64:人の口癖ってうつるよね

東の町から帰って来た翌日。私は、今、正座をしています。なぜならば、

「桜さん、話、聞いて、ますか?」
「あ、はい聞いてますすみません」

炭治郎君に説教をされているからです。


昨日、東の町から帰ってきた夕飯後。炭治郎君と縁側に座りお月見をしながら桜餅を食べ、東の町での出来事をお話していた。薬草が高く売れた、花も完売したと報告から入り、茂くんが可愛かった、竹雄くんが頼りになった、葵枝さんに癒されたと話して、次はしのぶちゃんと蜜璃ちゃんという可愛いお友達が出来たとお話をしようとした時。予想通りというか、竹雄くんと茂くんが桜餅を食べ過ぎてお腹を壊してしまった。竈門家では、今まで《食べ過ぎてお腹をこわす》って事がなかったので、初めての出来事にてんやわんやする皆を落ち着かせて、胃薬を飲ませて寝かせた。症状と場が治まった時には夜も遅い時間になっており、寝不足だった私はその後すぐに寝てしまい、その日は話途中のまま終了。

次の日の朝。隣町に一人で下山し、嵯峨山さんに薬草を届け、昼すぎには家に戻り、その後すぐに炭治郎君と一緒に炭焼きの手伝いをし始めた。

竈門家は、黒炭も白炭も両方作っているけど、主に使い勝手のよい黒炭を作成しており、今日も黒炭の作成の日。
窯に入れた炭材を4〜5日かけて火加減を調整しながら炭化し、その後火を消化し窯を密封してから5日程冷ますと、黒炭が出来上がる。柔らかく発火しやすい黒炭は大正時代の特に農村部の生活必需品となっている。
今回は、5日冷まして出来上がった炭を窯から取り出し、並べていく作業のお手伝い。重労働でもないので、炭治郎君と昨日のお話の続きをしながら作業をしていた。

「でね、蜜璃ちゃんが理想の恋を語る姿が本当に可愛くてきゅんきゅんしちゃって」

蜜璃ちゃんの口癖が移ったのか、キュンキュン言いながら話せば、炭治郎君も手を動かしながら、優しい笑顔で聞いてくれていた。…この時までは。

…本当に言うつもりはなかったのだ。葵枝さんと話して決めたことだし。けれど、炭治郎君が気持ちよく話を聞いてくれるので、ついうっかりと口を滑らせてしまった。

「可愛いだけじゃなくて、強くてね〜。変態おじさんに路地裏に連れ込まれた時も、本当にかっこよく助」

カランカランと響き渡る金属音。反射的に振り向けば、炭焼き用の火鋏を落として、呆然としている炭治郎君。まるで、料理中の主婦が衝撃の話を聞いてお玉を落として固まった図みたいだなぁ、と呑気にも思ってしまった。

「は?連れ込まれたって」
「あ、やば」

自分の発言に気付き、急いで取り繕くろうにも時すでに遅し。炭治郎君のお日様顔は急変。心配に歪み今にも雨が降りそうな雨雲顔で、両肩を強く掴まれた。

「今、今、なんて言いました」
「蜜璃ちゃん可愛いってい」
「今なんて言いました」
「蜜璃ちゃん強いってい」
「その後は」
「…えっと、」
「………」
「何にも言ってないよ?」
「嘘です」
「(即答…)あの……」
「……」
「その、へんたいおじさん、ろじうら、です」
「詳しく、話して、くれますね」
「はい」


おじさんに、お金あげるから一緒にうふんなことしようと路地裏に連れ込まれ、自分の力でどうにもならずあかんやばいやつやこれ、ってなった時に、蜜璃ちゃんに助けてもらい、事なきを得ました。セーフです。何もなかったです。生きてます。大丈夫でしたので、心配しないで下さい。この通り元気です!
と明るく伝えれば、炭治郎君は胸辺りの着物ごとギュッと握り「本当に無事でよかった」と深いため息を吐いた。
酷く傷付いたような、自身を責めるような表情の炭治郎君。自惚れでなければ、家族の一員として真剣に心配してくれる姿に、申し訳ない気持ちと同時に嬉しさが込み上がってくる。

「炭治郎君…」
「助かったからいいものの…。一人で歩いていたら路地裏に連れ込まれた。その事があったのに、今日は一人で隣町に行ったと」

2トーン下がった声におやおや?となる。なんだか雲行きが怪しくなってきぞ?

「はい、あの…前から約束していたので……」
「前も、一人で、出かけて、倒れて、帰ってこれない時がありましたね」
「そんな事もあったような、なかったような〜…あはは」
「…………」
「は、は……。………」

いつものお日様顔はなりを潜め、炭治郎君は顔にすっと暗い影を落とし、にこりと笑い宣言した。

「隣町も東の町も一人で行くの禁止です」
「そんな〜!!」

炭治郎君に縋り付いて、必死に赦しを請う。

「ごめんなさい!本当に、ほんとーーに!ごめんなさい!次は気を付けるので、一人で行かせて下さい!そろそろ東の町も一人で行こうと思ってたの!薬草もお花もいつもより高くいっぱい売れるんだよ!?」

お願いします!と必死に訴えても、炭治郎君はむん!と頑固顔で拒絶。一年近く一緒に居たからわかる!これは絶対ダメな時の顔!

攻防戦を続けていると、扉の隙間から竈門家の皆が覗いているのが見えた。助けて!何とかして!と視線を送るも、こうなったら手の施しようがないと、全員が首を横に振った。


「しのぶちゃんと蜜璃ちゃんに二週間後に行くって約束したし、金づr……常連さんも出来たの!行かせてください!」
「行くなとは言ってません」

炭治郎君は、強い意志で宣言した。

「今度から俺が必ずついて行きます」
「へ?」




※大正コソコソ噂話※
竈門家は、稼ぎ手(夢主)が一人増えたので、桜餅を大量に購入できるほどに金銭的な余裕がでてきました。夢主が稼いでいるお金はそこそこ、それなりに結構あります。原価も労力もほぼ0のなので、売上がほぼ純利益になるし、竈門家に借りた治療費を返し終わってからは、ほぼ全額竈門家の食費や生活費に当てているため、竈門家は今、毎食おかず+2品、おやつ付き並みには余裕がある感じです。豪遊できるほどではないけど、食べ過ぎてお腹を壊せるくらいのゆとりは出てきた。


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