65:白黒の市松模様
前回東の町を訪れてから二週間後の11月4日火曜日。今日は三回目の東の町へ向かっている最中だ。隣をチラリと見ると気合十分といった表情の炭治郎君が、今回もなぜか腰に斧を差している。なぜ?と、見つめすぎたせいか、視線に気づいた炭治郎君が振り向き、ん?と首を傾げた。それに何でもないよと返して前を向き、歩みを早め炭治郎君より数歩先に進み出た。
本当は一人で来るつもりだったのだ。東の町までの道のりも覚えたし(と言っても一本道だけど)、いつでも花を咲かせられる私と違って、炭は持ってきた分を売ってしまったらそれで終了。後は私に付き添わせてしまうだけなので、それは悪いと思っての一人で…だったのだけど。
…だけど、あの「俺が必ずついて行きます」発言から、ただ隣町に行くにしても、炭治郎君は本当に毎回必ず付いてきた。
付いてくるのは最初の内だけかな、忙しければ来ないよねと思ってた時期もあったけど、炭焼きの仕事もあって忙しいはずなのに、炭治郎君は無理をしてでも付いてきた。町で不足している薬草の為や遠い町からの常連さんの都合で最近は1〜2日に一度は隣町に降りていたので、「一緒に居れて嬉しいけど、これ以上は炭治郎君の時間が減っちゃうし、迷惑かけちゃうから大丈夫だよ。ありがとうね。私一人で行ってくるよ」と言っても聞き入れてもらえず、逆に決めたら絶対にこうだ!となる炭治郎君の意志の固さや頑固さを改めて思い知る結果となった。
心配でしょうがない気持ちを隠さずに伝えてくれる分何も言えずに、ある意味押し負けた私が折れることになり、隣町に頻繁に行くのは控えていた。
なので今回は、この一〜二週間の遅れを取り戻せるように、花と大量の種の入った籠をグイっと背負いなおし稼ぐぞ!と気合を込めた。
「桜さん疲れてませんか?」
先に進み過ぎた私をすぐに追いかけ、真横についた炭治郎君の、道中何度目かになる質問に、Vサインとウインクを送る。
「大丈夫〜!もう山道も馴れたもんだよ!それに、脚絆のおかげで心なしか歩きやすいしね」
片足を少し高めに上げると着物が捲れ、隙間から白黒の市松模様の脚絆がチラリと見えた。禰豆子ちゃんとおそろいの形をした、このゆるい脚絆は、葵枝さんと竹雄くん茂くんに貰ったもので、前回の東の町で購入した生地で癸枝さんが一から作ってくれた代物だ。動きやすく温かい一石二鳥な優れものなので重宝しているし、なにより、葵枝さん達がプレゼントしてくれた事実がこの上なく嬉しい。
脚絆を見てほわほわしていると、炭治郎君も同じようにほわほわと幸せそうに微笑んでいた。
「前よりだいぶ体力つきましたね。俺と初めて隣町に行った時は、泡ふいてたのが懐かしいくらいです」
「あはは!吹いてたね、泡。今となっては笑えるけど、あの時は本当に辛かったな〜。それが今や東の町まで歩いていける…!炭治郎君ほめてほめて〜!」
「桜さんの努力の賜物です。えらい、えらい」
「うんうん。こないだ茂くんにも腕相撲で勝てたし、私もそろそろ大正時代の町娘くらいには、力も体力もついてきたかな?」
「そうですね、あと二倍くらい頑張ればいけそうです」
「え…まだそんなに道のり険しいの…」
※大正コソコソ噂話※
市松模様は竈門家の模様で証。夢主は気付いてないけど、確実にひっそりとじんわりと、竈門家包囲網が出来上がっている。