78:声

足を一歩踏み出した瞬間の事だった。それは突然聞こえてきた。


《イクナ!!》

誰かの怒鳴り声が脳内に大きく響き渡った瞬間、虚脱感から立つことが出来なくなり、真っ白な冷たい雪の上に四つん這いになる。
次に、頭蓋骨が割れるのかと思うほどの激しい痛みが走った。少しでも緩和しようと、右手でこめかみあたりを力いっぱいに押さえつける。けど、効果が出るわけもなく、痛みから呼吸が乱れ、冷や汗も止まらない。
痛い。痛くて苦しいのに、不思議な事に、今にも眠ってしまいそうな程に強い眠気にも襲われた。昨日は沢山寝たし、それに今は眠れような状況でもないのに。どうしてだか、……ひどく眠い。
性質が真逆の痛みと眠りが拮抗し合って身体中を巡り渦巻いている。

「桜さん?!」

炭治郎君がすぐに異変に気付いて、身体を支えてくれる。今にも地面に這いつくばってしまいそうな程、力が入らなかったので、助かったと炭治郎君に身を任せた。

「どうしたんですか?!」

炭治郎君は顔を真っ青に染め、焦ったように覗き込んできた。

「こ、こえが…」
「声?」
「誰かの声、が、聞こえた、の。そしたら、急に、身体に、力が入らな、くなって…」

乱れた呼吸と眠気に負けないように、必死に伝えれば、炭治郎君は慌てて周囲を見回し、片方の手で斧を握った。けれど、炭治郎君は少ししてすぐに、構えを解く。

「ここには、俺と桜さん以外の匂いはないです。それよりどーー痛むーーーは?動けまーー?一度帰りまーーー」

痛みと眠気で纏まらない思考。一秒ごとに霞む視界と、途切れて聞こえる聴覚。

「頭、いたい。でもすごく眠いの。とても、眠くて、立てない。ちから入んない」

表情も見えない程ぼやけた炭治郎君の形が慌てたように動いたのを最後に、意識は途絶えた。


戻ル


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