『帝』













『貴様らには心底絶望した。

 何故、

 侵入者如きを捕える事が、

 止める事ができなかったのか?

 答えてみよ、お前達』

『…………』


沈 黙 。

それもそうだろう。

軍部の失態は

ニホンを治める『帝』の耳にも届き―――

こうして『帝』は直々にお怒りになっている。


「帝様、

 これだから軍部の者はあてにならいのです。

 軍部も結局は武士と同じく

 野蛮人という事なのですよ」


くつくつくつ。

厭らしく笑うのは――貴族達。


軍部と貴族はそれはそれは仲が悪く、

軍部の者達は皆

くっと小さく唸り、

下唇を強く噛みしめた。


「……お言葉ですが、」


そんな中、一人の少年が口を開く。


その少年は――とても若く、

爺や婆までいるこの場では

とてもとても目立っていた。


『……なんだ、空海よ』

「侵入者はどれも『ラルトの適合者』

 でありました。

 我々軍部が集めた情報によると、

 今回ニホンに侵入したのは

 『レイラ』に味方する

 『ラルトの適合者』四人が

 全員こちらに侵入してきた様です」


「なっ……!」

「ラルトの適合者じゃと……!?」

「しかも四人とは……!!」

「嘘……!!」


動揺とざわめき。


そんな中、

今まで標準語を喋っていた少年、空海が

普段の言葉づかいで―――

ざわめく者達に一喝してやる。


「うるせェぞお前ら。

 大事な報告に最中だ………

 静かにできねェのか?」


「っ………、」

「なんと口の悪い………」


再び、多少はざわめいたものの、

すぐに静まりかえる。

そんな中、

空海は再び『帝』に視線を向けた。


「……我々軍部だけでは、

 到底太刀打できない程の強さを持つ者達が

 四人も来られてしまっては、

 我々もどうしようもありませんでした」

『……………そうか………』


『ラルトの適合者』の強さは、

どの国の上層部にも知れ渡っており、


その『ラルトの適合者』を大量に所有する大国、

そう、


『ラルトの宝石』を創り出した張本人でもある

創造の神、レイラが治める国は、

それはそれは軍事力に特化しており、

今現在、

この世界のなかでもトップに君臨しているのだ。


「それに、

 『青龍家』の第三子である―――

 『青龍千歳』がその者達に連れ去られてしまい、

 こちらも余り派手に手出しができず………。

 ……まあそういう意味では

 『青龍家』の警備の甘さが

 ここでは問題に上がるべきでは

 ないでしょうか」

「なっ………!!」


今まで啖呵を切って軍部の事を侮辱していた、

空海と少女の実の父でもある

『青龍家』の当主が、

途端に顔色を悪くして

あたふたと慌て始めた。


「いやっこれはですねぇ……えっとその………」

『……青龍千歳。

 確か貴様の娘であったな?

 容姿端麗。文武両道。

 人付き合いは悪いものの、

 貴様の子供の中では一番の才能に恵まれていたな』

「しっしかし、

 千歳は気味が悪い程に

 親の前でもどの者の前でも愛想が悪くてですね、

 妻も私も余り好んでは……」

『しかし貴様の娘にはかわりない。

 貴様は娘すら守れないというのか』


クスクスクス………。

今度は軍部が笑う番。

青龍家の当主は悔しそうにその拳を力強く握り、

羞恥に耐えるしかできなかった。


『青龍千歳の警護をどの様にしていたのか。

 具体的に私に教えなさい』

「それは無理ですよ、帝。

 なんせ青龍家の御当主様は

 千歳を邪魔者扱いして、

 自分とは違う住まいに無理やり住ませているのですから」


空海が、

にんまりと口を三日月にして―――

自らの実父を罵倒する。


『……成るほど。

 道理で貴様の目が行き届かなかったのだな』

「……空海……

 居らぬ事を言って……っ!」

「……生憎俺ァあんたの事が

 『冷華』と違って大っ嫌いだからな」


んべーと悪戯に舌を出す空海。

その様子は

美男子がするととてもよく映える絵になり、

貴族の御令嬢方は皆

頬を赤く染めた。


「ですが帝様!

 千歳の護衛には

 この国にもたったの二人≠オか居ない

 『ラルトの適合者』を付けていたのですよ!」


……ざわめきが辺りに広がり、

空海はチッと舌打ちをする。


『……というと白蓮≠ゥ』

「えぇ!

