66:赤、青、白、黒
東の町に着いたのはお昼前だった。しのぶちゃんと蜜璃ちゃんとの約束時間までは小一時間程時間に余裕があったので、薬屋さんへと訪れていた。
前回別れ際に黒い彼岸花についてしのぶちゃんや蜜璃ちゃんに聞いたけれど収穫はなく、手掛かりがゼロで落ち込んだ気配を察したしのぶちゃんから、もしかしたらあの薬屋の店主なら知っているかもしれないから聞いてみてはどうだろうかと助言をもらっていたのだ。
炭治郎君と共に薬屋に訪れ、店主さんに黒い彼岸花の事について聞けば、何十年と植物に関わっているがそんな物は見たことも聞いた事もないと言う。
また未来の帰省に関わる収穫はなしか…。と肩を落としていると、店主さんは奥から何かを持ってきて、私にこれで調べてみてはと、あるものを提示した。
店主さんが持ってきったのは、日本草花全集と書かれた両手で抱える程の一冊の大きな書物。重さもずっしりとしており、渡された時は思わずよろけた程だった。立ったまま気軽に読める重さではなかったので、近くにあった椅子に座らせてもらい、膝に乗せページをめくる。
「ぬ、ね、の、は、ひ、ひ……、あった彼岸花」
未来では殆ど見かけることの無い紙媒体の本にドキドキしながら、彼岸花の挿絵付きのページを端から目を通していく。
【彼岸花とは、9月中旬頃に赤い花をつける全草有毒植物である】
彼岸花には毒がある。これは、未来でテレビか何かで言っていたので覚えていた知識。この知識があったからこそ、あの、黒い彼岸花を食べて死んで家に帰ろうとした。
【彼岸花には、花、葉っぱ、球根、茎、すべての部分に毒が含まれている。特に球根には強い毒が含まれており、少量の場合はほとんど問題はないが、多量に摂取すると、嘔吐、痙攣等が起こる。極めて重篤な場合は中枢神経の麻痺を引き起こし死に至ることもある。しかし球根には豊富なでんぷんも含まれており、しっかりと毒抜きをすれば、食糧難の際には食用品となる。また、毒と薬は表裏一体というように、精製されたヒガンバナの球根は、石蒜(セキサン)という名で漢方薬として利用されることがある】
そう、球根を毒抜きをすれば食用となる部分も知識としてあった。けれど、ここまで読み進めて、ん?と一つの疑問が沸き上がった。確かに、彼岸花はすべての部分に毒があるとあるが、私が食べた花びらの部分に強い毒性はないとある。私は彼岸花のすべての部分に強い毒性があると思い込んでいたのだ。朧げな意識の中だから定かではないけど、球根を食べた記憶はない。掘って食べる力は残っていなかったから。
もしかして、実は私死んでたりするのではと考えたこともあったけど、その可能性はないのかもしれない。まぁこれは通常の彼岸花の話であって、黒い彼岸花は別物かもしれないけれど……。
中々収穫が得られないなと思いながら、続きを読み進めていく。
【彼岸花の名前の由来は、お彼岸の時期に一斉に咲く事から。又は、彼岸花の球根には強い毒があり、これを食べた後には「彼岸(あの世)」しかない、という意味からきている。他には、「最初に花が咲き、後から葉っぱが伸びる」という通常の草花とは逆の生態をもっており、その葉と花を一緒に見ることがない性質から「葉見ず花見ず」とも呼ばれる。彼岸花の別名は千以上あり、毒花、幽霊花、死人花、地獄花と不吉な名前の他に、赤い花、天上の花など、めでたい兆しや天国を由来とした名前もある。不吉と吉兆、地獄と天国など相反する名前を持つ珍しい花である】
彼岸花のページをほぼ読み終えて思ったことは、彼岸花って、反転する意味を持つ花だなと感じた。名前の由来が地獄や天国、不吉や吉兆など正反対の意味を持っていたり、強い毒が強い薬に変わったり。花の後に葉が伸びたり。たった1つの花から生まれる反対の性質と、別名が千以上も生まれた事に、どこか不思議さを感じた。
(やっぱり黒い彼岸花については何も書かれてなかったか……。そういえば、あの彼岸花だらけの空間に、黒色以外にも白、青って変わった色もあったな…。赤と青、黒と白か……。他の色食べたら)
「桜さん読み終わりました?」
「ひっ!!」
ある意味隠し事を考えている最中だったので、大げさに驚いて叫んでしまった。炭治郎君は、私の反応に驚いた顔をしつつも、お店の中の時計を指さす。
「そろそろ時間ですよ?」
「え!もうそんな時間?!」
「随分と集中してましたからね。もう大丈夫そうですか?」
「うん。必要な事は分かったから大丈夫。付き合ってくれてありがとう」
「俺も貴重な本を読ませてもらったので、ちょうどよかったです」
「何の本読んだの?」
「食べれる雑草集です」
「何それ面白そう」
炭治郎君と雑談をしながら本を閉じる際に、彼岸花のページの最後の方におまけのように記載された一文をちらりと見てから、本をそっと閉じた。
【彼岸花の花言葉 「あきらめ」「悲しい思い出」「独立」「再会」「情熱」「想うはあなた一人」「転生」「また会う日を楽しみに」 】
※大正コソコソ噂話※
彼岸花の説明部分はほとんどがウィキ先生です………。