拒絶と羅刹と**













「黒龍!アカネ!!」


少女を抱えたまま

街中を颯爽と走っていた少年、アベルが

ニホンの国境線辺りにひっそりと立つ

二人の少年少女に急いで声をかけた。


「目撃者は?」


黒龍と呼ばれた、

右目に眼帯をつけた紅い瞳の少年は、

急いでこちらにやってきたアベルに

ただ冷静に、声をかけた。


「多分居ないと思うよ!だけど……、」

「だけど?」


こちらも冷静に、

アカネと呼ばれた少女が

強い意志のこもった瞳で

アベルの事を見つめた。


「この子の従者と途中で遭遇しちゃって、

 カインが今相手してる……!」

「…でもカインの事よ。

 きっとすぐに戻ってくるわ」

「……そうかなぁ。

 でも、

 なんだかあの人は相当やばい匂いが

 したんだよね……。

 それに変な事を言ってたし……」

「…それはどういう意味だ」


ぴくりと僅かに反応する少年、黒龍。


「ボクがたまたまその人の居る前で

 『レイラ様』っていう単語を

 出しただけで、

 ボクとカインが『ラルトの適合者』って事に

 何故か気付いちゃって……、」

「………」


黒龍は意味深に、

アベルの話を聞きながら、

意識のない

ぐったりとした少女の事を見つめる。


「………!」


そして、ハッと何かに気付いた。

一瞬ばかりその紅い一つ目は

大きく見開かれ、

その様子に少女、アカネは

小さな疑問を感じた。


「…どうしたの?黒龍」

「……嫌、まさか、な」


冷静な黒龍にしては珍しく、

視線を小さく泳がせている。


「……アベル、

 一応聞いとくが、

 こいつの名前はなんだ?」

「え?

 確かこの子の従者はこの子の事を

 『千歳』って呼んでたけど……、」

「………っ!!!」

「「……?」」


更に大きく目を見開かせる黒龍。


「…………、

 ……………………。

 ………オレは、今からカインの元へ行く」

「「………へ!?」」


突然、

いつもらしい黒龍に戻ったと思ったら、

黒龍は何かの意志のこもった瞳で

どこかに居ると思われし従者の事を

うっすらと睨んだ。


「…な、何言ってるの!?黒龍!

 なんか黒龍らしくな―――」


シュンっ。

一瞬にして姿をくらます―――黒龍。


「……どうしたのかしら」

「……さあ?」


黒龍の突然の行動に、

きょとんとする二人だが、

すぐに気を取り直して

次の行動へと移っていった。


「まあ、黒龍もカインも強いから

 問題はないわね……」

「そうだね。

 まあ……きっとなんとかなるんじゃない?」

「そうね。

 ……それよりもアベル。

 この子が新しく『ラルトの適合者』になる

 新しい私達の『仲間』なのね?」


アカネは未だ意識を飛ばし続ける

少女の事をじっと見つめる。


「うん。

 だって一般人には『ラルトの声』なんてもの

 聞こえるはずないもん。

 それにボクの『ラルト』は

 『拒絶』を司る物じゃん?

 一般人だったらちょっとした『ラルトの声』が

 体内に入ってきただけで

 すぐ意識飛ばしちゃうし」

「……その子は

 アベルの『ラルトの声』を聞き取れた上に、

 意識を飛ばさなかったのね」

「そういう事」


ニコリと笑うアベル。

アカネはそんなアベルの事さえも

ほぼ無表情とも捉えられる表情のままで

それを見つめた。


「……そう。

 ならこの子を急いで『レイラ様』の元へと

 転送するしなくちゃね」

「でもボクらのどっちかは

 千歳ちゃんに付き添って

 一緒に転送するべきだよねぇ?」

「……千歳ちゃん=H」


一瞬きょとんとするアカネだが、

すぐにアベルの腕の中に居る少女の名前が

千歳だという事を思い出す。


「……そうね。

 なら私がアベルとこの子の事を転送するわ」

「えーなんで!?

 ボクまだニホンに居たいー!!」

「………あのねぇアベル、」


アベルの我が儘がまた出てきたと

小さく呟きながら、

アカネはアベルに言葉を紡いだ。


「貴方に『転送魔法』なんていう

 魔力の量が少しでも違えば

 転送される場所がずれる、

 そんなデリケートの魔法を使える訳がないでしょう?」

「なっ……!

 ボクは自分の魔力位コントロールできるよ!!」

「本当に?」

「うっ………、」


鋭いアカネの切り返し。

アベルは小さく唸り、

そのまま黙ってしまった。


「……ほら図星でしょ?」

「うっうるさいなぁ!

