45:鼻と花

今日は竈門家の皆で、北路(ほくろ)さんの息子夫婦さんのご自宅にお邪魔している。
皆が輪になり一心に見つめる先には、黒柴のお母さんの周りで遊ぶ、生後三か月程の四ひきの子犬。まだ小さくてぽてぽてと動く姿がたまらなく可愛いく、庇護欲と母性愛を刺激する。

「かわいい」

子犬を抱っこした禰豆子ちゃんがとろんと優しい表情になる。それに続き、皆もかわいいを連呼。ここ五分程、皆の口からは可愛いの言葉しかでていない。

こう言った場面に良く思う。ケータイが使えていれば、今頃、写真や動画を撮りまくっていたのになぁ、と。子犬はもちろんだけれど、子犬に群がる竈門家の皆も凄く可愛くて平和で、記録に残したいと何度思ったことか。ケータイが使えないことが本当に悔やまれる。

「桜おねえちゃんいいなー、その子ずっと離れないよね」

茂くんが私の腕を覗くと、五匹目の子犬はぶんぶんと尻尾をふって喜びを表した。

「そうだね、なんだか好かれたみたい」

一番人懐っこく明るいこの子は茶色の男の子。飛び跳ねるように歩く姿は元気そのもので、好奇心旺盛なのか、色んな人や場所の匂いを嗅いだ後に、私の腕の中に落ち着いた。

禰豆子ちゃんに抱かれる子は垂れまろ眉の茶色の男の子。柴犬は恐がりな子が多い犬種だけど、この子は特に恐がりなのかちょっとした物音で、大げさな反応をしていた。男の人が怖いのか機敏な動きで逃げ回っていたけど、禰豆子ちゃんや私を始めとする女の人は大丈夫なのか、幸せそうに抱かれている。

竹雄くんがちょっかいをかける茶色の男の子は、黒マスクが濃いのが特徴。とてもパワフルで、竹雄くんに何度も遊ぶように突進している。

葵枝さんに頭を撫でられている黒色の男の子は、我関せずと一人ご飯を食べているけれど、食べ方が下手で、辺りにボロボロとこぼしている。

六太くんと見つめ合う黒色の女の子は、目がくりくりとしていてとても可愛い。けれど大人しすぎて、動く時は六太くんが首を傾げるのと同じ方向に首を傾げる等の真似っこ動作のみ。

五匹それぞれに個性があってとても可愛らしい。


「かわいいなー。いいなー。うちも飼おうよー」
「はなこおねえちゃん、うちは、おにいちゃんが拾ってきたわんわんがいるから、もうかえないよ」
「あはは、炭治郎君って捨て犬とかつい拾ってきちゃいそうだよね。………ん?」

今、六太くん、居るからって言った?現在進行形?犬なんていたっけ?

「あ、桜さんに抱っこされてる子、お兄ちゃんと同じような模様がありません?」
「ほんとだーー!」

垂れまろ眉の子犬を抱っこしたままの禰豆子ちゃんが、私の腕の中を覗いていった言葉に皆が同意する。
隣に座っていた炭治郎君の顔の高さまで子犬をかかげ見比べる。子犬の額の左側には、形の崩れた半円模様があって、炭治郎君の額の痣と酷似していた。

「ほんとだ。似ているね」

炭治郎君と子犬が、同じような表情できょとんとする。

「しかも顔まで似てる」
「そうですか?」
「ほら」

炭治郎くんは、私から渡された子犬をしばらく見め、子犬と共に顔をかしげた。

「ね?」
「犬も言ってますよ。似てないと思うって」

子犬が私の元に行きたいともじもじ動くので、炭治郎君は私に子犬を返しながら『冗談』を言う。炭治郎君も冗談を言うのだなと、微笑ましくてあえてのってみる。

「ふふ。他にはなんて言ってるの?」
「桜さんがいい匂がいするから落ち着く、好きだな、ずっと一緒にいたいなーって言ってます」
「そうなんだ。ありがとうね、わんちゃん」

返事をするように、鼻をペロっとなめてきた。

「他の子は何って言ってるんですか。ムツジロウさん」
「(ムツジロウ?)禰豆子に抱かれてる子犬は女の人は柔らかくて好き。竹雄と遊んでいる子犬は俺の方が強いぞ!母さんが見守る子犬はもっとご飯が食べたい。六太と見つめあっている子犬はぼーっとして何も考えてない。です」
「あはは、本当にそう言ってるみたい。アテレコがうまいね」
「本当に言ってますよ。匂いでだいたい何を考えているのかわかるので」
「ふふ」

冗談を本気のように言う炭治郎君。それだと鼻がいい通り越して超能力の一種だよと、心の中で思いながら、子犬を自分の顔の高さまであげ向き合う。

「私は花が咲かせる」

子犬をくるっと回転させ、炭治郎君と見つめ合わせる。

「炭治郎君は鼻がいい」

小さな共通点ってちょっと嬉しくなっちゃうよね、と自然に笑みがこぼれおちた。

「同じハナだね」

子犬が、炭治郎君の鼻をペロっとなめた。


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