82:耳飾リ

※一度だけ注意書きを記載させていただきます。小説ページ内の女の子のアイコンの必読・注意をよくお読みになって、ご理解いただけた方のみお進み下さい。今までの様なお話しとはテイストが全く異なります。










遮るものが無くなり、曖昧になった境界線から真冬の冷たい空気が入り込み、暖かい部屋の中を侵食する。まるで男自身から発せられた冷たい空気が、竈門家を汚染していくようにも思えた。
男は部屋を見渡しながら、口を開く。

「ここに、花札のような耳飾りをした男がいると聞いたが」

直ぐに「炭治郎君の事だ」と思った。なぜ、炭治郎君を探しているのかはわからないけど、こんな夜中に、人の家の戸を壊して入ってくる人間にまともな奴なんているわけがない。この男は危険だと、頭の中で警鐘が鳴り響いている。

(この男はだめだ。早く、早く逃げなきゃ)

目の前の男に悟られないように一歩二歩と下がって、三歩目で、男と視線がかち合う。
炭治郎君のあたたかいお日様の赤色とは全く違った、血の様な紅色に凝視された瞬間、蛇に睨まれた蛙のように固まって動けなくなる。心臓が恐怖から早鐘を刻み始めた。

「ここに、花札の耳飾りを付けた者は居りません。…お帰りください」

後ろの方から震えつつも気丈に振る舞う葵枝さんの声が聞こえてきた。けれど男は、癸枝さんの言葉には反応せず、下等生物を見下すかのごとく、私だけを直視して言った。

「稀血か」

男はゆっくりと右手を上げて、私に手を伸ばす。

「喰わせるか」

何に。喰わせるの。



「桜ねぇちゃん!」
「竹雄!」

葵枝さんの制止をすり抜けるようにして竹雄くんが私の前に立ち、私には心配そうに、男には睨みつけるように言った。

「なんだよおまえ!人ん家の戸を壊しやがって!」

怖いのだろう。気丈に振舞ってはいるけど、固く握りしめた手は音を立て震えていた。炭治郎君がいない今、男である自分が皆を守らなければと思っているのだろう。だからなのか、竹雄君は大胆な行動に出た。私に伸ばしていた男の手を、叩き落とす様に叩いたのだ。

その時の男の顔の変化を見た次の瞬間には、反射的に竹雄くんの手を取り、転げるように居間に戻って、両手と全身を使って障子を閉めて叫ぶ。

「葵枝さん、皆を連れて早く逃げてください!!!」
「桜さんも早く!」

葵枝さんは勝手口に続く方に身体を向け茂と花子ちゃんの手を握り、竹雄も早く来なさい!と続けて叫んだ。

「私はいいから!早く先に!」

ここで、禰豆子ちゃんと六太くんを探して一緒に逃げて!と言いたいのだけど、これ以上他に誰かいると知られるのはまずい。

不安と恐怖でパニックになりながらも、皆が逃げるまでは、絶対にこの障子から手を離さないと、力を込めた。

「桜おねえちゃん!」

葵枝さんの手を振り払って、花子ちゃんが私の方に駆けてくる。

「ダメ!!早く葵枝さんといっしょに」

逃げてと最後まで言えなかった。



何かが壊れる音が聞こえた後に、私の顔に何かの液体がぴしゃりと音を立て、飛び散った。花子ちゃんの目が恐怖と絶望の色に染まり、悲鳴混じりに叫んでいる。

「桜おねえちゃん!手ぇ!手がぁ!!」

前を向くと、障子が大きく斜めに切断され、男の上半身から先が姿を現した。男の右手、尖った爪の先からは瞳の色と同じ色の紅い液体を垂れ流れているが、男自身に怪我をした様子はない。

そして気付く。

障子を抑えていたはずの私の右腕が、二の腕から先が無くなっていた事を。
切断面から流れ落ちた大量の血が、ぼたぼたと音を立て、床に転がる私の右腕だったモノを紅く染めていた。


戻ル


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