略奪












パンパンパンパンパンっ………!!!

大量の、銃声。

それとほぼ同時に、

カランカランと大量の薬莢が地面に転がる音が

その異様な空間に響き渡る。


「………!!!!」


全ての弾を撃ち終えた少年、

空海は、

目の前の光景に大きく目を見開かせた。


「…黒、龍………」


紅い一つ目の少年、黒龍が、

捕らわれているカインを庇う様にして

カインと自らの前に

防御陣を張っていた。


「……お前、

 なんでここに居るんだよォ……!?」


空海の、明らかに動揺した声。


「……お久しぶりです、




 
 『空海様』」





「……ハ……!?

 黒龍……お前……何…言って……!?」


先ほどまで一緒に居た

アベルやアカネと交わした会話とは思えない位の、

丁寧な言葉づかい。


カインはそんな丁寧な言葉づかいをする

黒龍の様子を見た事もなく、

ただただ動揺し、

驚愕した表情を浮かべていた。


「………聞きたい事は、山ほどある。

 だけどなァ、

 まずはそこをどいてくれなきゃ

 話になんねェ」


ちゃきり。

今度は再び黒龍に焦点を合わせる空海。


「………嫌です、

 オレはここをどきません」


紅い赤い一つ目で、

目の前に居る空海の事をじっと見つめる黒龍。


「こいつはオレの仲間なんです。

 こいつにこれ以上の怪我はさせられない」

「………なら、


 お前ごとそいつを撃つッッ!!」


パンパンパン!!


「……オレに銃は効きませんよ」


銃から飛び出たいくもの弾は、

黒龍に当たる直前に

再び現れた防御陣によって

全て防がれてしまう。


「チッ……!」

「暫く眠っていてください、空海様」


パシンっ……!!

空海の首筋には、鋭い痛みが響く。


「…な…ァ………、

 ……クソっ………!」


どさりと床に倒れるその身体。

黒龍は、

空海の首筋を叩いたその手刀を

じっと見つめた。






黒龍は、

創造の神レイラに味方する

ラルトの適合者の中でも、


唯一のニホン人だ。


彼がまだニホンに住んでいた頃に、

きっとそこに倒れている少年と

面識があったのだろう。


そう判断したカインは、

先ほどから痛むいくつもの傷に

冷や汗を流しながら、

自らを守ってくれた黒龍にそっと言葉を紡ぐ。


「……助かった、黒龍」

「……何捕まってるんだよカイン」


悪魔でも冷めた目つきで

カインの事を見下ろす黒龍。


「早く逃げるぞ」

「あぁ」


拘束器具を取り――

カインと黒龍は一目散に

地下室から出る扉へとその足を向けた。












「……様、

 ……かい……様、

 空海………様」

「………ぅ………、」


意識が段々とはっきりしてくる。


空海はゆるゆると瞳を開け―――

自らの事を心配そうに見つめる多くの部下に

視線を向けた。


「……俺………、」

「大丈夫ですか空海様!?」

「……あァ、大丈夫だ………」


酷く痛むうなじをさすりながら

のそりと起き上がり、

空海は部下たちに言葉を紡ぐ。


「すまねェ。

 新手の侵入者が来て、俺ァやられっちまった……。

 それに

 捕えてた侵入者も逃がしっちまったし」

「いえ、

 こちらの方こそ

 新たな侵入者を招いてしまって……

 本当すみませんでした!」


バッと頭を一斉に下げる部下たち。


「……嫌、

 俺の完全な周囲への警戒不足と、

 実力不足が原因だ」


視線を下にさ迷わせる空海。


(……まさかあの場で

 黒龍が出てくるとはなァ……。

 行方不明だったあいつが、

 まさか、

 レイラの味方になっちまってたなんて………)


