40:四文字に表現された内の二番目の感情

布団の中でパチリと目覚める。上体をおこし、固まった身体をほぐすようにぐーっと伸びをして、あくびを一つ。

「んー!よく、寝た」

スッキリとした思考と疲れの取れた身体、たっぷり睡眠が取れた時の満足感を感じながら、辺りを見回せば、そこは見覚えのない室内だった。
玄関から入ってすぐに土間の炊事場があり、二段高い場所に自身が寝る居間がある。それなりに広い部屋だけれど、部屋中に置かれた番傘が空間を狭くしている。

「…ここどこ?」

帰る途中に具合が悪くなり、外で寝てしまったのは何となく覚えていた。親切な方が、泊めてくれたのだろうかと考えて、あ!っと閃き両手をポンっと叩く。

「もしかして三郎さん?…だよね。番傘もあるし。…ん?…なにこれ……」

妙に腕が重いなと思って見れば、左腕が包帯でぐるぐる巻きにされていた。巻きすぎて、腕の太さが3倍程になっている。いつの間にか大怪我でもしたのかと、最初は恐る恐る、徐々に豪快に腕を振り回したり、つんつんしてみても、特に痛みは感じない。
暑いから外してもいいよね?と、包帯を外そうとした時、戸の開く音が静かな空間に響き渡った。
見ると、水の入った桶を抱えた炭治郎君が入口に立っていた。

「あれ?炭治郎君、どうしてここにいるの?」
「桜さん…」
「なぁに?」

と答えてから、ハッとする。窓から差し込む光は明るく、おそらく昼頃だと思われた。置き手紙には昼すぎには戻ると書いたのに、丸一日以上も不在にしてしまった事になる。
すごく心配かけただろうと申し訳ない気持ちになると同時に、あることに気付いた。昨日が炭治郎君の誕生日の前日だったので、おそらく今日は誕生日当日。イコール、炭治郎君の誕生日に間に合わせようと焦りすぎたあまり、結果的にサプライズは失敗に終わったという事。
今からでも間に合わなくないけど、完璧な状態で炭治郎君に驚きと喜びを上げたかったと、気分が若干落ち込んだ。

そう考えながら、炭治郎君に話しかけようとするも、
炭治郎君がなぜここに居るのか。迎えに来てくれたのか。竈門家の皆はどうしているのか?あれ、もしかしてプレゼント見られてたりする?私の荷物どこいったの?
など、疑問や伝えたい事が沢山ありすぎて、何から初めに話そうかとまごついていると、炭治郎君は桶を玄関に落とすように置いて、勢いよく駆け寄って私の横に座り、大声を出した。

「具合は!」
「だ、大丈夫です!寝たらすっきりしました!」
「怪我は!」
「(怪我?)なんともありません!」

ふん!と力こぶを作って元気ですアピールをすれば、炭治郎君は「よかった…」と、安心して力が抜けたように、布団の端に顔をうずくませた。

炭治郎君はそのまま無言で固まっていたけど、次第に身体がふるふる震え始め、血管が浮き出る程に力強く布団をギュッと握りしめた。

「もしもーし?たんじろーくーん?」

呼び掛けに答えるように、炭治郎君はガバッと顔をあげた。そこで初めて見た表情に驚き固まってしまう。炭治郎君は眉を寄せて目を尖らせ、歯を食い縛っていた。それは、真剣な怒りの表情だった。

「なんで黙って一人で行ったんだ!」

苛立ちを含んだ怒鳴り声に、言葉を紡げづにいると炭治郎君は続けて声を張り上げた。

「襲われて怪我をしたかもしれない!山で迷ったかもしれない!どれも、命に関わる事だ」
「ご、ごめんなさ」
「挙げ句の果てに山で寝るなんて何を考えてるんだ!そのまま連れ去られたかもしれない!」

13歳の少年にガチ説教される17歳。正論過ぎて何も言えないです。焦りの気持ちが代替行動として表れたのか、無意識に包帯を外しながら、あわあわと口を開く。

「あの、本当にごめ」
「包帯を外すなーーー!」
「は、はいーー!」










炭治郎君が包帯を巻き直してくれている。が、ふんすふんすと怒りの効果音付きで。

「あの、すみません。私、そんなに大怪我したのでしょうか?」

刺激しないように、おそるおそる質問する。

「木の枝で!切り傷が!できてました!」
「それ、かすり傷…。大袈裟じゃ…」
「桜さんは!花なので!かすり傷も!大怪我の内です!」
「待って。私、花なの?いつの間に人類卒業したの?」

炭治郎君は怒りで頭が混乱しているのだろうか。兎に角、きちんと謝罪をしなければ。体調管理が出来なかった自分が原因なのだから。
暫く気まずい無言状態が続き、包帯を巻き付ける音だけが響いている。冷や汗をかきながら、謝るタイミングと言葉を探し、今だ!と口を開く。



「炭治郎君、本当にご」
「………本当に心配したんです」

包帯を巻く手が止まり、炭治郎君は小さな声で呟いた。先程の炎の様な怒りはなく、水をかけられたように消沈している。

「父さんは、血の匂いの中で……。……」

炭治郎君は、言葉に詰まった後、何かに耐えるようにグッと拳を握る。

「桜さんも、東の町で見つけた時、血塗れで今にも息も絶えそうだった」

栄養失調に脱水、凍傷、首と背中の裂傷、大量出血、肋骨の骨折。当時の状態を改めて言葉にすると、ゾッとする。本当に私、よく死ななかったなと。まぁ、炭治郎君に発見されなければ死んでいたのは確実だけど。

「失ってしまった命は二度と回帰しない。会いたいと切望しても、二度と笑い合うことは出来ない」

炭治郎君はお父さんの事を思い出しているのだろう。寂しそうに泣きそうに眉を寄せた。

「心配で不安で大切だからこそ、怒りが溢れて止まらなくて。…怒鳴ってすみませんでした」

心配だからこその怒り。その気持ちは凄くわかる、と心の中で同意する。私も経験したことがあるから。
私のお祖父ちゃんはとっても頑固な人で大の病院嫌い&薬嫌いだった。だから具合が悪くても、大丈夫だなんともない。と言って我慢してしまう。大好きだから心配だからこそ「なんで病院行かないの?!お願い行って!怖い病気だったらどうするの?!」と心配しても行かなくて、結局倒れて緊急手術。無事に手術を終えて、安心したと同時に怒りも湧いてきた。「だから言ったじゃん!死んじゃうかと思って本当に心配したんだから!」って。
それに逆の立場だったらどうだろう。炭治郎君や禰豆子ちゃん達が一人で未来の都市に繰り出したら。車に轢かれてないか、人が多いし複雑な道だから迷ってないか、悪い人に捕まってないか、……すごく心配して、探しに行くと思う。無事を確認したら、良かったと安堵して、一人で行ったら危ないよ!なんで黙って行ったの?!って泣きながら怒るだろうなと想像がついた。

(あぁ、本当に心配をかけてしまったんだね…)

謝る炭治郎君を横目に、先程チラリと見えた私の荷物が入った籠を確認してから、ゆっくりと言葉を発した。






※大正コソコソ噂話※
三郎爺さん(原作キャラですよ)は空気の読める、スーパーお爺さんなので、町にでかけています。


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