42:約束ね
三郎さんにお礼を伝え、炭治郎君と共に家に帰れば、最初に花子ちゃんがタックル気味に抱きついてきて「心配したんだからね!」と大泣き。なんとか踏ん張り、花子ちゃんを受け止めきれたけど、その後すぐに茂くんもべそをかきながら飛びいついてきたので、さすがに二人分の体重を支えきれずに玄関で尻もちをついてしまった。それに続けと六太くんも「もう家出しちゃだめだよ」と抱きついてくる。涙を流す三人の頭を撫でながら宥めていると、いつのまにか竹雄くんが私の横に立ち、俺は心配はしてない。とそっぽを向いて報告。けど、下から見上げた竹雄くんの目の下には、クマが色濃く浮かんでいた。禰豆子ちゃんは涙目になりながら、無事でよかった。と微笑んで、葵枝さんはお腹空いたでしょうと、おにぎりとお茶を差し出してくれた。
皆が心配してくれる姿に、私は、申し訳ない気持ちと心配してくれて嬉しい気持ちが同時に溢れた、奇妙な表情をしていたと思う。
その日は、葵枝さんや禰豆子ちゃんが手伝ってくれたお陰もあり、いつもより豪華で炭治郎君の好物多めの夕飯となった。お正月より凄い!ご飯美味しい!と、喜んで騒ぐ皆と一緒に箸をすすめる。
「まいにち、たんじょうびならいいのに」
ハムスターみたいにご飯を頬張る六太くんに、そうだね、と笑顔で返しながら煮物に箸をのばしたところで花子ちゃんが笑顔で一言。
「花子は4月生まれだよ」
笑顔で箸をのばした体制のまま固まる。
「は・な・こ・は・4・月・生まれだよ。桜おねえちゃん」
汗がだらだらと流れ始め止まらない。
「私はついこの間の六月生まれよ…」
葵枝さんの同情心を誘うような声色の一言で、毛穴という毛穴から汗が噴き出てくる。
「桜おねえちゃん、いまは7月だよ?花子は4月生まれだよ」
誕生日を忘れた彼氏に、彼女が笑顔で詰めよる凄みをひしひしと感じる。
「花子が一番好きなんだよね?」
炭治郎君が、あわあわと私と花子ちゃんを見比べている。
「………いつもお兄ちゃんばっかり」
「ごめんなさーい!!」
花子ちゃんのぼそりと呟かれた言葉に瞬時に土下座。しどろもどろになりながら、言い訳がましく謝罪を口にする。
「あの、ごめんね?忘れてたわけじゃないというか、いや、あの聞き忘れていただけであって、その、はい…。」
「いいんだよ?一昨日お兄ちゃんの事聞かれたときに、あれ?と思ったけど、桜おねえちゃん気合入ってたし、お兄ちゃんが幸せなら嬉しいし。それに二人が仲良くなるのは花子としても都合がいいからね」
「あの今からでも…」
「誕生日の意味なくない?」
「はい、あの、仰る通りでございます…」
痴話喧嘩してるみたいだなと竹雄くんがご飯を口にしながらぼやき、葵枝さんはわざとらしく泣き真似をして、それを六太くんが慰めている。茂くんは一人ご飯を堪能し、禰豆子ちゃんは楽しそうに傍観、炭治郎君は今だにおろおろ。とても自由な竈門家です。
100%自分に非があるので、半端ない罪悪感が胸の内を占める。笑顔の裏に怒りを隠した花子ちゃんの機嫌をなんとか治そうと、思いつくままに言葉を放つ。
「ごめんね?あの、ちゃんと来年は、花子ちゃんの誕生日祝うから…!今年出来なかった分もしっかりと来年に繰り越しで豪華に祝うから…!」
「ら!……本当に?!」
豪華という言葉に反応したのか、花子ちゃんが体を前のめりにして、顔をぐっと近づけてくる。機嫌が治りそうな兆しが見えたので、豪華という言葉を強調する。
「うん、うん!頑張って稼いで、素敵で高額なプレゼントと食べきれない程の豪華なご飯用意するよ!」
「じゃあ許してあげる!絶対だよ!約束ね!」
嬉しそうに飛び跳ねて、指切りげんまを促す花子ちゃんに、事なきを得たとほっと一息つく。プレゼントはブランドのバック!って小悪魔な台詞を言われても対応できるぐらいに、頑張って稼ごうと心の片隅で思った。
ちょっとした騒動もあったけど、平和な一日を終えた布団の中。皆の静かな寝息が聞こえる真夜中に、なんとなく目が覚めてしまった。中々寝付けないので、物音で皆を起こさないように静かに起き上がって、部屋の隅にある棚の引き出しをひいた。上から二番目左側の小さな引き出しは私専用。中には、未来のケータイと禰豆子ちゃんにもらった巾着の二つが入っている。巾着の中には六太くんにもらった大きいドングリと炭治郎君にプレゼントするはずだったもう一枚の竈門家の家族絵。月明かりに照らされた絵を見ながら、微笑む。これは、ワタシの小さなタカラ箱。