68:ホッとした事に罪悪感を覚える

次の日の早朝。昨晩ギュッポンをしてもらい咲かせた大量の花を背負い、中央広場に向かっている途中。炭治郎君は鼻で嗅ぐ動作をした後、ふと後ろを振り返り声をあげた。

「あれ、しのぶさんではないですか?」
「あ、ほんと。しのぶちゃーん!」

昨日とは違った藤色の着物をきたしのぶちゃんに手を振り何度か呼びかければ、ゆっくりと歩いてくきた。

「おはようございます、桜さん、竈門君」
「こんな朝早くにどうしたの?」

方角的に町の外から来たように見えたのだけれど。

「甘露寺さんが急遽仕事が入ったので、お見送りに」
「こんなに朝早くに?害虫駆除も大変なんだね…」
「甘露寺さんは特別ですから」

見本のような上品で満点の笑顔を浮かべたしのぶちゃんは、続けて話す。

「彼女は力も背丈も才能もありますから、今一番期待されているので、忙しい方なんです。………たった四カ月であんなに…」

最後の方は小さすぎて聞こえなかったけれど、思った事をそのまま口にする。

「しのぶちゃんも十分力あるよね?」
「え?」
「ほら、昨日腕相撲したでしょ?」

昨日、私の非力さが話題になった時に、しのぶちゃんと腕相撲で勝負をしたのだけど、顔が真っ赤になる程に全力で挑んだ私は、半分の力も出していないしのぶちゃんにあっさり負けたのだ。

「桜さんより弱い女性はいないと思いますが…」
「私も(未来では)普通の部類だよ。それに、適材適所だよ」
「適材適所?」
「しのぶちゃんこの間、仕事で薬学に関わっているっていってたよね」

害虫の代表、ゴキブリをイメージしながら例える。

「害虫って物理でバーン!って叩いて駆除もできるけど、薬品で駆除もできるでしょ?」

しのぶちゃんの話す、害虫駆除が比喩なのはわかっているのだけど、何となく近いものだろうと思っている。

「100匹のゴキブリがいたら、叩いて駆除も出来るけど、沢山叩かなきゃだし、中身がぐちゃーってなって気持ち悪いし片付けも大変。でも薬品なら一気に駆除できるし、片付けも楽ちんだし、それに駆除の仕方がなんかかっこいい!」

頭の中に浮かび上がってきた映像は、ゴーグルとマスクを装着したしのぶちゃんが笑顔を浮かべながら、科学薬品でゴキブリを全滅させている姿。

「それと治療みたいな事もしてるって言ってたけど…」

今度は頭の中に、ナイチンゲールのごとく白衣の天使姿のしのぶちゃんが浮かび上がる。

「チームには回復役は必須だよ。適材適所。比べなくていいんじゃないかな?」

どんなに強い組織も回復係がいなかったら、滅亡必須。その必要性は未来のバーチャルゲームで何度も実感しています。関係ないけど。

「そしてなにより、しのぶちゃんは一番の美人さんだもの〜!」

そう言うと、しのぶちゃんはぽかんとした後に、懐かしむように愛情深い笑みを浮かべた。

「最後のは理屈になってない、です」
「ううん、これ一番大事だから」
「ふふ、桜さんありがとうございます。そうです私には私のやり方がある」

透き通った綺麗な瞳でしのぶちゃんは私を見て宣言した。

「必ずやり遂げる」
「それってなんのこと?」
「生きる価値のない害虫を駆除するためです。そうですね、……この世からカマドウマを残滅させるようなものでしょうか」
「え!!それはぜひお願いします!」
「任してください。桜さんが笑って安心して暮らせるように全力を尽くします」
「なんだか大げさな言い方な気もするけど」
「ふふ。ところで、桜さん達はこのままお帰りになるのですか?」
「うん、広場でお花を売った後でね」

くるりと回転して、花が沢山入った籠を見せてから、一束の紫色の花を取り出し手渡すと、しのぶちゃんは目を丸くして固まった。

「…………………」
「これはアキメネスて言ってね、外国のお花なんだよ〜。しのぶちゃんに似合う色のお花でしょ?」
「……」
「あげるね……どうしたの?」

しのぶちゃんはそのまま視線を炭治郎君の方に移し、考えるように顎に手を当て黙り込む。

「…………」
「しのぶちゃん?」
「……………………いえ。花、ありがとうございます」
「?」

しのぶちゃんは気持ちを切り替えるように笑顔を浮かべて、それよりもと続けた。

「私は薬屋の関係で二週間後にこの町に来るのですが、桜さんは次いつ来られますか?」
「えっと特に決めなかったけど……」

炭焼きの仕事の進行具合と出来上がりを両手で数えながら計算する。焼いて、冷ましてから、売りに行くのがこの日だから、うん二週間後大丈夫そう!と確認してから、炭治郎君を見る。

「いい?」
「俺も行けそうなので大丈夫です」

頷いて柔らかく笑う炭治郎君にありがとうと伝え、しのぶちゃんとまた会えるねと、両手をぎゅっと握り喜びを表現した。蜜璃ちゃんも会えたら会おうと伝えてもらう約束をしてから、別れた。







竈門家まであと数百メートルの距離。夕暮れに染まる道と、数匹の烏が夕日の空を寝床に向かい羽ばたく姿に、哀愁を感じた。

「うーーーん…」
「呻いてどうしたんですか?」
「あれからさ、東の町に行く度に未来への帰り方を探してるんだけど」
「………」
「それが、何一つ手掛かりがないんだよね〜!」

私が落ちた路地裏もフジの花木も歴史博物館も黒い彼岸花の事も未来へのヒントにはな〜んにもならなかった。暗中模索の中頑張ってはいたけど、ヒントらしきものは調べつくしてしまったし、これ以上どう調べようがあるのだろうか。

「今の所進捗0%です」
「………」
「他になに調べたらいいと思う?」
「…………」
「炭治郎君?」
「あ、すいません。そうですね…。何か他に…あればいいですね」
「ね。二週間後までに何かないか考えなきゃ…。炭治郎君も何か思い付いたら教えてね」






※大正コソコソ噂話※
桜さんが、イメージしているゴキブリはゴキブリではく、間違ってカブトムシを想像してます。可哀そうなカブトムシ…。


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