48:心を動かすのは誰かの言葉(おもい)

梅雨の時期の、あの日の会話。

「私の弟も竹雄くんと同い年だけど、よくいたずらされたから、慣れてるよ…」
「………桜おねえちゃん、弟いたの?」
「え?言ってなかった?私の8つ下、今9歳で今年10歳になる、やんちゃな弟がいるよ。竹雄くんと同い年だね。……元気かな」

この時に改めて思い出したのだ。《そうだ。桜さんには、家族がいたのだ》と。
桜さんはあっという間に家族(うち)に馴染んで、今までずっと一緒に暮らしていたかのように家族の一員としてとけこみ、日々賑やかに楽しく過ごしていたから、つい忘れていたのだ。

そして、それは家族も同じだった。

最初の頃は、今とは比べ物にならない未来の技術に驚愕し、不可思議な物語に心躍らせた。いつかは、桜さんの話すように便利で平和な未来が訪れるのかと、想像するのが楽しかった。

けれど、《未来に家族がいる》、この事実を改めて思い知らされて以降、未来の話を聞くのを躊躇するようになった。禰豆子も竹雄も花子も茂も未来の話をせがまなくなった。
怖かったのだろう。郷愁にかられ、すぐにでも帰りたいと言われるのが。未来を追憶する程、その想いが強まるのではないかと。

隠くしきれていない、不安定で張り詰めた匂いをひそかに感じていた中、今回の桜さんの発言で、家族の糸がぷつりと切れた。

「私、そろそろ、未来に帰る方法も探そうと思って…!」

ぐさりと、心臓に突き刺さった。とうとうこの時が来たのだと。桜さんが、いつかは未来に帰ってしまう、帰りたいのだという事実を、改めて正面から突き付けられた。

だれも何も言えなかった。それは俺自身も。《未来に家族がいる》ことを思いだしてからは、覚悟をしていたつもりだった。桜さんも最初に目が覚めた時に言っていたではないか。

「これと身一つでもなんとかなる。なんとかする。絶対に生きて帰る、未来に」
「私、未来に帰りたいし、必ず帰ります」

そう言って、強い瞳で未来を見つめいたではないかと。
けれど本当に、つもり、だった。理性や頭では理解していた。けれど、その理性を超えて、感情が暴れだしそうになったのは初めてで、自分自身の心の内に戸惑ってしまった程に。
だから花子が部屋から出て行ってしまった時も、何も言えなかった。でないと何も考えずに、ただ「いやだ」と叫びだしてしまいそうだったから。






「桜さん…」
「……炭治郎君」

夕日の色に染まり、すずらんの前で座り込む桜さんからは、郷愁と悲しみ、強い迷いの匂いがした。
だからこそ、しっかりと桜さんと視線を合わせてから、口を開いた。俺自身が考えて、たどり着いた答えを伝えるために。


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