37:僕ちんの愛の日記ch

まさか枯れないのか?!と思われた、私が咲かせた花は、意外にもすぐに枯れた。


今日は炭売りや買い出しではなく、茂くんが町の友達と遊びに行きたいということで、保護者として葵枝さん、ついでに花売りにきた私の三人で町に来ていた。
一人で花を売っていると、北路(ほくろ)さんが今日も元気に声をかけてきた。そして雑談の中で、一つの気になる情報を落としていった。
私の咲かせたスズランの花がついに枯れたのだと。詳しく聞けば、ある日までは普通に咲いていたけれど、次の日起きたら枯れていたらしい。それも萎れた程度ではなく、色を失い水分も無く乾燥し、首がしなだれ、何日も野ざらしにされた野花のように。

その後も、以前に花を購入したことがある人に話を聞けば、二点分かった事があった。一つは北路さんと同じようにある日突然枯れたという事。もう一つは突然花が枯れるのは、購入してから大体一月半程経過した頃という事だ。




「桜ちゃん!」
「実灰(じつはい)さん、こんちには。お花いかがですか?」

どうやって調べているのか、毎回花を売りに来ると、必ず買いに来る、実灰五日戸(じつはいいひと)さん。今日も、本来は乳房に使われるはずの効果音を、お腹からたゆんたゆんと発している。七月に入り、日中は夏を感じる気候のせいか、額に汗を浮かべて、暑さとそれ以外の理由で頬を桃色に染め、にんまり。

「じゃあ、この桃色と白色のお花ちゃんもらおうかな!んふ!」
「ありがとうございます」

花束にして笑顔と共に手渡す。スマイルはゼロ円ですので。

「そういえば、桜ちゃんのお花ちゃんって不思議だよね!ぴったり同じ日数の日に枯れるんだ!」

お釣りを渡そうとしていた、手をピタリと止めて、実灰さんを見上げる。

「それ、本当ですか」

まさか、法則制があるのだろうか。過去に遡った事、突然花を咲かせれるようになったことの糸口を見つられるかもしれないと、瞳孔が開く。

「僕ちん毎日日記をつけているんだ!だから絶対に合ってるよ!でね日記帳の名前は、なずけて愛の日っk」
「それで、いつ突然枯れるんですか?」
「それがね、必ず四十八日目で枯れちゃうんだ…」
「……四十八日目」

私の花は、前日に咲かせて、朝早く町へと売りに行く。ということは、花は必ず四十九日目で枯れるということになる。

「でも、四十八日目でよかったよ」
「?」
「あと一日長かったら、なんか不吉な数字じゃないか」
「なぜ不吉なんですか?」
「え?四十九日しらない?仏教の」

確かお葬式で人を供養する時に四十九日が一つの区切りとして使われていた気がする。言葉は知ってはいるけど、意味までは考えた事はなかった。

「私、あまり詳しくなくて…、教えてもらってもいいですか?」

未来では、超物理社会になって宗教的な考えは薄まり、お葬式や結婚式なんかも宗教的な意味合いは含まれず、どちらかというとイベント的な扱いで形式だけが残った。なので、成り立ちや何を意味しているのかは何一つ分からない。
実灰さんは、説明を求められて頼りにされたと感じたのか、流暢に語りだす。

「えっとね。人が亡くなると、七日ごとに閻魔大王による審判が行われるんだよね。極楽浄土行きか地獄に落ちるかを決めるんだ。そして七回目の審判、四十九日目で、最後の判定が下され、この世とあの世をさ迷っていた魂の行き先が極楽浄土か、地獄かどちらかに決まるんだ!」

思わず、こっわ…と口に出てしまう。なんだか不吉すぎないだろうか。天国行きか地獄行きか決まる日に枯れてしまうなんて。確かに、他の人の話を聞いた時に大体一月半くらいと言っていたし、もしかしたら、花は全て四十九日を境に突然枯れているのかもしれない。
けれど、と一つ疑問が浮かび上がる。
竈門家の《皆の花畑》と書かれた花壇にある、スズランはまだ枯れることなく元気に咲いている。一番初めに咲かせた花なのだから、四十九日以上は経過しているはずだ。

四十九日はただの偶然なのだろうか。他の人に確かめようにも、普通は花が何日間咲いていつ枯れたなんて数えないだろうし、もし本当に四十九日で枯れるのなら、不吉な噂が広まり誰も買ってくれなくなるかもしれない。

今の段階で答えは出せないけれど、あのスズラン以外の花は永遠に咲くことなく枯れる事が分かった事だけでも収穫としよう。ただ、長く咲くだけの花かもしれないし、四十九日は頭の隅で覚えておけばいいだろうと、思考を締めくくる。


「僕ちんはね、桜ちゃんとなら一緒に地獄d」
「実灰さん、情報ありがとうございます!ではまた!」

お釣りを渡して、今度は薬草を嵯峨山さんや他のお医者さんの元に届けるために踵を返した。

「あ、うん!ばいばい!またね桜ち」


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