53:いざ東の町へ

明日が二十四節気の寒露の日。私、炭治郎君、禰豆子ちゃん、花子ちゃんの四人は、炭と花の入った籠をそれぞれ背負い、東の町に訪れていた。
炭治郎君と禰豆子ちゃんは何回か訪れた事があるみたいだけど、花子ちゃんは初めて来たらしく、完全におのぼりさん状態で、目を輝かせながら、あちらこちらに視線をさ迷わせている。
私は東の町は実質二回目なのだけれど…。町に足を踏み入れた感想は、全く知らない町。である。無理もない。この町に初めて来た時は意識も朦朧としていたし、町や景色をじっくり観察する所じゃなかったから。

「わぁ〜!すごい!お兄ちゃんすごいよ!ここ都会だよ!お店いっぱ〜い!」

目をキラキラさせて喜ぶ花子ちゃんの頭を、優しい目をした炭治郎君が撫でている。
禰豆子ちゃんは、隣町の何倍も人がいるからか、身なりを気にするように、自身の髪の毛を撫でつけていた。心配しないで、サイドアップのお団子ヘアーとっても似合ってるよ!と、ウインクを送れば、見てたんですかと照れ顔。

私達四人が今いる場所は、この町一番の賑わいの場。多種多様なお店が円上に広がる大きな広場に来ていた。
この広場に来るまでは、隣町よりは都会だけど、歴史博物館で見たような大正のレトロな雰囲気はないし、江戸時代よりの町並みだな〜って思っていたけど、この広場だけは違った。近代的な建物が円状に立ち並び、中には二階〜三階の豪華な建物もある。全てが店舗になっており、カラフルなのぼり旗や提灯がそれぞれのお店の特徴を表している。店舗の他にも、出稼ぎに来たであろう人達が露店等を開いており、沢山の人で賑わっていた。歴史博物館で見た大正時代に一番近いように思う。
この東の町の構造を例えるなら、田舎に近いような小都市の真ん中に、巨大な複合施設イオ〇があるような状態だろうか。

そして広場の端には、東西南北それぞれの位置に一つずつ出入口がある。私達が歩いて来た西、それと東の出入口の先には仲見世通りがあり、宿屋やお土産屋、食材店、料理店等、観光向けのお店が目立つ。南の出入口の先には住宅地に続く道が真っすぐ延びていて、地元住民が日常的に使用するだろうお店もいくつか見えた。北の出入り口の先にも住宅地があるらしいのだけど、南側とは違いスラム街を彷彿させ薄暗さを感じる。南側が裕福一般層のエリアなら、北側は貧困層のエリアらしく、治安も良くないので、用事がない限りは基本は近寄らないそうだ。





「ここが、桜さんの匂いと荷物があった場所です」

炭治郎君が案内してくれた広場の一角。やや北側の出入口の近くの建物と建物の間を炭治郎君が指さす。
覗くと、昼間なのに、少しだけ薄暗かった。

「ここが、私が目覚めた場所…」

一歩、二歩と近づき、九歩目で立ち止まる。
喧騒が少し遠くなり、不思議な感覚に陥いった。

「…………」

目を閉じて思い出す。
歴史博物館で大正時代のコーナーを見ていたら瞬き一つで、あの彼岸花だらけの空間。そして、……黒い彼岸花を口に含んで気を失い、気付いたらココにいた。

なぜこの場所だったのだろうか。

もしかして、今後、この場所に歴史博物館ができるのだろうか?そしてピンポイントであの、大正時代のコーナーだったとか?
けれど、前に北路(ホクロ)さんに大正時代の地図を見してもらった時の記憶と照らし合わせても違うように思える。といっても、三百年も昔の日本。時代と共に地名も何度か変化したのか、知っている地名は数える程度しかなく、また、都道府県境も現代と違っており、なんとなくの場所ならはわかるのだけれど、正確な把握は難しかった。

(うーん、機械に頼りすぎはいけないと、この時代にきて体感したけど、やっぱり、ケータイは必需品だよね…。ケータイが使えれば、すぐにわかるのにな…)

溜息をついて、北路さんに地図を貸してもらいもう一度見直そうと考えながら、他に何か情報はないかと周辺を見渡すと、地面に落ちたキラリと光るものが見えて、咄嗟に声がでる。

「あっ!!」

「え?!」
「何かあったんですか?!」
「なに?!なに?!なにっ?!?!」

三人が瞬間移動のように近づいて来たので、拾った物を見せる。

「みて!お金がおちてた!」

ズサーという音をたて三人ともコントのようにコケていた。…息ぴったりだね!



