51:鼻血

「ふふふ」
「?」

それにしても、とおもわず微笑むと、炭治郎君が首を傾げる。
再度笑ってから、炭治郎君に回す手をぎゅっと強める。

「いや、嬉しいな〜って。だって炭治郎君から初めて抱きしめてくれた。ギュッポンの時は全然なのに。今ならたく」

さん、花が咲かせそうと。と言おうとしたけど、炭治郎君は物凄い勢いで後ろに離れ、顔を真っ赤にして両手を真っ直ぐ上にあげた。

「すみっ!まっせん!つい!いやついじゃ!なくて!その!これは!」

崩れた面白い顔で大声を出し必死に話す姿が過剰反応すぎて、声を出して笑ってしまう。

「いやなの?」
「いやじゃない!あ!いや、その!」

あたふたと焦り、顔の赤色を更に濃くして、湯気までふいてるように見えた。
さっきまでとは違う可愛らしい炭治郎君を眺めてから、晴れきった空模様の心のまま、名前をよぶ。

「炭治郎君!」

着物についた砂を払い落としながら、立ち上がる。

「話を聴いてくれてありがとう。おかげで整理ができたよ。私、今から花子ちゃんに話してくるよ。私の心を」

心模様と同じ表情で伝えれば、炭治郎君は何度か瞬きしたあと、破顔した。

「はい!」

私も同じ笑顔を返す。
そして炭治郎君の元に歩いていき、指でシーっと仕草をして話かける。

「それと、花子ちゃんには内緒ね」
「?」

そう言って、口に両手を添え内緒話をするように、炭治郎君の耳元に囁く。

「炭治郎君が、(竈門家の中で)一番好きだよ」

目を点にして固まった炭治郎君に、本当にありがとう。私、行くね。と、花子ちゃんを探しに駆け出すと、背後で水が吹き出すような音がした。









家の中や周りに花子ちゃんはいなくて、少し離れた場所まで探しに行くと、山道近くのサクラの木の下で、体育座りをして俯く花子ちゃんを見つけた。手には私があげた櫛を握りしめている。毎朝、花子ちゃんの髪の毛を櫛で梳かしていたのに、今日は出来なかった。その櫛を大事そうに握りしめる姿を見て、叫ぶ。

「花子ちゃん!」

私の声が聞こえた瞬間、勢いよく顔をあげ、素早い動きで立ち上がり反対方向に駆け出す。

「私、未来に帰りたい!!」

花子ちゃんがピタッと止まった。

「これから帰る方法も探したい!!」

花子ちゃんが両手で耳を塞ごうとする仕草をする。私の声が届かなくなってしまう前に、ありったけの音量で叫ぶ。

「でも、皆ともずっと一緒にいたいって思う!!!」

花子ちゃんの両手の動きが途中で止まった。

「花子ちゃんの誕生日も一緒にお祝いしたい!またピクニックにも行きたい!もっと稼げたら、皆でおしゃれをして都会の町にも遊びに行きたい!毎日花が咲くほど幸せな日々を共に過ごしたいって思ってる!このままで居たいって気持ちもあるの!」

花子ちゃんの両手が完全に下げられた。

「今は答えがだせない。……だから、どちらかの選択肢を突き付けられるまでは、皆を一番に考えるよ!矛盾してるけど、これが今の私の気持ち」

言いながら、私の方から花子ちゃんに歩みより、手が届きそうな距離まで近づいて、立ち止まる。

「これじゃあダメかな…」

少しだけ情けない声になってました。







「…………ごめんなさーいいぃ!!花子のこと嫌いにならないでぇー!」

花子ちゃんは数十秒黙りこんだ後に勢いよく振り返り、私にしがみつくように抱きつき泣きじゃくる。

「大嫌いなんてうそだよ!嫌いじゃない、大好き!花子ね、桜おねえちゃんにも家族がいたのに忘れてたの。花子だって、お母さんお兄ちゃんお姉ちゃん皆に会えなくなるのは嫌だもん…!ずっと居てほしくて、来年花子の誕生日お祝いしてくれるって言って、ずっと居てくれるんだって思ったの。だから、悲しくて、大嫌いって嘘ついたの。ごめんなさい、ごめんなさい…!」

嗚咽まじりで聞きづらく語順も文章も滅裂なのに、心を刺激する想いを受け止めるように、花子ちゃんを抱きしめる。

「だから、ずっとどうしたら桜おねえちゃんが居てくれるのかって考えて、でも、大嫌いていったから。嫌われて、花子のせいで今すぐ帰るって言われたら怖くて、逃げてたの」
「私も沢山ごめんね。花子ちゃんの望む通りにしてあげたいけど、今はまだできない。それと沢山ありがとう。私の事をこんなに想ってくれて、好きになってくれて。嫌いになるわけない。私は花子ちゃんが大好きだよ。ずっとずっと大好きだよ」
「う、ん。花子も大好き…!!」











「花子ちゃん。私、今度、東の町に行こうと思うの」

家に歩きながら帰る途中、繋いでいた花子ちゃんの手をきゅっとにぎりしめる。花子ちゃんの反対の手には未来の櫛。

「一緒に東の町に来てくれる?」

泣き止んだけど、目を真っ赤に腫らした花子ちゃんは、いつものように楽し気に笑う。

「いいよ。一緒に行ってあげる。協力もしてあげる。でも邪魔もするからね」
「うん、いいよ。ありがとう」
「それに、花子も決めたの。桜おねえちゃんがこっちを選んでくれるように、花子頑張るもん。おねぇちゃんの名字を竈門にするからね」

言葉ではなく、笑顔で答えた。


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