31:花売りの少女

初めて花を開花させた日から五日後の今日。二十四節気でいう立夏の日。炭治郎君と禰豆子ちゃん花子ちゃんと共に、隣町へと来ていた。


「あ、北路(ほくろ)さん!お花おひとついかがですか?」

偶然通りかかった、仕事を紹介してもらったりと色々とお世話になっている、顔に沢山ホクロがある北路さんに、自分の中で最大限の笑顔と共に一房のスズランを差し出す。

「おー!嬢ちゃん!今日は花を売ってるのか!」
「はい!今度からお花売りを初めることになりました。よろしくお願いいたします」
「そーかい!べっぴんさんの花なら買わねーわけにはいかんな!一つもらうか!」
「ありがとうございます。いつもお世話になってるので一つおまけです」
「こりゃー嬉しいね!ありがとうな嬢ちゃん!」

女房にやるかと幸せそうに帰る北路さんに、手をふり見送る。
スズランも残り僅かとなり籠が随分軽くなった。逆に重みを増した小袋を上下に軽くふり、金属のこすれる音に満足気に頷く。

今回で花を売るのは二回目。花を咲かせる力に気付いた翌日にスズランを抱え、募る気持ちのまま、炭治郎くん達と共に町におり、炭売りと同時進行で花を売れば結果は上々。これはいけるぞと、花売りをしていくことを決意した。
それに花売りは色々と都合がよかった。竈門家の皆と一緒に町に降りて、炭売りを手伝いながら同時進行で花売りもできるので一石二鳥。しかも原価はゼロ。竈門家の住む雲取山には様々な野花が自生しているので、少し頂戴し開花せる。さらに花から種を取り開花させればエンドレスリピート。
まぁといっても、花も高く売れるものではないから、一気に稼ぐのは難しいので地道に売っていくしかない。けど本当の正念場は秋と冬。大正時代だからまだ寒い時期の栽培技術はないので生花が珍しい秋冬に売れば、今以上に恩返しへの道筋に陽光が差し込んでくる、というわけだ。
花を咲かせるだけなんてショボい力だなと思ったけど、私の今の状況を考えると、ある意味とても都合が良い力だ。ようやく金銭面で助ける事ができると、気合いも入り込む。そしてなによりも、お花を見て笑顔で帰っていく人たちに心が温まった。


「桜さん、楽しそうな目してるな」
「どちらかというと、あれは商人の目つきよ。お兄ちゃん」
「あ!お兄ちゃんお姉ちゃんあいつがきたよ!」

花子ちゃんが炭治郎君の着物をひっぱり、指をさす。睨むようにみた先の人物は、竈門家に敵視されている…いた間座紺(まざこん)さん42歳。これは、皆が妄想でつけた名前で、本当は実灰五日戸(じつはいいひと)さん32歳。実灰さんは、お腹をたゆんと揺らしながら走ってきた。

「こ、こんにちは桜ちゃん!今日もお花売ってるの?」
「こんにちは、実灰さん。お花いかがですか?」
「全部もらうよ。ついでに桜ちゃんも、、なんちて!なんちて!」

くねくねと奇妙な動きで一人で勝手に照れている。実灰さんは、実はいい人なんだけど、少しだけき……変わった所がある人だ。
けれど、桜生花販売店はどんなお客様にも笑顔で対応します。

「あははー。お花全部で−−−−円になります」
「あれ?桜さん計算間違えてますよ?それじゃあにばい、ぶっ」

善意100%で教えてくれた炭治郎君の口を、バシンと痛そうな音を立て禰豆子ちゃんが手でふさぐ。ありがとう禰豆子ちゃんと視線を送ると、どういたしましてとアイコンタクトが返ってきた。

「安いね!はい、お金」
「ありがとうございます」
「桜ちゃん、この後僕ちんと一緒に」
「じゃあ皆帰ろうか!実灰さんまた御贔屓に」
「あ、うん!またね!桜ちゃん!」


頭を下げてから、実灰さんと反対方向に歩き出す。花子ちゃんだけは今だに敵視しているのかこっそりとあっかんべーをしていた。
実灰さんが見えなくなった所で?マークを浮かべている炭治郎君に向き合う。

「炭治郎くん。なんでアイドルの握手やTシャツがあんな高額なのに売れると思う?」
「アイドル?てぃーしゃつ?」
「ただ他人と握手しているだけ。ただのプリントされたTシャツを着ているだけ。なのに、握手を求め何万ってお金を叩く。機能価値だけで言えば500円のTシャツと変わりないのに、十倍以上もする値段で購入する」

話の意味は分からないだろうに、どこか必死な私に圧倒された様子ながらも聞いてくれている。

「高額なお金を払ってでも買いたい。そこに購入者が付加的な価値を見出しているから。何万円払ってもあの子と握手がしたい、触れ合いたい。普通の何倍もするTシャツでも、あの子がプリントされたTシャツを着ることで、あの子を身近に感じる事ができる。一体化した気持ちになれる。そういった付加価値があるからよ」
「は、はい」
「実灰さんは、私が売る花に、なんらかの付加価値を見出したから、購入した…。そして実灰さんは酒屋の息子(いいとこのおぼっちゃん)」

就活が上手くいかず、焦っていた私にようやく金銭面での恩返し方法が見つかった。早く借金?を完済して、いっぱい稼いで美味しいものをいっぱい食べさせてあげたいの。掴んだ藁を放すまいと私も必死なんです。私はこの世界にケータイ以外何も持っていないから。

目を見て語るようにゆっくりと発音する。

「これは、適正価格よ」

炭治郎君は、汗を垂らしながら、こくこくと頷いた。

「200倍でもよかったよ!」

花子ちゃんの強烈な援護射撃に続き、よよよと泣き真似をする。

「あくどい女だと思わないでね…。私には守りたいものがある、楽をさせたい人がいる。そう思うからこそ時には取捨選択をしなければならない事をわかってほしいの。安くして独占禁止法にひかかってるわけではないし、法外な値段でもない…。一定額以上の売買額は自由業主の自由…。もちろん《適正価格》の人は選ぶよ?」

貧しい人や普通の人にはそんな事しないからね。

「うちは炭売り、物売り屋ですからね。お兄ちゃんは優しすぎる所があるので、桜さんみたいに少ししたたかな面がある人の方が、バランスが取れてちょうど良いと思います」

なんのバランス?



※大正コソコソ噂話※
北路(ほくろ)さん51歳男性。顔に沢山のホクロがある。なぜか顔以外の身体にはホクロが一つもない不思議。快活で嫌みのないさっぱりした気のいいおじさん。人望があり町内の代表みたいな感じ(町長ではない)。奥さんと子供、孫がいる。
実灰五日戸(じつはいいひと)さん。竈門家に勝手に色々と捏造されていたが、実はいい人。今でいうボランティアとかやってる。わがままボディー。優しい男性だが、恋愛初心者過ぎて表現が行き過ぎてしまう。隣町の中ではそこそこの金持ち。動き方が変わっているのと、妙にイラっとする喋り方が彼の欠点となっている。良い人みつかるといいね。


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