この場所での収穫は特になかったので、明日は帰る道すがら、炭治郎君が私を発見した場所に行こうとの話でまとまった。

「付き合ってくれてありがとうね。じゃあ、もう一つの本題、炭とお花を売りに行こうか」
「あの真ん中らへんから売り始める?」
「そうだね。他に物売りしてる人も多いし。あ、東の町の常連さんが、この住所にも来てくれって言われてるから、後で行ってもいい?」
「もちろんです」

広場の真ん中に移動するために薄暗い路地裏からでる時に、左隣の高級そうな割烹店が目に入り立ち止まる。

「………」
「桜さん…?」

ついて来ない私を不思議に思ったのか、振り返る炭治郎君。もう一度、割烹店を見ると、今は営業時間ではないのか、人の気配はなかった。

「………。ごめん!今行く!」

記憶を振り払うように三人の元へと走った。





その後は炭と花を売り、観光を楽しんで、夕刻には、老年の夫婦が経営している、ちょっぴり古くて小さい宿屋に到着。部屋の関係上、二対二で別れることになったのだけど、公平?にじゃんけんで分かれた結果。私と禰豆子ちゃん。炭治郎君と花子ちゃんの組み合わせになった。


「桜おねえちゃん」
「なに?花子ちゃん」

受付で先に支払いをすませてから、部屋に荷物を運ぼうとした時、隅っこの方にいる花子ちゃんに呼ばれ、しゃがむと内緒話をされた。

「お部屋交換しよう」
「ん?禰豆子ちゃんと一緒がいいの?」
「ちがくて。花子が後から入ってきたと思ったら、桜おねえちゃんだったっていうサプライズをお兄ちゃんにしてあげるの」
「普段皆で一緒に寝てるよね?というか私のどこがサプライズになるの?お花しかあげれないよ?」
「普段は、皆、だから。あのねいつもと違う場所でふた」
「花子!」

隠れるように話していた私達の元に、禰豆子ちゃんが駆け寄ってきて、花子ちゃんを説得するかのように話し出す。

「急いては事を仕損じる、よ」
「え〜でも……」
「焦ってはだめ、じっくり確実に」
「……は〜い…」

納得したのかしていないのか、花子ちゃんは渋々といった形で、炭治郎君と同じ部屋に入っていた。

「……何の話?」
「気にしないでください」

満面の笑顔で禰豆子ちゃんに手を引かれ、部屋に向かった。




食事とお風呂も終わり、明日用の花を作りながら禰豆子ちゃんと楽しく女子トーク中。

「今日見たピンク色のワンピース可愛かったね〜。絶対に禰豆子ちゃんに似合いそうだった!」
「ふふ、まだ言ってるんですか。それに私はあんなに短い丈の巻物恥ずかしくて履けないです…」
「もったいない!絶対に似合うよ!それに未来だともっと短いスカートが普通だったよ。太ももまで見えるやつ」
「それは……、しゃがむと見えませんか…?」
「見えるから、見えないように頑張ってた」
「大変なんですね…」
「おしゃれに苦労は付きものだからね。あぁ〜、禰豆子ちゃん、花子ちゃん、葵枝さんにもおしゃれの楽しみを味わってほしい…!」

その為にも花売り頑張るぞと一人ガッツポーズを取る。

「………………」
「あ、そうだ。お布団どっち側がいい?入口側?窓側?好きな方選んで〜」
「………」

返事がないので寝ちゃった?と思って禰豆子ちゃんを見ると、静かに私を見つめていた。

「え、どうしたの?」
「……桜さん」
「ん?」

禰豆子ちゃんは、そのまま無言で私に抱き着いてきた。

「禰豆子ちゃん?」

握っていた種や近くに置いてあった種が反射的に花開き畳を色づかせる。美少女の色気に一瞬ドキリとしながら問いかけると、禰豆子ちゃんは、ゆっくりと何度か深呼吸をして、私の胸元に頬をこすりつけ、ふふと笑った。

「あったかい…」
「…?最近寒くなってきたもんね。寒いなら一緒に寝る?」

半分冗談交じりで行った何気ない一言に、禰豆子ちゃんは、甘くとろける笑顔を見せる。

「はい」

正直、自分が同世代の男の子だったら一溜りもないなと思いました。





※大正コソコソ噂話※
夢主が拾ったのは500円くらい。ちゃんと交番に届けました。
この話のサブタイトルは、《今日くらいは》です。


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