57:勘違いと関連付けの連続で作られる

「この藤です………けど」
「……なんて言うんだっけ、この縄。…神社によくあるやつ」
「…しめ縄です」
「そうそう、しめ縄…。なんか、このフジさぁ」

祀られてない?

私達四人が見つめる先には、柵で囲われ御神木のごとくしめ縄で飾られた、一本のフジの花木。柵の外側には木の立札があり、以下のように記されていた。

《惨禍から人々を守る町の御神木》
《山の主の怒りを鎮め、惨禍から人々を守る木花咲耶姫宿る真冬に咲く千年藤》

そして朝早い時間帯にも関わらず、数人がフジの花木に参拝をしていた。その内の一人、長い時間祈りを捧げるように拝む、小さな穏やかそうなお婆さんにお話を聞いた。

「去年の冬に、十人近くが殺されちゃった事件があってね。皆恐怖に震えてたんだけど、ある雪の日のことよ。この藤が突然花を咲かせていてね。それから誰も死なくなったのよ。きっとこの藤に神様が宿って、私達を救ってくださったんだわ。…きっと息子の魂も導いてくださる」

悲し気に微笑み帰っていくお婆さんにお礼を告げた後、しんみりしながらも四人で顔を見合わせ一同思った事は……やばいおおごとになっている。だ。

「この間、皆に言ったよね。私を襲った犯人が夏に御用になたって嵯峨山さんから聞いたよって」
「…はい。俺も気になっていた事だったので、嵯峨山じいさんに直接聞きに行ったんです。猟銃をもってしても相当手強かったけれど、ようやく退治できたと」
「実は私が襲われて以降、被害はパッタリ止まってたんだって。偶然だと思うんだけど、私がタイミング良く咲かせてしまった冬に咲くフジの花が、全く関係のない二つの出来事を結び付けちゃったって感じかな…」

昔って、病気や自然災害を神の怒りとか目に見えない存在の仕業として、偶然同じタイミングで沈静化した関係のない出来事を結び付けて(生贄とか祠立てたとか巫女の祈りとか)、一つの出来事として捉えていた。って聞いた事があるからそれと同じような現象なのかも?まあ、犯人が、山の主っていうのがよく分からないけど。…山に住んでた?それとも元々、山を治めていた人だった?

「……あ!そうか!…ごほん。桜おねえちゃん…これは大変な事になったね?」
「え?」

花子ちゃんが、目を爛々と輝かせ獲物を逃がすまいと私を絡み見ている。

「きっと、この町の人は期待しているんじゃないかな?」

抑えきれない喜びが見え隠れする口元を両手で隠している花子ちゃん。花子ちゃんが何を伝えたいのか理解した禰豆子ちゃんがフォローする。

「そうね。きっと思っているわ。…今年も咲いてくれるに違いないって」
「このまま、冬に咲かなかったら嘘つきの町になっちゃうね!」
「観光として発展した町だけに、咲かなかったら町の人は困ります…よね」
「かわいそー!これは、責任を取って毎年冬に咲かせにこないとだねぇ…!」

この姉妹めっちゃ押してくる。責任をとりましょうという圧を二人の笑顔からひしひしと感じます。
私も鈍感じゃないから、二人が私に残って欲しくて言ってるのが分かるから、すごく嬉しいのだけども…!でも…!皆には中途半端な約束はしないと心に決めたので、嬉しい気持ちとのせめぎ合いで変な顔になりながら何も言えずに唸っていると、花子ちゃんは作戦変更とばかりに私の袖を引っ張り、上目遣いで悲し気な雰囲気を作り出す。

「ねぇ。あのお婆ちゃん…かわいそうだよ…?」
「先ほどのお婆さんの様子だと、この藤は精神的拠り所になってるように思えます。きっと信じてるんですよ。今年の冬もあの藤の花が咲いて、息子さんを安らかに見守ってくれると」
「うぅ……」

今度は同情心で攻めきた。

「あのお婆ちゃん泣いちゃうの…?」
「でも…、フジは…町の人の勘違いで」
「すでにお婆さんの心の拠り所になってるに…。他の人達も悲しむのですかね……」
「うっ」

女優並みの演技で涙を浮かべる花子ちゃんと、影を背負いうつむく禰豆子ちゃん。
やめて想像しちゃう。というか想像してしまった。あの小さなお婆さんが、真冬の寒い朝、このフジの前で悲しそうに一人佇む姿を。その手には、優しい笑顔を浮かべる息子さんの写真…。

「……こ、今年だけは、…せめて咲かせた方が、いいのかも……?」
「流されたっ!」

二人は、私の憐憫の目を確認した後、私に背を向けてグットサインしあってるのがチラリと見え、炭治郎君は私の意志の弱さに驚きツッコミをいれた。そこで、はっとし、頭をぶんぶん左右に振る。

「て、だめだめ…!本当に…!今年咲かせたら、勘違いが本当の伝承?っぽくなっちゃうよ。町の人に申し訳ないけど、誤解させたままの方が良くないと思うから…!」
「ぶぅ〜。流されたと思ったのにな〜」

花子ちゃんが残念そうに唇を尖らせた。







その後も周辺を観察してみたけど、重要な物や突然未来への扉が現れた!なんてことも無く、結局、決定的な手掛かりはないまま、帰路へとつき、夕方には家へと戻った。

お土産の桜餅は大好評で、多めに買ってきたにもかかわらず、一瞬で皆の胃袋へと吸収された。炭治郎君はやはりというか、長男節を発揮し竹雄くんや茂くん、六太くんに自分の桜餅をせがまれるまま、いっぱい食べるんだぞ、と優しい笑顔で殆どあげていたのをこの目でばっちり確認。こうなることを見通していたので、炭治郎君を無理矢理引っ張ってきて、裏庭の木に隠れるように座り、取っておいた私の分の桜餅を二人でこっそり分け合う。桜餅に舌鼓をうち、美味しいねと笑いながらほのぼのとしつつ、頭の片隅で東の町で得た情報を整理し始めた。

一つは、私が目覚めた場所は、もしかしたら後の未来に歴史博物館が建設される場所かもしれない。
二つは、私が炭治郎君に発見された場所で咲いていたフジの花は、私が咲かせた可能性が高い。そしておそらく花が咲く条件は生命の危機も関係している。
三つは、私を襲った犯人が誰も襲わなくなったタイミングと偶然重なり、フジは御神木として崇められていた。という事。

未来に帰省する直接の収穫はなかったけれど、まずは一歩を踏み出したという事で良しとしよう。また北路(ホクロ)さんに、地図を貸してもらい、もう一度地理を洗い直そうと心に決めた。








※大正コソコソ噂話※
木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)とは、日本神話に登場する神様の名前です。木花は桜の花を意味し、桜の花のように美しい女性という意味があります。後に太陽の神様、天照大御神(アマテラスオオミカミ)の孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)と結婚します。


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