29:一度は夢みる

「「「…………さ、咲いたーー!!!」」」
「ほんとうにさいたー!!」
「桜おねえちゃんすごい!!花咲いたよ?!」
「どうやったの?!ねぇねぇどうやったの?!」

大騒ぎである。花子ちゃん、茂くん、六太くんは興奮しすぎて、私の体にへばりつき、揺さぶり質問攻撃をしてくるほど。子供のねぇねぇなんで?どうして?攻撃だ。

「わ、私もよくわからないけど、幸せだなー嬉しいなーって思ってたら、いつの間にか咲いていたの」
「桜おねえちゃんもう一回やって!もう一回やって!」
「すごい!!すごい!!」
「はな!はな!さいた!」

花子ちゃんは背中に覆い被さり、茂くんは襟元を掴み揺さぶり、六太くんは膝をバシバシ叩いてくる。子供のパワフルさに押し負けそう…。

「ひ〜。さ、3人共、落ち着いてぇ〜」

炭治郎君、禰豆子ちゃんは下の子達の様に騒いだりしていないけど、驚きに目を丸くしている。それになにより、私自身が一番驚いている。この17年ただ平凡に生きてきただけなのに、ある日突然、過去に遡ったり花を咲かせたりして、何だか私……。







「俺はこの力の正体わかったぜ…」

いつの間にか部屋のすみに座り、影のある男のように、左手で顔を覆いうつむき加減に話す竹雄くん。
まだ、興奮収まらない場だけれど、何かを理解してしまった様子の竹雄くんに視線が集まる。
竹雄くんは、場の主導権を握るように、はっきりと宣言した。


「これは、《念能力》だ」


一斉にしーんと静まりかえる。


「そして、《操作系》だ」


竹雄くん?なんでさっきから、右手を力を込めるようにグーにしてるの?力みすぎて震えてるよ?もしかして、俺も鍛えれば念能力発動出来るかもしれない。って思ってる?その右手はオーラを操ろうとしてるのかな?

この時私の頭の中を占めた感情が、
やばい。アニメや漫画、ゲームの話をしすぎた…。
だ。
このままでは、彼は数年後にある病気を患ってしまう。

「竹にぃなに言ってるの?」

私の背中から降りて仁王立ちし、竹にぃは本当バカだよねと呆れ顔の花子ちゃん。
よかった。彼の病気の進行を止めてください。




「悪魔の実の力に決まってるでしょ」

どん!と、追撃の一手を決めた。

「ちがうよ!悪魔の実なら桜おねえちゃんは、お風呂で溺れてるよ!きっとチャクラを使った忍術だよ!」

茂くん…その手の形は、忍者がよくするやつだね?

「にーに、ねーねちがうよ。はなぽけもんのわざだよ」

六太くん…は、まだかわいらしい…。


下の子達と竹雄くんが、またもやワイワイと騒ぎだす。議題が花咲いてビックリから、花咲きの能力は何か。にすり変わっている。

「皆、落ち着つけ!」

炭治郎君が声を張り上げた。真面目な顔をしているのを見て、一安心。よかった、炭治郎君はまともだ。流石長男、黒歴史へと進まんとする弟妹達を正しき道へと導いて下さい。




「これは、シシガミ様の力だ」

アシタカのような曇りなき眼をしている。うん、そうだったね。君は全力でボケ側だったもんね。


「お兄ちゃん違うわ。これはマナを駆使した、魔法よ」

禰豆子ちゃんは、分かっていてわざと悪ノリするところがあるから、今回も冗談で言ってるんでしょ?そうなんでしょ?そうだよね?と、顔を覗くと、結構まじな顔をしていた…。

あぁ。どうしようと頭を抱える。竈門家の皆が大正時代の人間とは思えない内容で大騒ぎをしている。確実に私のせいだけど、私なんかじゃ、この場をおさめきれない。

「葵枝さん助けて下さい……」

先程から一言も喋っていない葵枝さんに、助けを乞うべく振り向くと、葵枝さんは私を拝んでいた。
……………違いますからね?竈門家はヒノカミ様を祀ってるんですよね?私はハナノカミ様とかじゃないですからね?祀らないで下さいね?



てんやわんやで騒ぐ皆を止めるのを諦めて、現実逃避するように部屋の隅に体育座りし、ある可能性に思考を巡らせていた。






私は、ごく平凡に生きていた普通の女子高校生だった。それがある日突然不思議な空間にいて、気付けば大正時代に遡っていた。死にそうになったり、優しい家族に拾われたり、花を咲かせる能力が発揮されたりして…、何だか私………。何だか私…!






「なぁ、花を咲かせる以外にも違うことができるんじゃないか?」

竹雄くんの発言に、それだ!と皆が続く。

「忍術みたいに植物を操って攻撃したり!」
「どくのこなやしびれこなだしたり!」
「薬草で傷を癒したり」
「花の精霊を召還できたり」
「お花とお話できたり」
「絶対にできるよ!」
「未来人だもん!できるよ!」
「桜おねえちゃんやって!やって!」

一斉にキラキラ輝く瞳に見つめられる。明らかに花を咲かせる前とは、目の輝き方が違う。前がガラスのキラキラなら、今は100カラットのダイヤモンドみたいにキラキラ輝いている。


私はため息をついて立ち上がる。


もうみんな、ホントに夢みすぎなんだから。300年先の未来だって、仮想現実-バーチャルゲーム-としてなら出来るけど、リアルでそんな事出来る人はいないんだよ?


床に置いてあるスズランと残りの種の前に移動して、両手を広げ、ポーズを決め、詠うように発する。



「咲き乱れ踊れ、祝福を司る花の精霊たちよ!!」



はい、私も調子にのってます。
だって、仮想現実世界の技みたいなの実際に使えちゃうかもなんだよ!?それに、過去に遡ったり花咲かせたり、何だか私……私…!ゲームやアニメの主人公みたいじゃない?


花を咲かせた事実と純粋無垢な瞳の期待に、現実的じゃないからと奥底に眠らされた願い、一度は誰でも夢みる《魔法が使えたらいいな》がたたき起こされ、有頂天になる。気分はすっかり、RPGや超能力漫画の主人公気分だ。


戻ル


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