 転送するなら早く転送してよっ!!」

「(……今度は逆ギレ……)

 ……分かったわ」


それこそ口には出さず、

心の中で呟くアカネ。


少女を抱いているアベルを中心に

淡い色の魔法陣が浮かび、

辺りを明るく照らした。


「くれぐれも軍人には気付かれないでよね」

「分かってるわ。

 貴方とカインをこの国にのこのこと

 侵入させた一件もあるし、

 今の軍人はぴりぴりしてるからね……」


その魔法陣から発せられる光は

益々多くなり、

アベルと少女の体を包み込む。



しかし次の瞬間、




『ビ――――――っ!!』


けたましい音と共に、

ばたばたと多くの足音が

ことらに近づてきた。


「ばっばれちゃったみたいだよ、アカネ!」

「…落ち着いて、アベル。

 まだ黒龍もカインもニホンに残ってるわ。

 私は一旦今から来る軍人を軽く

 あしらってから、

 二人の元へ行くわ」

「!!

 アカネも一緒に帰ろうよ!!」

「そうはいかないわ。

 二人が心配だもの。

 すぐに二人を連れて帰るわ」


クスリと笑うアカネ。

そんなアカネを心配そうに見つめるアベル。


「でっでも……!」

「大丈夫、私達は必ず帰るから」


そして次の瞬間、


アベルと少女の体は大量の光に包まれて、

その場から消え去った。


「本当は『移動魔法』で行き来できる位

 ニホンとあっちが近ければ

 よかったんだけどね……。

 生憎世界はそう簡単には作られてないみたい」

「不法侵入者発見!!

 直ちに捕えよ!!」

『ハッ!!!』


大量の軍人に囲まれるアカネ。

しかし、

それでもアカネは冷静。

余裕そうに、独り言をただつぶやく。


「転送魔法は

 殆どブレ無しに成功されているはず。

 あの二人に心配は要らないわね」

「一斉攻撃!開始ッ!!」

『ハッ!!!』


大量の刀を持つ軍人がアカネに向かってくるが、

それでも、

アカネは冷静沈着。


「心配が必要なのは、カインと黒龍の方ね」


そう呟くと、


「…ラルトの第二石『羅刹』、解放」


自らのラルトの枷≠解き、

ラルトの力をその身に纏った。



「…な、」


アカネに向かって走っていた

軍人の足が、

よろよろと止まる。


「その姿は……なっなんだッ!!!」


上官とも思われし軍人の声だけが、

辺りに響く。

それと

下っ端の軍人の小さなざわめきも少しばかり。


「…この姿がなんですって?」


その姿は、まさしく異様そのもの。


両手首、両手足には

透明な小さな羽。


髪は紫から真赤に染まり、

アカネの着る服は先ほどとは変わり、

なんとも奇怪な物へと成っていて、

手には一本の禍々しい鎌を持っていた。


「貴方達には、知らなくていい事よ」


そして次の瞬間、

辺りからアカネの髪の様に真赤な血が

大量に宙を舞った。


勿論あの上官からも、

下っ端の軍人たちからも。

―――この場に居合わせた全ての軍人から。

舞う、舞う、舞う。

その様子に眉一つ動かす事なく、

アカネはただ黙って

その様子を見ていた。



アカネの持つ『ラルト』は確かに

他の『ラルト』同様に

突拍子もない能力を持っているが、

しかしその能力自体は極めて戦闘能力が低い=B

今、アカネは自らの持つ大量の魔力を使って、

高速移動を行った。

たった数秒での出来事だったが、

その間に全ての軍人の急所に

その禍々しい鎌で傷を負わせ、

たったの一撃ずつで

その命に終わりを告げた。




「…ま、こんな所かしらね」


アカネは鎌をそっと降ろす。

しかし、そんなアカネは

『ラルトの適合者』の中でも

デスクワーク派≠ニ呼ばれ、

実戦派≠ナある他の者達を

サポートする側なのだ。



実戦派≠ナある他の者達がどれほど強いかという事が

これで分かっただろうが、

今回の様に大掛かりな任務では、

アカネの様な者もその任務に

参加する事になる。


「さて、

 あの二人を探しに行きましょうか」


ぐちゃりと何かを踏む音。

アカネは最早、

死体だらけのそこを見ていなかった。


真赤に染まった靴を鳴らしながら、

アカネはただ歩く。

自らの仲間を探しに、

ニホンの中心部へと、

その赤い紅いそれで歩くのだった。





















「空海様!