「……その……空海様………」

「………あァ、すまねェ」


部下たちに視線を戻し、

空海は言葉を紡ぐ。


「他の部署の奴らにも

 俺が声をかけとくから、

 とりあえずお前らだけでも今は

 国境沿いの地区の警備にあたれ」

『ハッ!!』


多くの男たちの声がはもり、

一斉に靴音をならしながら

その場から去っていく。



「……ちくしょォ……、

 黒龍が出てきたり

 『ラルトの適合者』が出てきたり、

 一体どうなってるって言うんだよ……」


その呟きは誰にも聞こえる事がなく、

空海はその頭(こうべ)をただただ項垂れるだけだった。










「あら、

 貴方達、二人とも一緒に居たのね」

「すまないアカネ。

 来るのが遅くなった」

「…………」


カインは真赤に染まるその靴をちらりと見て、

平然としているアカネに

そっと言葉を紡ぐ。


「……おいアカネ。その靴……」

「あぁ、

 さっきちょっと軍人たちに会っちゃって。

 それで少しばかり戦ったまでよ」


悪魔でも、

純粋な笑みでクスリと笑うアカネ。

その様子に冷や汗を少しばかり流しながらも、

カインは小さなため息をついた。


「……アカネ、

 アベルとあの女はどうした?」


紅い一つ目をアカネに向ける黒龍。


「二人とも私の転送魔法で

 『レイラ様』の元まで送ったわ。

 後は私達だけよ」

「………そうか」

「だけど、

 私達が無事に『レイラ様』の元へ帰れるかどうか、

 今の状態だと少しあやしいわね」


アカネが顎に――手をそえる。


「軍部の警備も厳しくなってる事だし……

 ……どうする?カイン」

「…………」


創造の神レイラに味方する

『ラルトの適合者』の中でも

リーダー格である………カインに、

話をふるアカネ。


カインは暫く考えた後、


「………強行突破をする」


そう、強い意志のこもった声でつき放す。


「……そうくると思ったわ」


クスリ。

満足そうに笑うアカネ。


「……めんどくせぇな」


小さなため息をつきながらも、

黒龍はこれから迎えようとしている

ニホンの軍人との戦いに、

その紅い一つ目を

ぎらりと光らせた。


「ニホンとの国境を越えれば、

 後は『レイラ様』側の国ばかりだ」

「国境を超える時が勝負どころね」

「あぁ。

 俺は何発かガキの軍人に銃で撃たれたから

 あんまり激しくは動きまわれない。

 黒龍とアカネが率先して

 軍人と戦ってくれ。

 俺はサポート側に回る」

「分かったわ」「……あぁ」


瞳が、ぎらぎらとぎらつく。


「ラルトの第二石『羅刹』、解放」

「ラルトの第四石『闇』、解放」


アカネとカインが順々に――

ラルトの『枷』を解き、


「……ラルトの第三石『略奪』、解放」


それを横目でちらりと見た黒龍も、

ラルトの『枷』を解く。


「……行きましょうか」

「あぁ、そうだな」

「……めんどくせぇ」


各々武器を持ち、

異国の服を風になびかせながら―――

堂々と国境線に近づいていく。


辺りからは、

軍人の足音と罵声。

しかしそれらが聞こえたその瞬間に、

三人の周りからは赤い紅い真赤な華が舞う。


舞う、

舞う、

舞う。


やがて罵声は悲鳴へと変わり、

三人は更に瞳をぎらつかせる。



―――その姿は、

まさしく化物そのもの。



こうしてニホンの軍部は

多勢の軍人を出したものの―――

侵入者を止める事も捕まえる事もできず、

そのまま国境線を

優々と超えられてしまうのだ。




そしてその後、

軍部の中でも上層部に値する者達が―――

―――そこには少女の兄、

空海も含まれているが、

その者達が容赦ない怒りを

『帝』から受ける事になるのは

もう少し後のお話……。















 ▼後書きのコーナー

 黒龍が大活躍の回でした〜、
 黒龍乙☆笑

 なんか全開の話と引き続き、
 空海が本当可哀想な立場に……←
 ……空海のかっこいいシーンを
 書きたいです←

 そして黒龍と空海には意外な過去があります。
 そこらへんのフラグ立てを
 今回はさせて頂きました←←

 ハッΣ(・Д・;)!!
 ていうか今回の話
 主人公が一度も出てきてない…!!

 ……次こそは絶対出してみせます!





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