79:守

次に意識が戻った場所は、布団の中だった。正面には心配気に覗く炭治郎君と、見慣れた天井と壁。竈門家の匂い。家に戻って来たのだと自然と理解した。

「炭治郎君が、連れてきて、くれたの?」

先程よりは痛みも眠気も引いたけど、まだ完全には消えていない。動けない程ではないのだけど、疲労感が強く、起き上がる体力も気力もないので、寝たままの状態で問えば、炭治郎君は更に顔を近づけて、熱を測るように額に手をおいた。

「はい…。今はどうですか?」
「痛いのも、眠いのも、楽に、なったけど、力がでない」
「辛くはないですか」
「うん」

本心だと分かったのか、炭治郎君はゆっくりと手を離した。

「ごめんね、迷惑、かけて。あれから、どれくらい時間、たった?」
「まだ1時間も経ってないです」
「そう…、……なんだ」

言いながら、眠りそうになる。

「桜さん。寝る前に、昨日しのぶさんに貰った疲労回復の薬飲んで下さい」

ぼんやりする意識の中、気力を振り絞り、なんとか薬だけは飲んで、また横になる。遠くで聞こえる炭治郎君と禰豆子ちゃんの話し声を聞きながら、眠りについた。
















かばりと勢いよく起き上がる。

「あれ?あれ?……眠くない!痛くない!」

布団の上に立ち上がって、身体中を触りながら回転したり、軽く飛び跳ねてみたりしても、目を閉じる前までは確かにあった、痛みや倦怠感が嘘のように消えていた。

「よし、治った!」
「桜さん?」

私の大きな独り言に気付いた禰豆子ちゃんが、心配気に眉を下げ部屋に入ってきた。

「寝てなくて大丈夫ですか?」
「うん。急に治って元気になった」

しのぶちゃんから貰った薬が効いたのかもしれない。

「急に治ったって…」

訝しげな表情で小さく呟く禰豆子ちゃんに、部屋を見渡しながら確認する。

「炭治郎君は?」
「……。つい、30分前に町に出かけました」
「そうなの?そんなに時間たってないんだ?じゃあ間に合うね」

禰豆子ちゃんは、私の言葉を聞いて一瞬動きを止めた。そして額に手を当て、大きなため息。

「一応聞いておきますけど、…何に間に合うんですか?」
「これから炭治郎君を追いかけて町に行くの」
「言うと思いましたよ」

やれやれといった仕草の禰豆子ちゃんに、「私行くね」と言って一歩目を踏み出そうとした間に禰豆子ちゃんは私を指差し、「捕獲せよ!!」と叫んだ。
次の瞬間。
戸が大きな音を立て開き、花子ちゃん、茂くん、六太くんが私に覆い被さるように飛びついてきた。小さな子供といえ、三人分の勢いには勝てず、下敷きになるような形で布団に逆戻り。

「ぐぇえ」
「皆その調子!桜さんをしっかり押さえつけてね」
「「は〜い!」」

元気に私の上で返事する三人は、立ち上がろうとする私にあの手この手で楽しそうに邪魔をしてくる。

「桜おねえちゃん、はうす!だよ」
「ぐはっ!ちょ、六太くんお腹の上でジャンプはほんとだめ!内臓でちゃう!」
「軟弱な未来人は寝てなさ〜い!」
「花子ちゃん、布団かえしぶはっつ」
「桜おねえちゃんを確保〜!」
「ふがふごふがふごふる!(顔に布団押し付けないで、窒息する!)」

きゃっきゃわいわい楽しそうだけど、地味に苦しいので、もがきながら布団とちびっ子たちの隙間から顔を出し、乱れた髪のまま叫ぶ。

「禰豆子ちゃん!助けて!」
「だめです。あんなに辛そうだったのに一瞬で治るわけないじゃないですか」
「自分でも驚いてるんだけど、本当に治ったの!今すっごく元気!」
「お兄ちゃんにも頼まれているので、駄目です」
「待って、違うの!私、本当に、早く町に行かなきゃいけなくなったの!」
「理由は?」
「理由は………」

ちらりと私の身体にへばりつく3人に目を向ける。さすがにあの事を、花子ちゃん達に聞かせる訳にはいかない。上手く言い出せずにいると、何か察したのか禰豆子ちゃんは、親玉のように、「そのへんでやめてあげて。助かったわ、後は私に任せてお外で遊んでらっしゃい」と三人に言った。花子ちゃん達も「了解しました姉御!」と謎のノリを発揮して外へと駆けて行く。楽しそうな声が遠のき、室内に静寂が戻った。



「………話してくれますか?」

真剣な顔をした禰豆子ちゃんに、同じ表情で頷き返した。


戻ル


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