36:HPとMPが100000000回復した

「ねーずこちゃん」

語尾にハートマークを付け、花の種をちらつかせながら、訴えるように目を潤わせる。

「もう、…またですか?」
「うん!お願いします!」
「しょうがないですね…」

両手を広げると、言葉とは裏腹に嬉しそうな禰豆子ちゃんが、ぽすんと柔らかく懐に入ってくる。

「桜さん、好きです」
「私はこのために生きている…」

手から零れ落ちた沢山の花の種が地面に落ちるまでに、色とりどりの花に変わる。まるで花畑の真ん中で抱き合っているような錯覚を覚えさせた。

「桜さん、すぐ茶化すんですから」
「ふふ、本気で言ってるもん」

抱き合って顔を近づけて笑い合う。傍から見たら恋人同士みたいな姿だろう。

この間、六太くんに抱き着かれて自動的に咲いた花を見て得た発想。花を咲かせる時に、竈門家の皆に抱きしめてもらい、幸せを生で実感しよう!と。これを閃いた時は自分は天才なのかと思ってしまった。物質の転送システムや五次元空間の理論を完成させた研究並みの大発見ではないだろうか。
もちろんお手伝いや仕事を邪魔しないように、場の空気を読んでしているし、毎回はしつこいかなと考えて一日一回程度にしている。うそ。もっとやってます。
名付けて、抱きッと花ポン簡単なお仕事です、だ。長いので略してギュッポン。
ギュッポンを積極的にしてくれるのは、やはり花子ちゃん。まあ普段からくっついてくるのだけど、頼まなくても嬉々としてやってくれる。茂くんも六太くんも禰豆子ちゃんもさせてくれる。…他二名は、萌え製造機といった所だろうか。


竹雄くんの場合は、ギュッポンをして欲しいとお願いすると、「なんでやらなきゃいけないんだよ!」と顔を真っ赤にして怒った後、走って逃げ去る。追いかけずに壁に隠れて見ていると、竹雄くんは、後ろを振り返り寂しそうな顔をして、肩を落としトボトボと歩き出す。壁に頭をぶつけたい衝動を我慢して、追いかけて後ろから抱きしめると、思春期のかわいらしい反応が見れる。

炭次郎君の場合は、ギュッポンをお願いすれば抱きしめさせてくれるが、抱きしめ返してくれない。顔を赤くしてカチコチに固まり汗で着物を湿らせる。両手はどうすればいいのだろうとさ迷ったあげく、まっすぐ落とされる姿に、最大の癒しと萌えを覚えた。思春期二人組の反応が可愛すぎて、逆に辛いです。


禰豆子ちゃんと抱き合いながら、空想にふけっていると、部屋の入口で私達を見ていたらいしい炭治郎君と目が合った。

「………」
「………」

にこと笑いかける。私のこれからの行動が分かったのか、顔を真っ赤にして、うっ…となる炭治郎君の元に行こうしたら、後ろから肩をつんつんとされる。
振り向くと、葵枝さんだった。

「私にはして下さらないんですか?」
「…え」

腕をくいッとひっぱられて、葵枝さんに抱きしめられる。顔がキスまであと一秒の距離までぐっと近づき

「桜さん、好きですよ」

と魅惑の人妻スマイルで囁いた。

「あ、あ、あ、あ、…」

飛び方を忘れた鳥のように、力なくその場に座り込む。見飽きる事のない美貌と、温かさと妖艶を合わせた微笑み、誘われているのかと勘違いしたくなる囁き。危うく、危険な世界(ユリのせかい)に飛び込みそうになってしまった。
葵枝さんは、悪戯が成功して楽しかったのか、ふふふと笑っていた。
……炭治郎君と竹雄くんを揶揄うのは控えようと思いました。










※大正コソコソ噂話※
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