 侵入者が発見されました!」

「何?」


ピクリと、

軍人である少年、

そして先ほど侵入者に攫われた少女の兄である――

空海の頬が動く。


「何処でだ?」

「国境線沿いの**地区です。

 先ほど一小隊を送らせた所であります!」

「そうか。

 そいつらからの定時連絡は?」

「…まだ、ありません!」

「…もう定時は過ぎてるよなァ?」

「はっ……はいであります!」

「急いでそいつらに連絡を入れろ」

「ハッ!!」


空海は、

とある部屋の一室に居た。


「……だってさ、


 侵入者さんよォ」


そこは――地下室。


「………、」

「お前の仲間かァ?

 まあこういう状況に陥ってるお前には

 関係なさそうだけどなァ」


クスクスと笑う空海。

空海は自らの可愛い可愛い妹を

何処ぞの奴らに攫われて、

大層機嫌が悪いのだ。


「……小隊を一隊、」

「あ?」

「小隊を、たったの一隊だけで

 あいつらの元へ向かったのか……」


くくくと含み笑いをする少年、

もとい――カイン。


「全くもって、

 自殺行為だな。

 あいつらに一般人が束になった所で

 勝てる筈がないのに」

「………、お前、」


パンっ!!!


「っ………」

「……生意気なんだよ」


一気に声の低くなった空海。

その手には、

あの愛用の銃が一丁。

そしてカインの太ももからは

大量の血が噴き出していた。


「……っ………」


当然と言えば、当然の事。

自らの部下を侮辱されれば

誰だってカッとなる。


「……お前、『ラルトの適合者』だろォ?」

「……!」


ピクリと反応する、カイン。


「ならすぐには死なねェよな?

 沢山の銃弾を撃たねェと、

 死んでくれねェよなァ……!?」


ちゃきり。

再び銃に弾を入れ、

焦点をカインに合わせる音。


「千歳をどこにやった!」

「…答えないと撃つってか?」
 
「……ほォ、

 理解してるってかァ!」


パン……!


「っ………」

「千歳を何処にやった!

 何の目的で、ニホンまで来た!!」

「………」

「答えろッッ!!!」


パンパンパンパン……!!


「……言っておくがな、」

「……なんだ」


……カインが、

長い長い髪の隙間から、

その漆黒の瞳をちらりとのぞかせる。


「俺は今までに幾度となく

 拷問を受けた事がある。

 俺が『ラルトの適合者』になる前に、

 まだ一般人だった頃に、

 何度も、

 何度も、

 何度もな…………、」

「………」

「その程度じゃ、

 俺は口を割らない」

「……もっと……」


ゆらり……。


空海の纏う殺気が一段と大きくなる。


「もっと本気でやってほしいって事かァ…!?」

「……いいや、

 俺を拷問しても無駄だという事だ」


クスリ。

小さく笑うカイン。


「………っ」


その笑みを見た瞬間、


ぷつりと、

空海の何かを繋ぎとめておいた物が

切れる音がした。


「調子に……っ乗るなァァアア!!!!」


空海は、

精神的にまいっていた。


自分の少女は攫われるし、

部下は侮辱させるし、

軍部は先日不法侵入者を二人も許してしまうし、

『帝』からは大層叱られるし、


ちゃきりと勢いよくとりだしたのは、

もう一丁の銃。


「……!」


流石に、それには焦るカイン。

そんな様子に気付いているのか

気付いていないのか、


空海はもう一丁の銃にも弾を入れ、

二丁の銃の焦点を

目の前に居る不法侵入者へと合わせた。



「……死ね」


そして次の瞬間、





大量の銃声が地下室から聞こえたのだった。



















 








 ▼後書きのコーナー

 くっ空海………!!←

 なんか後半
 空海が凄い悪役的な感じでしたね←
 嫌っ空海は悪役じゃないんですよ!
 どっちかっていうと
 千歳の事を勝手に攫った
 カインとかアベルの方が悪役なんですけどね…。

 今回は
 新キャラを二人も登場させちゃいました!笑
 前サイトで連載していた時は
 二人ともニホンには来ない設定
 だったんですけども……、

 ……なんかどうしようもなく
 二人を出させたくなっちゃったんです←
 どうした私ww

 次回は、
 まだ出てから間もない
 もう片方の新キャラを大活躍させる予定です。

 どんどん
 前サイトの話からずれていっているのは気のせいです!
 ……嘘です←

 前サイトからお越しの方も、

 「チッ
  まあしょうがねぇなぁ……」

 …なノリで
 今後ともども読んでくださると嬉しいです!





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