76:そして1話へ戻る

12月9日昼。今はしのぶちゃん、蜜璃ちゃんと一緒に竈門家まで向かっている最中。二人もこのまま私を送りがてら竈門家へと遊びに来ることになったのだけど、「急に行って迷惑かけないかな?」と言う二人に、葵枝さんからはいつでも良し!とお許しをもらっているし、竈門家の皆ならいつでも喜んで出迎えてくれるよと伝えれば、ならお言葉に甘えておじゃましますと微笑んでくれた。










曇り空のような表情と声の蜜璃ちゃんは、背負った籠紐をギュッと握りしめた。

「そう、だったのね…」
「うん。だから私を見つけてくれた炭治郎君は、私にとって命の恩人だし、すごくいい子で尊敬できる所だらけで……うーん、年下で弟のようだけど、やっぱり…うーん。…うん。神様みたいな存在かな?」

道中、炭治郎君の話になった時、楽しそうに頬を染めた蜜璃ちゃんに、炭治郎君はどんな存在?と聞かれたので、命の恩人の下りは詳しく話していなかったなと思って、最初から説明すれば、泣きそうに顔を歪めてしまったので慌ててフォローをする。

「怪我も完治したし、今は大丈夫だから気にしないで」
「私ったら何も知らなくて」
「私が簡単にしか伝えてなかっただけだから」

どんよりとする蜜璃ちゃんの肩を掴んで、気にしないでよ〜と揺らしていると、隣のしのぶちゃんは、推理途中に確認するかのような質問をしてきた。

「桜さん。もしお辛いようでしたらよいのですが、桜さんに重症を負わせた《人物》について詳しくお聞きしても?」

蜜璃ちゃんから手を放し、腕を組んであの時の記憶を掘り出し始めた。

「…えっと、30代くらいの男性で、牙?みたいに歯がとがってて、すっごく力が強かった。ちょっと精神的に可笑しそうで狂ってるような感じで…。あと臭かった」
「なるほど…」
「で、偶然、本当にたまたまなんだけどね?私は関係してないんだけどね?藤の花が咲いてて、そこに居たら、それ以上は近寄ってこなくて。気づいたら朝で、男の人はもういなかったよ」

蜜璃ちゃんがえ!と言って、目を見開く。気にはなったけどそのまま話を続けた。

「目が覚める直前に、確か叫び声が聞こえたと思ったんだけどね…。あ、でも安心して。今年の夏ぐらいに猟師さんが、猟銃でころ…倒したから。もういないよ」

話終えて二人をみればしのぶちゃんは難しい顔をして、蜜璃ちゃんは目に涙をため抱き着いてきた。

「やはり……。ありがとうございます桜さん」
「桜ちゃん〜!!私、頑張るから!頑張るからね〜!!」
「う、うん?頑張って?あ、あの木。あと10分くらいで家につくよ」

いつも目印にしている竈門家まであと10分の距離にある、大きく曲がりくねった木を指差すと、二人は指先を追って木を見た。その瞬間。カーっと大きな鳴き声が空に響き渡り、一羽の烏が木の枝に止まった。

「緊急任務ー!南ノ町ニ鬼ガデター!胡蝶シノブト甘露寺蜜璃ハ共ニ南ニ迎エー!繰リ返ス!南ノ町ニブキャガー!!!」

真横で空気を切る音と風を感じた。そう思った時にはすでに、烏は木の枝から落下し地面でピクピクと痙攣していた。その傍には蝶の髪飾り。

「…………」
「…………」
「…………」

長い沈黙と静寂の中。ぎこちない首の動きで、しのぶちゃんを見れば、いつも蝶の髪飾りでまとめられていた髪の毛が下ろされていた。

「ねぇ、あの……今、…カラスしゃべ」
「ってません」
「でも……任務とか」
「言ってません。気のせいです」
「というか、カラスだいじょうぶなの…かな?」
「さぁ?」

冷静に押し通すしのぶちゃんから首を反対に回して蜜璃ちゃんを見る。すると、蜜璃ちゃんは大げさに身体をビクつかせ叫んだ。

「か、鎹烏は人の言葉は話せないわ!」
「………かすがいからす、っていうの?」
「え?…あ!」
「蜜璃ちゃん……も聞こえたよね?」
「全然聞こえてないわ!任務の連絡なんて!」

四方八方を見てしどろもどろになりながら汗をかく蜜璃ちゃんは、炭治郎君と同じで嘘が極限に下手なのだろう。

「烏は人の言葉を話せませんよ?歩き疲れて幻聴が聞こえたのですね。可哀想に…」

ふぅ。と大きなため息と憐れむ表情のしのぶちゃんは、熱を測るように私の額に手を当てた。

「これは疲労にきく薬です。帰ったら飲んでゆっくり休んでください」

懐から出した白い包み紙を手渡されて、思った。もう無理矢理でも終了させる気だ。と。私も烏が人の言葉を話した衝撃で呆然としていたので、ただ頷き返すしか出来なかった。





その後、二人には家まで目と鼻の先だから大丈夫と伝え、ここで別れる事にした。今回は中止になってしまったけど、必ずまた遊びに来てと伝え、次は東の町に2週間後に会いに行く約束をし、「またね」と手を振った。


「よいしょ……う、重すぎる」

今まで蜜璃ちゃんが運んでくれた、皆へのお土産の入った籠を背負うとしたのだけど、重すぎて背負うことが出来ず、考えた末に後で炭治郎君に頼んで一緒に運んでもらおうと、目印の木の裏に隠す。

「これでよし、と。ふふ、皆喜んでくれるかな?」

皆の反応を楽しみにしながら、一週間ぶりの竈門家に向かって一歩足を踏みだした。


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