしている。



 


「……白蓮、そこに居るんでしょう?」


この声は、そんな少女の小さな呟き。

その声は純粋で、澄んでいて、

それでいてどこか哀しそうな響きを持った声だった。


「……よくお気付きで、千歳様」


すぐそこの陰から――姿を現す一人の少年。

その少年は少女とお揃いの茶髪の髪を

ゆらゆらと風に任せながら、

柔らかな笑みを浮かべている顔を

少女の方に向けた。


「いつ帰って来たの?」

「今さっきです」

「そう………」


少女は――そのオレンジの瞳を、

少年の方に向ける。


「最近白蓮はよく街に出掛ける様になったよね。

 何か街で………、

 よくない事でも起きてるの?」


少女に――白蓮と呼ばれた少年は、

ゆっくり、ゆっくりと少女に言葉を紡いだ。


「……実は、最近街の方で

 とある事件が起こっていまして……」

「聞かせて?」

「はっ」


少女と白蓮の視線が――絡み合う。


「先月、

 ニホンに二人の不法侵入者が現れた事件は

 ご存じですか?」

「うん、

 今のニホンの軍部は守備だけが取り柄だからね。

 それなのに、不法侵入者を二人も

 招いちゃうなんて……」


その言動こそはまだ幼さが残るものの、

少女の瞳は廃れてしまった

ニホンの軍部の未来を

冷たく見据えていた。


「……話を戻します。

 その二人の侵入者が、最近あちこちの街で

 子供を誘拐していると聞きまして、

 探りを入れていました」

「……誘拐?」

「はい。

 その侵入者は赤子から――千歳様や私の様な、

 大人とも子供とも言えない曖昧な歳の者も、

 片っ端から誘拐しているそうです」

「……その誘拐された子達の行方は?」

「一日と経てば――家元に、

 きちんと返されているそうです」

「……危害は加えられていないの?」

「はい。

 だからこそ――不法侵入者達は何が目的で

 子供達を誘拐しているのかが、

 全く見えないのです」

「…………ふうん……」

「なので千歳様も、

 十分身辺にご注意してくださいね。

 なるべく私が千歳様の傍に居る様

 心がけるつもりですけれども、

 でもいつ、いかなる時に、

 どうやって不法侵入者が現れるか――

 全く分かりません」

「……うん、分かった。

 なるべく周りには気をつける様にする」


少女がそう言うと、


「……まあ千歳様はお強いですから、

 もしかしたら侵入者の方が返り討ちになってしまうかも

 しれません。

 けれども用心に越した事はありません。

 是非お願いします」


少年はまたあの柔らかな笑みを顔に浮かべた。






「……千歳様、」


少年がふと――口を開く。


「何?」


シャランと、少女の髪に差している簪が

優雅に音をたてる。


「……葉っぱがついておりますよ」

「……え?どこに?」


少女は自らの髪や体のあちこちを触るが、

葉っぱらしきものは

どこにも付いていない。


「そこじゃありませんよ、」


少年が――近づく。


「ここです」


少女の肩に乗っていた葉を摘むと、

少女の目の前でそれを

くるくると器用にまわしてみせた。


「なるほど……肩だったんだ」

「えぇ。

 ……あと千歳様、」


何?

そう少女が言葉を紡ごうとしたその唇に――



自らの唇を重ね、

軽く口づける、少年。




「………は………え……?」

「いくらお強いからと言っても

 今みたいに無防備な顔をしていると、

 男は襲ってしまいますよ?」


どうやら先ほどの話の続きらしい。

顔を真っ赤にさせる少女とは正反対に、

少年はクスクスと、

悪戯が成功した子供みたいに

小さく笑った。


「…白蓮……、

 たまにそういう風に私をからかうのは

 やめてくれない?」

「何故駄目なのです?

 千歳様がこんなにも可愛らしいのが

 いけないのですよ」


 ぼっ!

軽い効果音をたてながら――

少女の顔は益々赤くなる。


「かっかっかわいっ……!?」

「ふふ、

 顔が本当に真っ赤だ」


少年の方は――益々クスクスと含み笑いをし、

二人の間には、

まるで新婚夫婦の様な和やかで、

どこか甘い雰囲気が漂った。


「…もっもう白蓮のバカ……!

 そんな冗談言わないでよ!!」

「……そんな顔で言われても、

 説得力はありませんよ」


普段はどんなに大人びていても、

少女もまだ子供。

火照った頬を冷やす為に、

恥ずかしさを隠す為に、

冷静になる為に、


一瞬で少年の前から姿を消し、

すぐそこに広がる街へと行ってしまった。




「……冗談なんかじゃないんですけどね」


誰も居なくなったそこで、

小さく呟く少年。




その言葉は当の本人には届かないまま、

風に運ばれ

遠いどこかへと消え去ってしまった。














 ▼後書き

 この二人の絡みが本当好きです……!
 相思相愛だぁ!←
 あのもどかしさがなんとも言えません!





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