63:友情

「甲の胡蝶しのぶと申します」
「辛の甘露寺蜜璃です。今月から〜」

少し距離が離れた場所なので話の内容までは聞こえないけれど、しのぶちゃんと蜜璃ちゃんはお互いの自己紹介をしている。その隣で、葵枝さん達に手伝ってもらいながら、お花を売っているのだけれど、いつも以上に視線を強く感じた。というか、広場の全視線がここに集中しているように思えてならない。

それもそうだろうと、葵枝さん、しのぶちゃん、蜜璃ちゃんを視界に入れ、うんうんと頷く。
小柄ながらも、息をのむほどに整った容姿と立ち振る舞いが上品なしのぶちゃん。
スタイル抜群でセクシーな身体つきなのに、可愛らしい容姿と言動の蜜璃ちゃん。
母性溢れる包容力と人妻らしい妖艶さを出す美人な葵枝さん。
タイプの違った美女三人が一斉に集まれば、広場の注目集まるわけだ。隣の竹雄くんも「顔面偏差値えげつねぇ…」とボヤいているのも納得である。



「お花を売る桜ちゃん、可愛いらしいわぁ〜」

いつの間にか移動してきた蜜璃ちゃんとしのぶちゃん。お話は終わったらしい。

「普通だと思うよ〜。あ、しのぶちゃん、これ約束のお花ね。今度はちゃんとかわいいでしょ?」

しのぶちゃんに渡した花は、今朝作った、ツルニチニチソウ、ゴテマリ、ミモザを小さな花束にして桃色のリボンを巻き付けたもの。青紫、白、黄色の三色がバランスよく配置された花束は中々のセンスではないかと自画自賛できる代物だ。

「ありがとうございます。かわいいですね。匂いも優しい…」
「きゃーお花を見て微笑むしのぶちゃん可愛いわ〜!」
「蜜璃ちゃんもどうぞ」
「いいの?嬉しいわ〜!ありがとう!」

同世代の女の子と花を抱えて笑いながらのおしゃべりは、竈門家の関わりとはまた違った、楽しさと癒しを感じ心が温まった。そのままお話しつつの花売りはあっという間に過ぎ去り、話足りなさを感じたので勇気を出して、次は2週間後の火、水曜日に来る予定なので会えるかと聞けば、仕事が入らなければ絶対に来るわ〜と言う蜜璃ちゃんに、東の町に定期的に来る用事があるので必ず来ますと言うしのぶちゃん。友達と遊ぶ約束をして早く会いたいなという感覚を久しぶりに思い出し、懐かしさを感じながら、次会えた時は可愛いお店でお茶しようねと約束してお別れをした。











「それは、言わない方がいいかもしれないわね」
「ですよね。さすがにこればっかりは、ドラ〇もんのダメバージョンになって、歴史が変わって消えちゃうかも?ですし。トランクス君も黙ってたし。…うん。やっぱり言わないでおきます。まぁ可能性の話なので、確定ではないですけど…」

家に帰る途中葵枝さんと話していると、先を歩いていたはずの、竹雄くんが意味深な表情を浮かべて立ち止まっていた。追いついた私に竹雄くんが問いかけてくる。

「あのねーちゃん達と友達になったんだろう。その…いいのかよ」

竹雄くんが何を言いたいのかは、すべて聞かずとも分かった。
未来に帰るための準備をしているのに、未来に帰るかもしれないのに、…友達を作っていいのかと。そう言いたいのだろう。

「私は、未来に帰るからって、今の時間を諦めることはしたくないの」

そう言って竹雄君に笑いかけた。

「未来に帰る。だから、すべては無駄になるから何もしない。なんてつまんない考えはしたくない。それって、訪れるはずだった幸せを逃がしている事かもしれないでしょ?どうせなら、最後まで精一杯出来ることをして悔いのないようにしたい」

もちろん、別れが辛くなる理由が増えているのもわかっている。けどそれを言うなら、竈門家の皆の事もそうだ。別れるのが分かっているから、辛くなるから関わらない。そんなの、お互いが悲しくなるだけ。
私は、未来に帰る準備をしつつ、竈門家の皆の事を1番に考えると宣言したあの時から、前向きに大正時代を過ごそうと決めたのだ。

だって私の名前は、前に進み続ける強さ、と言う意味を持つ星の名前から付けられたのだから。





※大正コソコソ噂話※
夢主の名前の由来は13話で初めて自己紹介した時にも言っております。


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