 あいつが常に千歳の傍に居るのですから!

 私は安心して千歳に新しい新居を与えて、

 のんびりと住まわせてやっていたのです!

 それなのにあいつは………ッ!!!」


ぎろりと実の息子、空海の事を睨む

青龍家の当主。


そんな不穏な空気が漂う中、








「今更責任のなすり合いをして、

 どうなるというのですか」









凛とした一つの声が、

辺りには響いた。







「!白蓮………!!」


そこには少女の従者である、白蓮が居て、

堂々と貴族と軍人らの間に立ちはばかる。


「もう過去の事はいいじゃないですか。

 今議論しあうのは、

 これから我が国ニホンがどういう対策をとるか、

 どういう警備をとるか等、

 過去ではなく未来の事だと思いますがね」


正論。

白蓮の言葉に皆は皆口を閉じてしまい、

沈黙が辺りには訪れる。


「帝。

 今回は貴族も軍部も失態を犯した……。

 その結果がこれだという事で、

 よろしいでしょうか?」

『………構わない』

「ありがとうございます。

 それでは今後どうしていくべきか、

 皆さんで話し合いましょう」


そう言うと、

白蓮はそのエメラルドの瞳で

辺りを見回した。


「……そうですね。私の意見としては、

 まずは国境線の警備の強化。

 それに伴う軍人不足・武器不足は

 貴族の方々に対策をお願いしたいと思います」

「ちょっと待て、白蓮。

 まさか俺らと貴族が

 共闘しなきゃいけねェなんて、

 言わないだろうなァ……!?」

「その通りです、空海様。

 相手は何せ『あの』大国。

 ここで共闘しなければ、

 双方の被害は益々拡大し、

 自らの大事な物・守りたい物ですら………

 あいつらに破壊され、奪われてしまう」

「ッ………」


空海の脳裏に浮かぶのは、ただ一人。

そのたった一人の大事な者も、

『ラルトの適合者』らに攫われてしまい、

その拳を爪が食い込む程までに強く握った。


「そして空海様、

 私と貴方はこ度の戦いでは

 重要な『鍵』となりますよ」

「……分かってらァ」


白蓮と空海の視線が――意味深に絡み合う。


「……なんせ、



 私と空海様は『帝』に味方する、

 たった二人の『ラルトの適合者』

 なのですから………」




そう。

少女の従者、白蓮と

少女の兄、空海は、



ニホンを治める『帝』に味方する

たった二人の『ラルトの適合者』なのだ。



そして空海のその化物染みた力があったこそ、

その若さで、

空海は軍部の上層部になる事が

できたのだ。




「今こそ我々が、共闘すべき時が来たのです」


白蓮は、言葉を紡いでいく。


「創造の神、レイラと戦う日が、

 来たのです」


ゆっくりとその足を、帝に向ける。


「帝、

 我々にご命令を………」


強い意志のこもった瞳で帝の事を射抜く白蓮。


『………貴様らに、命令を下す』

『ハッ!!!!』


軍部も貴族も関係ない。

ここに居る全てのニホン人が―――

声を合わせ、

帝に対する絶対的な忠誠心を

露わにする。


『創造の神、レイラの治める国を………

 我々ニホンが、潰す!

 攫われた青龍千歳の身柄も……

 こちらに引き戻し、

 今こそ我らが世界のトップに

 立つのだ!!』

『ハッ!!!!!!!』


その忠誠心は一点の曇りがなく、

例えるならば、一本の刀だった。


しかしその刀はどこか歪んでいて。

それに気付かぬ刀は、

今日もその刃を辺りに振りまわすのだ。


「……空海様」

「……あァ。

 絶対千歳を、取り戻すぞ………ッ!!」


こちらも少しばかり歪んだ感情を持ち得ながらも、


ニホンは今日、レイラの治める大国に、

明確な敵意を露わにしたのだった。










----日常→非日常編 完----





 ▼後書きのコーナー

 ……まさかまさかの、
 白蓮・空海もラルトの適合者!?

 ……な回でした←
 本当はもっと後にこのネタバレを
 する予定だったんですけども……、

 ……なんでか管理人が暴走しちゃいました☆爆

 これで日常→非日常編は終わりです!
 次回からは新しい編に突入します!
 これからもこんな駄文ですけども……
 読んでくださるとうれしいです!





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